第五十話 必死な二人
お兄ちゃんを凄い魔法使いに育ててみたいって気持ちはわかるけど、普通に頑張った程度じゃお兄ちゃんは普通の魔法を使えるようにはならない。私がそういう風にしてるんだから仕方がない事なんだけど、その事をわかっているのは私だけなんだよね。
その事を薄々感じているお兄ちゃんは魔法の練習なんて意味がないと思って乗り気じゃないんだけど、うまなちゃんもイザーちゃんも今後の事を考えると妥協出来ないって思ってお兄ちゃんを育てようとしているみたい。本人にやる気と才能がない以上は他人がいくら努力をしたところで何の成果も無いんだけど、お兄ちゃんの実力を見抜いているからこそ諦めきれないんだろうね。
本当にかわいそうだ。
「もしかしたらなんだけど、まー君は一撃必殺って感じよりも徐々に徐々に相手を削っていく持続型の魔法の方が相性良いのかもしれないよ」
「そうかもしれないね。基礎的な魔法を使うのは難しいかもしれないけど、逆に高等魔法なら覚えられるって可能性もあるからね。まー君の中にそんなイメージはあったりしないかな?」
「うーん、全然そんなイメージわかないかも。じわじわと攻撃していくってのがよくわからないんだよね。それだったら、普通に殴ったり蹴ったりした方が早いんじゃないかなって思っちゃうし。魔法って本当に難しいもんだね」
「そんなに難しいモノじゃないんだけどね。まー君もゆまちゃんも違う世界から来たってのがあるから難しいって思っちゃうのかもしれないね」
「魔法があるのが当たり前の世界じゃないと魔法に対する意識も違ってたりして、魔法を使う事が難しいって思っちゃうのかもしれないよ」
「どっちにしろ、俺には魔法を使うってことが難しいってのがわかったよ。どうしても魔法を使いたいってこともないし、気が変わった時に使えるようになってればいいんじゃないかなって思うくらいかな」
凄くガッカリしたような感じを見せつつも、うまなちゃんとイザーちゃんは冷静に振舞っていた。本当は凄く落ち込んでいるんだと思うし、お兄ちゃんがこんなにあっさりと引き下がるなんて思ってもみなかっただろう。
なにせ、お兄ちゃんの中には誰よりも強い魔力が秘められているのだ。これから先どれくらい膨大な量の魔力に成長するのか私にもわからないけど、誰もが納得するような結末にはならないと思う。
「じゃあさ、まー君は気が向いた時にってことでいいとして、ゆまちゃんはどうかな?」
「え、私?」
「そう、ゆまちゃんもこの世界に来たからには魔法を使ってみたいって気持ちはあるかな?」
「まあ、それなりにはあるけど、私もお兄ちゃんと一緒で魔法を使えるって気がしないんだけど」
「そんなことないと思うよ。多分だけど、まー君よりもゆまちゃんの方が魔法にポジティブな感情を抱いていると思うんだよね。ほら、何か自分が魔法を使っているところをイメージしてたりするんじゃないかな?」
そんな事を急に言われても困る。と言いたいところではあるが、私の中に使ってみたい魔法は存在している。これは小さい時からずっと使えたらいいなって思っている魔法ではあるんだけど、こんなのを発表したらみんなドン引きしてしまう事になるだろう。
だから、私はこの思いを胸のうちに秘めて誰にも言うつもりなんて無いのだ。
それなのに、うまなちゃんもイザーちゃんも必死になって私に言わせようとしている。
たぶん、私が魔法を使えるようになったらお兄ちゃんも意識を変えるんじゃないかって考えがあるからだろう。
もちろん、私はそんな作戦に乗ったりなんてしない。お兄ちゃんがどんなに頑張ったところで魔法なんて使えるようにならないんだし、私だって考えている魔法を使えるようになるなんて思っていないんだ。
「魔法が無かった世界で暮らしていた二人には難しいってことはわかるよ。私たちもずっと魔法がない世界で過ごしてきたから違和感があったけど、今となってみたら魔法があるのが当たり前だとしか思えないんだよね」
「だから、ゆまちゃんも私たちと同じように魔法を使えるようになると思うんだ。ほら、どんな魔法が使いたいか言ってごらん」
「でも、こんなこと言えないよ。恥ずかしいもん」
「恥ずかしがる必要なんてないよ。ゆまちゃんが考えている魔法があるんだったら、何でも言ってくれていいんだからね」
「この世界は魔法が実在しているんだよ。きっと、ゆまちゃんが使いたいって思っている魔法だって見つかるはずさ」
「見つかったとしても、それを使うこと自体が申し訳ないって思っちゃうし」
「相手の事を思う優しい子だね」
「そう言った思いやりが魔法を強くすることもあるんだよ」
うまなちゃんとイザーちゃんは私の言葉を聞いた後に一拍おいてから顔を見合わせ、私に対して説得をしようとしてくる。
変に間が開くことで無駄なことを考えさせられているのだけれど、それと私がどんな魔法を使いたいか教えるのは関係がない。
それでも、必死になって聞いてくる二人を見ていると、ほんの少しだけ優しくしてあげてもいいんじゃないかと思えてしまう。
だけど、恥ずかしいんで教えたくないというのが本音です。




