第五十一話 魔王の血の呪い
お兄ちゃんの事だけではなく私の事も一生懸命に説得していたうまなちゃんとイザーちゃんではあったが、少しずつ顔色が悪くなっているように見える。心なしか口数も減っているように感じていた。
私だけではなくお兄ちゃんもその事を感じ取っていたようで、二人にそれとなく確認してみたのだけれど、二人は頑としてそれを認めようとはしなかった。立っているのも辛そうだし、何もしていないのにふらついているのも心配になってしまう。
だけど、うまなちゃんもイザーちゃんも自分が弱っているという事を絶対に認めなかった。誰がどう見ても弱っているというのに、うまなちゃんもイザーちゃんもふらふらになりながらも意地を張ってしゃがみこんでいる。素直に横になればいいのに、なんて言ったところで聞き入れてくれることは無いというのが誰の目にも明らかだった。
お兄ちゃんの事を説得する二人の行動も少しずつ時間がかかるようになっていたし、そろそろ諦めて切り上げた方が良いんじゃないかと言いたい。凄く言いたい。物凄く言いたいのに、二人にはソレを言わせないような絶妙な空気感をまとっている。
しかし、そんな空気感を一変させるためにやってきた少女がいた。
「愛華ちゃんから聞いてきたんだけど、マジヤバいよ。そこのお兄さんは魔王の血で気持ち悪い色になってるし、そんなお兄さんの近くにいるうまなちゃんとイザーちゃんも死にかけじゃん。お兄さんとお姉さんがなんで平気なのかわかんないけど、うまなちゃんとイザーちゃんも平気ぶってる意味がわかんないよ。今にも倒れそうなのに、なんでそこまでするの?」
「別に、平気ぶってるわけじゃないし」
「これくらいの瘴気は何ともないし」
「ええ、そんなことないと思うけどな。だって、うまなちゃんとイザーちゃんってさっきまでお兄さんに触れそうなくらいの距離にいたのにさ、今は手を伸ばしてもギリギリ届かないような距離をとってるじゃん。それって、本能がお兄さんの事を遠ざけているってことなんじゃないの?」
「それは気のせいだって。ほら、全然近いし」
「いや、近くないって。むしろ離れてるし。イザーちゃんなんてもう近付く気すらないでしょ。こうしている間にも顔色がどんどん悪くなっていってるじゃん。なんでそんなに意地を張っちゃうかな。そんなことしてもお兄さんの事を説得することなんて出来ないと思うよ」
「でも、私にはそうすることしかできないし」
「別に今やらないといけないってこともないと思うよ。お兄さんだってすぐにどこか行くってわけでもないと思うし、一回綺麗に魔王の血を落としてもらってから話を聞いてもらえばいいだけの話じゃないかな。お兄さんもお姉さんもそれくらいは考慮してくれると思うよ」
「だけど、そんなことしている間に魔王が割り込んでくる可能性だってあるじゃない」
「それは気にしなくても良いと思うよ。だって、お兄さんもお姉さんもあの魔王に対して仲間意識もないし特別な感情もないと思うよ。仲間意識があるんだとしたら、最初に会った時に何らかのアクションをとると思うし、お兄さんと魔王が二人っきりになった時にうまなちゃんとイザーちゃんよりも深い話をしていたんだと思うよ。でも、お兄さんは魔王の事なんて気にせずに普通に帰ってきたわけだし。なんだったら、魔王の事を真っ二つにしたってことで、向こうとの交渉は決裂したって思っていいんじゃないかな」
その後もうまなちゃんは「でもでも」「だって」を繰り返していた。
少女はそんなうまなちゃんの事を見捨てることは無く、根気強く話を聞いて一つ一つ丁寧に丁寧にうまなちゃんの話を潰していった。
ちょっと離れてゆっくりしていたイザーちゃんの顔色は少しずつ良くなり、気付いた時に少女と一緒にうまなちゃんを説得しようとしていた。
「うまなちゃんもさ、私みたいに一回まー君から距離をとって冷静に考えた方が良いと思う。その距離で魔王の血から発生している瘴気に触れるのは良くないと思うんだ。頭だって冷静に働かないだろうし、意固地になるの止めていいよ」
「意固地になんてなってないけど、イザーちゃんが言うんだったら少し離れてみようかな。それで何かが変わるとも思えないけど」
「大丈夫。その一歩は小さな一歩かもしれないけど、まー君から少しでも距離をとることは重要なことだからね。ほら。だんだんと体も軽くなってきたんじゃないかな?」
そんなにすぐに影響があるなんて思えないけど、お兄ちゃんから一歩離れたうまなちゃんの表情から険しさが消えていた。それだけではなく、元気になったのをアピールするかのように腕をグルグルと回し始めていた。
その行動に何の意味があるのか全く理解出来なかったけれど、そんなうまなちゃんの事を見ているイザーちゃんと少女はとても満足そうな顔をしていた。
「じゃあ、元気になったところで、もう一回まー君の事を説得してみようか」
「そうだね。今なら何時間でも説得できると思うよ」
今から何時間も説得されるのは正直に言って辛い。
別に二人の事が面倒くさいとかではなく、何時間も拘束されるというのが辛いのだ。
私はそっとお兄ちゃんの事を見ると、お兄ちゃんと目が合った。
私の考えていたことを理解してくれたのか、お兄ちゃんは一度頷いてからうまなちゃんとイザーちゃんの近くへと駆け寄っていった。




