第五十七話 謎の通路
嘘の度合いによって受けるダメージが変化する斧らしいのだけど、私は嘘なんて何一つついていないので全くダメージを受けることが無かった。
私に向かって振り下ろしている時は門番の手に斧の重みがしっかりと伝わっていたようなのに、私に触れた瞬間に斧が羽毛のような軽さに変化してしまったために上半身の関節という関節に負荷がかかって耐えきれなくなってしまい、上半身のほとんどの個所が脱臼して失神してしまった。
わざわざ起こすのも違うだろうという事になり、私は閉ざされていた入り口を強引にこじ開けて中へと進んでいった。
当然一緒についてくるものだと思っていた愛華ちゃんは中に入ろうとはせず、遠くから私の事を応援してくれていただけだった。
建物の中は案外狭く、誰かが正面から向かってきたら半身になって避けないとすれ違えないんじゃないかと感じていた。
ただ、誰かが正面からやってくるという事もなく、ひたすらまっすぐ伸びている道を歩き続けることしかできなかった。どんなに進んでもどこにもたどり着くことが出来ず、後ろを振り返っても入ってきた場所が見えないくらいに道が続いていた。
さすがにこれはおかしいんじゃないかと思い始めていた時、ほんのかすかにではあったが誰かが近くで笑っているような声が聞こえてきた。
この辺から聞こえてきたような気がすると思い、壁に手を当てながらじっくりと調べてみると一か所だけ他とは違って柔らかいところを見つけてしまった。今までどこかで触ったことがあるような初めて触ったような不思議な感触ではあったが、ここに何かしてみたら違う場所に行けるのではないかと思って行動に移してみることにした。
とりあえず、柔らかい部分を掴めるかどうか確かめることにしたのだが、他の壁とは違ってほんの少しではあるが柔らかい部分をつまむことが出来た。力を入れてつまもうとすると上手につかむことが出来なかったので、ゆっくりと優しくなるべく力を入れないようにしてみたところ、思っていたよりもしっかりとつまむことが出来たのだ。
つまんだものをいったん離し、今度は両手で大きく包み込むようにしてみたところ、ちょっと大きめな梨くらいのかたまりをつまむことが出来たのだ。
一度つまむことが出来ればあとはどうとでもなると思い、私はそのかたまりを逃がさないようにしっかりと両手で包み込むように押さえこんだ。そのかたまりがかすかに脈打つかのように動いていたのを確認し、その動きに合わせて思いっきり引っ張ってみた。
私が引っ張る力に反発するかのように壁の中へと戻ろうとするかたまりを必死におさえつつ引っ張る私。両者の攻防がしばらく続いたのだが、私の努力もむなしく少し柔らかい塊は指の間をスルスルと通り抜けて壁の中へと戻っていった。
何度試しても結果は変わらず、引きちぎれそうなところまではいっても最終的には元に戻ってしまう。ここを切り抜けるためのヒントが他に見つからなかった私は簡単に諦めることが出来なかったのだけれど、何度やっても結果が変わる兆しすら見えなかったので諦める方が良いのではないかと思ってしまった。
いや、他の方法があるんじゃないかと考えてみた結果、あの狭い空間で無理につまもうとせずにもう少し広い空間でつまめるようにした方が良いんじゃないかという結論に至った。
私は、あの柔らかい部分をつまむのではなくしっかりと掴めるように、周りの壁を破壊してみるとにした。
壁を壊す道具なんて持っていないし、持っていたとしてもそんなものを扱える自信なんて無い。壁を壊すような道具を使う資格も無ければ知識もない。私にあるのは壁を壊したいという思いだけだ。
思いだけでどうにかなるんだったら楽なもんだと思った瞬間、私の頭の中に壁を壊す魔法のイメージがしっかりと出来上がっていた。
私は柔らかい部分に触れないように広げた両手を固い壁に向かって伸ばし、その壁が砂になってサラサラと零れ落ちていく魔法を思い描いた。
イメージをハッキリさせ目の前の壁が砂になって消えるところを想像したとき、目の前にあった壁は消えてなくなり残っていたのは壁と同じ色をした奇妙な塊だった。
その塊は先ほど触れた時と同じように柔らかくつまむと逃げようとするのだが、何か特別な意思を持っているようには感じられなかった。
ただそこに存在しているだけで、私に何か危害を加えようとするでもなく同じ形を保とうとしているように見えていた。
結局、その柔らかい物体の正体が何なのか知ることも出来なかった私はそいつを無視して前へ進むことにした。
どれだけ進んでも何も変わらない永遠に同じところを歩いている気分にさせる道。
私は道の真ん中に立ち、両手を目一杯広げて指先で壁を触りながらゆっくりと前へ進んでいく。
ある程度進んだ時に立ち止まり、後ろを確認してみた。
そこに広がっていたのは、砂の山ではなく痙攣しながら倒れている初めて見た男だった。
全く見覚えが無かったし、こんなところにいるのは明らかに不審だと思うので近付くこともしなかったけれど、いくら歩いても痙攣しながら倒れている男との距離が開くことは無かった。
こいつは倒れて痙攣しているだけなのに、何が起きているのかさっぱりわからなかった私は仕方なく倒れている男の髪を掴んで歩いてきた方にいったん戻ることにした。
指に伝わってくるブチブチという感触で男の髪が多少抜けたのはわかっていたけれど、お友達でもないのに手や足を掴むのもどうかと思ったので髪を掴んでいた。多少髪の毛が抜けたところで影響はないだろうと思っていたのに、結構な頻度で掴んでいた髪の毛が全部抜けてしまって男の顔が思いっきり地面に叩きつけられている事があった。
お友達じゃないから別にいいかと思いながらも、掴める髪の毛がほとんどなくなったタイミングで柔らかい塊があるところまで戻ってくることが出来た。
この柔らかい塊と痙攣している男の組み合わせで何かが起こるはず。
私はその奇跡を信じて行動をおこすことにしたのだ。




