第五十六話 門番が二人
北の宮というのは妖精たちにしか通用しない呼称であって、愛華ちゃんたちは復刻城と呼んでいるそうだ。
まさ先輩が復刻城で何をしているのか別にどうでもいいし、そこにいてくれればいいのでそれ以上の事は何も望まない。心配性の愛華ちゃんは魔王であるまさ先輩が私の事を襲わないかと考えているみたいだけれど、そんな事を考えているようだったら返り討ちにしてやればいいだけの話なのだ。
「復刻城っていろんなキャンペーンを復刻させるために作られたんだけど、最近だったら箱アイスを買ったら抽選でゲームが当たるってキャンペーンを復刻させてたよ。復刻キャンペーンなので当時のゲームソフトを再現してるみたいなんだけど、そのゲームソフトを遊ぶためのゲーム機を誰も持ってないっていう意味不明なキャンペーンになっちゃったんだ」
「それは意味の分からないキャンペーンになってるね。そんなの貰っても仕方ないでしょ」
「ゆまちゃんの言う通りなんだけど、私の友達がそのゲームソフトを当ててどうしていいかわからないって困ってたんだよ。ゆまちゃんのお兄ちゃんだったらどうにか出来るかな?」
「無理じゃないかな。お兄ちゃんにそんな知識はないと思うよ。そもそも、普通の人にゲーム機を作るなんて出来るわけないと思うよ」
「そりゃそうだよね。でも、誰かゲーム機を作れる人いないかな?」
この世界のまさ先輩がゲームに詳しいのかわからないけれど、私の知っているまさ先輩だったらパソコンで昔のゲームを遊んでいたような気がする。もしかしたら、まさ先輩のお父さんが詳しくてゲームだけやっていた可能性もあると思うけど、聞いてみる価値はあるんじゃないかと思う。
「とりあえず、まさ先輩を見つけたらゲーム機を持ってるか聞いてみよう」
「そうしてもらえるのはありがたいけど、魔王に会って最初に聞くことじゃないと思うな」
「まあ、そんなのは気にしなくても大丈夫だよ。魔王って言っても、所詮はまさ先輩だし」
「ゆまちゃんもお兄さんも魔王の事を軽く見てるのが凄いよね。今の魔王って歴代の中でも最強って言われてるくらいの実力なのに、お兄さんはほぼ無傷で帰ってきたもんね。あの状況でなんで生きているんだろうってうまなちゃんもイザーちゃんも不思議がってたくらいだし」
「まさ先輩が最強って、今までの魔王が弱かったってことなんだね。でも、なんでまさ先輩は復刻城なんかにいるんだろうね?」
「さあ、何か復刻しようとしているんじゃないかな?」
まさ先輩が復刻したいものっていったい何だろう?
小さい時にお兄ちゃんと三人で遊んでいた時に壊しちゃったヘビのオモチャなわけがないし、まさ先輩が好きだったお菓子とかアイスって可能性はあるのかもしれない。当時の味を再現できるかは微妙だと思うけど、私ももう一度食べてみたいと思っているアイスだったらいくつか思い浮かべることが出来る。
そんな事を考えながら復刻城に近付くと、入り口のところにいかにも門番ですよといった感じの魔物が二体こちらに向かって威嚇をしてきた。愛華ちゃんはいつの間にか姿をくらませていたのだけれど、戦闘向きじゃない彼女にはそうしてもらう方がこちらとしても助かる。愛華ちゃんを守りながら戦うとなると、魔物で遊ぶってことが難しくなってしまいそうなんだよね。
「おっと、悪いな。今日からしばらくの間、ここは魔王様の貸し切りになっているんだ。これ以上奥には進ませるわけにはいかないな」
「ってことは、この中にまさ先輩がいるってことか?」
「ずいぶんとなれなれしいな。魔王様に対してその呼び名で呼ぶとは、お前はこの前の勇者の仲間か?」
「勇者って、お兄ちゃんの事かな。お兄ちゃんは別に勇者じゃないんだけど、仲間っていうか妹なんだけど。ちなみに、まさ先輩とは幼馴染だったりするよ」
「どことなくあの勇者に似ているとは思うが、魔王様と幼馴染とはおかしい話だな。我々は誰一人として、勇者の事もお前の事も知らないんだが、魔王様と幼馴染であれば我々とも面識はあるはずだよな」
「それって、俺たちに対して嘘をついているってことになるんじゃないかな?」
「そうなってしまうな。俺たちに対して嘘をつくという事が、どういう意味なのか分かっているのか?」
「いや、嘘なんてついてないし、お前たちに嘘をついたらどうなるのかなんて知らん。いったいどうなるんだ?」
門番ですとアピールしている魔物たちはどこから出したのかわからないが大きな斧をしっかりと握って私に向かって再び威嚇を始めてきた。
そんな事をされたくらいで私が驚くと思っていることに呆れつつも、私は二人の斧がちょうど届きそうな位置に体を移動させた。
「ずいぶんと度胸があるんだな。この斧の特性を知っての行動か?」
「いや、何も知らない。何か特別な力は感じるけど、そこまで脅威には思えないよ」
「そう強がっていられるのは今のうちだけだ。今すぐ二人まとめてあっちに送り返してやるよ」
うーん、私だけではなく二人まとめてってことは愛華ちゃんの事もバレてたってことになるのかな?
たぶん、愛華ちゃんは物凄く慌ててると思うけど、それを確認しようと振り返るのもよくないよね。もしかしたら、どこに隠れているかまではわからないかもしれないし、重そうな斧も見掛け倒しって可能性もあるからね。
「俺たちに対して嘘をつけばこの斧は重くなる」
「嘘の度合いに応じて重さはわかるんだが、お前のついた嘘はどれくらいの重さになるのか楽しみだな」
門番二人がしっかりと斧の柄を両手で握って私めがけて振り下ろしてきた。
あんなに重そうなものを上手にコントロールするもんだなと感心してしまうくらい綺麗に左右の肩をそれぞれ狙ってきたのだ。
これだけのコントロール技術があれば薪割りも得意そうだなという感想が先に出てしまうだけで、私の両肩には何の痛みも重さも感じられなかった。




