第五十二話 新しい冒険
何も悪いことなんてしていないと思うけど、うまなちゃんとイザーちゃんはお兄ちゃんのせいで罰を受けている。お兄ちゃんには全く自覚なんて無いんだけど、お兄ちゃんが近付くことでうまなちゃんもイザーちゃんも凄く苦しそうにしていた。
もしかしたら、まさ先輩の血をその辺にまいてみたらとんでもないことになっちゃうんじゃないだろうか。
そんな事は思いついてもやらないんだけど、ちょっと面白そうだなと思ってしまう。
「あのね、ちょっと用事を思い出したんで外に出てきてもいいかな?」
「用事って何かわかんないけど、手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。私一人で出来ることだし、お兄ちゃんに見られるのはちょっと恥ずかしいことだからさ。うまなちゃんとイザーちゃんも困ってるみたいだし、お兄ちゃんはお風呂にでも入ってまさ先輩の血を綺麗にしておいてよ」
「普通のお湯で魔王の血を洗い流せるかわからないんだけど、女神の泉だったら洗い流せるような気がするよ」
「でも、そうなると女神の泉が汚染されちゃうかもしれないよ」
「その辺は女神の力で浄化してもらえばいいんじゃないかな。このままじゃ、いつまでたってもまー君に近付くことも出来なくなっちゃうからね」
「そんなわけで、私たちはまー君を女神の泉まで連れて行くんだけど、ゆまちゃんは愛華ちゃんを連れて行くかい?」
「別に一人でもいいんだけど、何かあった時のために愛華ちゃんについてきてもらおうかな」
愛華ちゃんは聞こえないような声で文句を言っていたような気がしたけれど、私には何も聞こえなかったので気にしないことにした。文句があるのならついてこなくても良いと思っているし、ついてきてもらわない方が愛華ちゃんのためにもなるんじゃないかとは思っている。
でも、その事を伝える義理なんて無いので私は黙って外へ出た。一応、一回だけ後ろを見て愛華ちゃんがついてきているかは確認しておいた。ついてこない方が良いのに、なんてことは言わなかったけど、真面目な愛華ちゃんは健気にどこまでも私の後をついてきたのだ。
と言っても、まさ先輩がどこにいるのか見当もつかないのでその辺にいる魔物にいちいち聞き込みをしないといけないのが面倒くさい。魔法が使える世界なんだから、まさ先輩を呼び出す魔法とかあればいいのになと思っていた。
しばらく歩いて気が付いたのだが、人が暮らしている空間は結界に守られているので魔物はほとんど生息していない。道を外れて結界の外へ出る必要があるんだけど、それも面倒くさい。こんなに面倒なことになるんだったら、お兄ちゃんにまさ先輩のところまで案内してもらってからにすればよかったかもしれない。
まあ、結界の外に出れば自然と魔物も集まってくることだし、何とかなるでしょ。
そんな気持ちで私はまさ先輩に出会うまでの軽いピクニックを楽しむことにした。
「あの、さっきから目につく魔物を捕まえて何してるんですか?」
「何って、まさ先輩がどこにいるのか教えてもらおうと思って聞いてるだけだよ」
「もしかして、お兄さんを穢した魔王を倒そうとか考えてるんですか?」
「そんな物騒なことは考えていないよ。私たちの知っているまさ先輩とちょっと違うみたいなんで、そこのところをちょっと確認しておきたいなって思っただけなんだ。だから、愛華ちゃんについてきてもらわらなくても大丈夫だったんだよね」
「はあ、それならそうと言ってくれれば魔王のいる場所まで案内したのに。魔物に聞くよりも私に聞いてくれた方が早かったと思いますよ。それにしても、いつの間にそんなに魔法を使いこなせるようになったんですか?」
「いつの間にって言われてもね。私も覚えてないんだけど、思った感じの魔法を使えるようになってたんだよ。うまなちゃんとイザーちゃんが魔法はイメージが大切だって言ってたと思うんだけど、それを実践してみたら使えるようになったのさ」
「ははは、そうなんですね。才能ってすごいや。お兄さんは凄い魔力を秘めているのは知っていたけど、ゆまちゃんも凄い魔法使えるんだね。どんな魔物も一撃で瀕死になってびっくりだよ」
魔法を使うと疲れちゃうんじゃないかと思っていたのに、この世界の魔法はイメージをするだけでいいから全く疲れる事が無い。何だったら、相手を攻撃しつつ自分の事を癒すイメージをしてみたらその通りの魔法が使えたりもする。発想力と創造力が無限の可能性を生み出しているのかもしれない。
いや、発想力と想像力の方かもしれないけど、そんなのはどうでもいいか。
「じゃあ、魔王のいる場所まで道案内しますよ。姿を認識されただけで瀕死にされる魔物がちょっとかわいそうになってきたし」
「道案内してもらえるの助かるよ。でも、愛華ちゃんはまさ先輩の近くに行っても大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないと思いますよ。なので、魔王が見える位置まで案内したら隠れますから。魔王と目でもあっちゃったら、後ろに転がってる魔物みたいな目に遭っちゃうかもしれないし」
私たちが歩いてきた道を示すように瀕死の魔物たちが転がっていた。私の魔法では絶対に死ななに様にしてあるから平気だとは思ったんだけど、今にも死にそうな姿の魔物たちを見ているとちょっとだけ気の毒に感じてしまった。
まさ先輩の居場所を教えてくれる魔物はいなかったし、最初から愛華ちゃんに聞けば解決していたので、魔物を瀕死にするというのは全く意味のない行動であったのだ。
「魔王はお兄さんにやられた傷を癒していると思うので、妖精の国に逃げ込んでると思いますよ」
「妖精の国って、妖精はまさ先輩の味方なの?」
「さあ、私は妖精じゃないのでわからないです。でも、妖精は人間に対しては比較的好意的に接してくれてますよ。魔王と言っても、あの人は人間種ですからね」
「じゃあ、私も妖精と仲良くなれるかもしれないんだね」
愛華ちゃんは何も言ってくれなかったが、肯定してくれないという事はそういう事なのだろう。
まあいいや。




