第五十五話 爆発のあとで
目の前で矢が次々と爆発しているのは壮観だった。それぞれの爆発が一瞬のこと過ぎて全てを目で追うことは出来なかったけれど、色々な場所で複雑な模様を作り出しているのが一瞬の芸術のようにも見えていた。
ただ、私に届いているのは爆発したときに発生している光だけで、音も衝撃も届いておらずダメージは一切なかったのだ。
どれくらいの時間が経ったかわからないが、爆発がおさまり視界がひらけてきた時に目が合った妖精の驚いた顔はあまりにも不細工すぎて笑いをこらえるのが大変だった。
「盛大な歓迎、大変恐縮でございます。私の前にここに来た人にも別の手段で歓迎してくれたみたいですが、いったいどんなお返しをしたらいいでしょうか。そうですね、まずは村長さんにお礼をしましょうか」
ちょっとだけ意地悪をしたくなった私は慎重に歩き出した。
先ほどの爆発によって地面が大変なことになっているので歩く場所を探すのも大変なのだが、いざとなったら飛んでしまえばいいだけの話なのだ。この歩きづらい場所を進むのと空を飛んでいくのだとどっちが疲れそうなのか考えてみたところ、僅差ではあったが空を飛んだ方が疲れてしまうのではないかと考えた。そこまで大きな差でもないとは思うので、村長が逃げようとしたら飛んで追いかけることにしよう。
だけど、そんな私の予想を裏切ってくれた村長は何も言わずにじっとこちらを見つめて立っている。覚悟を決めた顔とは言い難いものの、全てを諦めてはいないように見える。まだ何か攻撃手段が残っているのかもしれないと思いつつも、どうせ大したことは無いだろうと考えた私は何のためらいもなく近付いていく。
「あんた、普通の人間じゃないのか?」
「失礼な。私は普通の人間ですけど」
「普通の人間があの数の爆弾を処理することなんて出来るはずがないだろ」
「あの数って、そんなに凄いモノでもなかったと思うんだけど。小さいのをたくさんじゃなく、一つに集めて大きいのを一発の方がダメージあったと思うよ」
「そんなことしたらこの村が吹き飛んじゃうだろ」
「それもそうか。でも、その程度でも私にはきかないと思うけどね」
「やっぱ、あんたは普通の人間じゃないよ」
「失礼な」
そんな話をしている間に私は気味の悪い妖精たちに囲まれていた。その一人一人をさっと見た感じ、危ない薬でもやっているんじゃないかといった虚ろな表情で視線も一定ではなくフラフラとどこを見ているのかわからなかった。
本当に気持ち悪い村だなと思いながらも無視していたところ、村長の合図と同時に妖精たちが私に抱き着こうとしてきた。
「そんな、バカな」
そんな気味の悪い連中を視界に入れたくなかった私は村長の事だけを見ていたが、村長の顔から血の気が引いていくのを見るのは面白かった。気味の悪い顔色から少しずつ白くなっていって、そこまで強い不快感は無くなっていったけれど、トータルで考えるとまだ不快感の方が強いかもしれない。
妖精たちに伝える義務なんて無いので教えていなかったのだが、私の体を中心に三十センチのところを日替わりで守ってくれている人たちがいる。今回は剣術の達人が何人かで守ってくれているので、彼ら彼女らが私に対して害を及ぼそうと近付いて来る者たちを容赦なく切り捨てているのだ。
全員同時に似たような切り口で体がスライスされた妖精たちは何が起きたのかわからないまま倒れていく。それを見ていた村長も何が起こったのかわかっていないようだが、私に対して何かしようとしても無駄だという事は理解してくれたようだ。
ほんの少しだけ物分かりが良くなったように感じるけれど、まだ見た目は気持ち悪いままだった。
「どんな魔法を使ったのかわからないが、俺たちはあんたに勝てないという事だけはわかった。ここに来たのはいったいどんな理由なんだ。もしかして、この前の女の報復に来たとでもいうのか?」
「この前来た女と私は知り合いでもないし関係者でもない。お前たちが誰に何をしてきたのかなんてどうでもいいんだけど、一つ質問に答えてほしい。別に答えたくないならそれでもいいんだけど、私はあまり面倒なことはしたくないんでね。素直に答えてくれると嬉しいよ」
「ああ、何でも聞いてくれ。今ならどんな事で素直に答えられそうな気がするよ」
格好をつけていても気持ち悪い妖精だったので見ているのも不快だったけど、質問に答えてくれるというのであれば我慢しよう。
本当の事を言っているかどうかなんてどうでもいいし、嘘をついていたとしたらもう一度聞きにくればいいだけだったりする。
多少の手間は惜しまないのが良い女の条件らしいし、少しくらい時間がかかってもお兄ちゃんなら許してくれるはずだ。
「あなたはまさ先輩がどこにいるか知ってるのかな?」
「まさ先輩……あの魔王の事か。あいつならあんたが来る直前まで今はどこかに行ったと思うぞ。おそらく、北の宮にあるメイド喫茶にでも行ったんじゃないかな」
この世界にもメイド喫茶ってあるんだと驚いたが、よくよく考えてみると魔法が使える世界ってことを除けば前の世界とそこまで変わらないかもしれない。あっちの世界に要請がいたのかはわからないけれど、あの程度の不愉快な見た目の人間はそれなりにいたような気がしていた。
「じゃあ、その北の宮にまさ先輩がいなかったりいたという痕跡が無かったらまたここに聞きに来るね。その時は、よろしく」
北の宮ってのがどこにあるのか教えてもらってから私は村を後にした。
遠くで隠れていたはずの愛華ちゃんがいつの間にかとなりを歩いていたのだけれど、愛華ちゃんは北の宮なんてどこにあるのかわからないと言っていた。
私たちは他に何も情報が無かったわけだし、妖精の言っていた方向へと向かう事にした。




