第六十五話 バカの考えは気持ち悪い
兄貴はゆっくりと全員の顔を見回しながら一人一人に問いかけるようなまなざしを向けていた。私にはその光景がとても奇妙で気持ち悪い嫌な時間に感じていた。
その予感は、的中してしまった。
「お前たちも俺のようになりたいか?」
兄貴が煽るとそれに対して絶叫かの如く答える魔物たち。その中心にいる私には地響きのようなうなり声と超音波のような衝撃波に襲われて立っているのもやっとの状態だった。
それが延々と続いてしまうかと思うと、本当に勘弁してほしかった。
「お前たちは大きな勘違いをしていることに気付いていない。それが何かわかるか?」
先ほどの煽りにはうざいほどの声量で応えていた魔物たちも今回の問いかけには答えられなかった。
その問いかけの答えが何なのか微塵も興味ない私はこの場を去ろうとしたのだが、兄貴が私の事を指さして全員に注目させてしまった。皆に見られているこの状況でコッソリと逃げるなんてことは出来ず、全員の注目がそれるのを待つことしかできなかった。
兄貴が喋りだせば全員の注目がそちらに向くはずだと思ったのだが、兄貴が喋りだしても私の事を見ている魔物がそれなりに存在していた。
「イイか、人間って言うのは俺たち魔物よりも世間体ってやつを気にする生き物だ。普通に接していたら魔物である俺たちと仲良くしようなんてのは物好きな奴しか存在しない。でもな、俺たち全員がそんなモノ好きな奴を探し出して仲良くなることなんて出来やしない。俺みたいに運がいいやつは別として、普通に生きていたらそんな奇跡に巡り合うことなんて出来やしないんだ。だったらどうすればいいと思う?」
兄貴の質問に対してちゃんと答えられるものはまたしても存在しなかった。
こちらの質問も私にとって何の興味もないモノだったが、私が興味を持っていないのを知ってか知らずか魔物たちの視線はどんどんと私に向いてしまっていた。
そうさせるように兄貴が誘導しているとしか思えなかった。
「いいか、世の中ってのは俺たちにとって都合の良いようには出来ていない。これは悲しいけれど事実なんだ。どっちかって言うと、人間にとっての方が都合よくできているんだと思う。それに対して反論する奴なんていないと思うけど、何か意見があるんだったら遠慮なく言ってほしい。……誰もいないようだな。それは結構なことだと思うよ。ちゃんと現実が見えてるってことは、これからの時間を有意義に使えるってことだからな。じゃあ、早速だが本題に入ろうか。今ここにいる可愛い女の子は、残念なことにここにいる誰の事も好きになることは無いだろう。それもみんな納得してくれるよな?」
この質問だけは私も納得して頷いてしまった。私が魔物に対して何か特別な感情を抱くとしたら、それは殺意以外にはあり得ないだろう。今は別に殺意を向けるようなことも無いのだが、今後の展開次第では今の状態を維持できるとも思えない。
むしろ、私が不快に思っている時間が増えれば増えるほど殺意を向ける確率が高くなっていくような気もしていた。
ただ、兄貴の言葉次第ではあるが、命だけは見逃してあげてもいいんじゃないかと思っている。
ある程度のバカであれば笑って許してあげるのが大人のふるまいだとも思うのだ。まあ、私はまだ子供なので許してあげなくても問題は無いか。
「あのさ、兄貴の言っていることは理解出来るんだけど、この女の子に好きになってもらわないと俺たちは限界突破出来ないんじゃないのか?」
「そうだよな。兄貴の話を聞いているとこの女の子が俺たちの事を好きになるわけがないとは思うんだけど、それでもこの女の子に好きになってもらう方法でもあるって言うのかい?」
「兄貴はさっき自分で言ってたじゃないか。普通の人間の女の子は俺たち魔物の事を好きになったりなんてしない、そんなのは物好きだけであってこの女の子は物好きなタイプじゃないってさ」
「そうだそうだ。この女の子は確かに可愛いし品だっていい。何だったら、今まで見てきた女の子の中でも一番可愛いって言い切れるほどだ。そんな女の子が興味のかけらも持ってないような俺たちの事を好きになる方法があるとでも言うのかい?」
私がこいつらの事を好きになる方法があるとは思えないし、そんな魔法みたいなものがあっても私には一切効果が無いと思う。私の事を精神的に支配できるのはお兄ちゃんだけだと思うし、こいつらがお兄ちゃんに頼んだとしてもそんな事を絶対にしないと思うのでこいつらには不可能だと思う。
それ以外に方法が有るとも思えないし、こうやってみんなの興味をひいてから適当な事をやって信者を集めるのが兄貴のやり方なのかと勘繰ってしまった。
「そんな方法は存在しないってお前たちは思っているんだろう。でもな、お前たちが考えているよりも簡単なことでこの可愛い女の子がお前たちの事を好きになる方法があるんだよ。そいつはな、この女の子にお前たちの子供を産ませればいいんだよ」
うわ、本当にドン引きな事を言っちゃった。
私が想像していたことの何倍も最低なことを言ってしまった。
この兄貴もやっぱりバカなんだなと思ってしまったけれど、魔物たちはなぜか納得してその気になっている者もいる。
お兄ちゃん助けて!!
心の中で叫び続けてしまった。




