第六十一話 お兄ちゃんの力
建物を解体する時に使うような鉄球付きのクレーンがあれば自動ドアも壊せるんじゃないかと思うんだけど、こんな狭い場所にそんな大掛かりなマシーンを用意することなんて出来やしない。
城門を壊すときに使う丸太ならいけそうな気もするのだけれど、壊せるだけの重量がある丸太を用意することも難しい。魔法で何とかできそうな気もするのだけれど、今の私には自動ドアを壊せそうな丸太の事をイメージすることがどうしても出来なかった。
不思議な力によって自動ドアが守らているとしか思えない。
そんな時にどうすればいいのか、私には頼れるお兄ちゃんがいるじゃないか。
「お兄ちゃん、今大丈夫?」
「え、ゆま? 近くにいるの?」
「ううん、全然近くにはいないよ。何となくこうしたらお兄ちゃんとお話が出来るんじゃないかと思って試してみたの」
「おお、何でもありだな。それで、どうかしたの?」
「ねえ、何か用事がないと話しかけちゃダメなの?」
「そう言うわけじゃないけどさ、何か困ってることでもあるのかなって思ったんだよ」
「そうなんだよ。ちょっと困ったことがあってね。お兄ちゃんの力を貸してもらいたいなって思ってたの」
「なんだ、やっぱり用事があったってことじゃないか。力を貸してあげたいのはやまやまなんだけど、ゆまがどこにいるのかもわからないから今すぐそっちに行くのは難しいかもしれないよ」
「それは大丈夫。お兄ちゃんが力を貸してくれるって言ってくれたからさ、ゆまは頑張れる気がするし、何とかなると思うんだ」
「そっか、それなら良かったよ。じゃあ、また何か困ったことがあったらいつでも連絡してくれよ」
「困ったことがないとダメなの?」
「そうじゃないけどさ、いつでもいいよ」
「ありがとう。ところで、お兄ちゃんの近くにいる女の人ってうまなちゃんとイザーちゃんじゃないよね?」
「え、近くにいる女の人って、知らない人なら同じ店に何人かいるけど」
「一緒に何かしているってわけじゃないんだ?」
「もちろん、うまなちゃんとイザーちゃんが戻ってきたけど、何か話すことはある?」
「特にないかな。じゃあ、また連絡するね」
お兄ちゃんの近くに知らない女がいた。これは間違いないことだけど、お兄ちゃんと一緒に何かしていたということは無いみたいだ。
たぶん、うまなちゃんとイザーちゃんと一緒に入ったお店でたまたま近くの席に座っていたとかそんな感じだろう。どんな店にいたのか後で詳しく聞いてみる必要があるかもしれない。
「あの、さっき誰かと喋ってたみたいだけど、ひとり言ではないんだよね?」
「ひとり言じゃないですよ。遠くにいるお兄ちゃんと話が出来たらいいなって思って話しかけてみたところ、ちゃんとお兄ちゃんと繋がったんです。魔法とは違う特別な力かもしれないですね」
「ああ、そうなんだ。それは良かったね。それで、何とかなりそうなのかな?」
マスターは少し不安そうな表情を浮かべているが、私には何をそこまで心配することがあるのかと思っていた。お兄ちゃんが力を貸してくれると言ったんだから、何も心配することなんて無いのにね。
「大丈夫ですよ。お兄ちゃんが力を貸してくれるって言ってくれたんで」
「そうなのか。君のお兄さんは凄い人だって言ってたし、どれくらいでココに来てくれるのかな?」
「ここには来ないですよ。お兄ちゃんには他に用事があるみたいだし、まさ先輩と会わせるわけにもいかないですからね」
「まあ、基本的には魔王に合わせた方が良い人間なんていないんだけどね。で、ここに来れないのにどうにか出来るって言うの?」
「もちろんですよ。私とお兄ちゃんの力を合わせればなんだって出来ちゃうですから」
力を貸してくれると言ったお兄ちゃんの言葉を信じ、私は誰よりも力強く深くお兄ちゃんのために祈った。
その祈りは通じ、僅かな時間ではあったがもう一人のお兄ちゃんを錬成することに成功したのだ。
「いったいどこから現れたんだ?」
マスターが驚くのも無理はない。
作り物のお兄ちゃんは何もないところから急に現れたのだ。
何の予兆も痕跡もなく急に現れたのだから、誰だってびっくりするだろう。
だが、そんな事を説明している時間は無いのだ。
このお兄ちゃんの寿命は一分もないと思う。
この世界に存在していられる時間は、本当にわずかしかないのだ。
「お兄ちゃんの力だったらあの自動ドアを壊せると思うんだ。お願いしてもいいかな?」
顔も何もないお兄ちゃんだったけど、私の言葉を聞いて小さく何度も頷いてくれた。
最初は叩いてみたり蹴ってみたりと普通の攻撃を試していたお兄ちゃんではあったが、全く効果がないという事に気付いてからは遠心力を使って肘で攻撃をしてみたり、飛び上がる勢いを活かして膝を叩き込んでいたりもした。
それでも、自動ドアは壊れることもなくその場に鎮座していた。
もしかしたら、ほんの少し歪んできているのかもしれないけれど、私の目では小さな変化に気付くことは出来なかった。
「すごい攻撃だけど、びくともしないもんだね」
「そうかもしれないけど、お兄ちゃんならやってくれると思う」
さすがのお兄ちゃんも疲れてきたのか、両手と頭を自動ドアにぴったりとくっつけて倒れてしまうんじゃないかと思うくらいに前傾姿勢をとっていた。
はじめは休んでいるのかと思ってしまったけれど、どうやらお兄ちゃんは全体重をかけて自動ドアを押しているようだ。
ただ、普通に押しただけでは意味がなさそうにも見えるけれど、お兄ちゃんの足は力を籠めるたびに地面をえぐっていった。それくらい強い力が込められているみたいだ。
お兄ちゃんに残された時間はあとわずかかもしれないけれど、自動ドアの耐久力も限界に近いのかもしれない。
ほんの少しではあるが、自動ドアが歪んでいるように見えてきた。




