第四十九話 お兄ちゃんの魔法
私にもお兄ちゃんにも魔王の血なんて見えていない。お兄ちゃんからかすかに血の臭いがしているような気がするけれど、べっとりとついているという感じには思えない。それと、ちょっと言いにくいけど洗っていない動物の臭いがするような気がしている。
「魔王の血って、触れただけでも精神を蝕むはずなのに、なんでまー君は平気なの?」
「平気なのって言われても、血がついてないから。確かに、あの時まさ先輩の体を真っ二つにして返り血を浴びたとは思うんだけど、それは全部洗い流したはずだよ。多少は残っている可能性もあるとは思うけど、君たちが言うようにべっとりついているというのは無いんじゃないかな?」
「洗った程度で魔王の血は落ちないよ。アレは呪縛と言ってもいいくらい恐ろしいモノであって、それを解くのに何か月も何年も時間をかけることだってあるんだよ。でも、まー君は何も変わっていないように見えるし、本当に洗い流しただけで何ともないの?」
多少は生臭く獣臭いお兄ちゃんではあるけれど、うまなちゃんとイザーちゃんが言うように血がべっとりとついているようには見えない。まさ先輩の血にそんな効果があるんだったら私はとっくに死んでいるのかもしれないと思ったんだけど、ちゃんと考えてみたら私が殴ったりしていたまさ先輩はこの世界で魔王として存在しているまさ先輩ではなくて普通のまさ先輩だった。色んな世界のまさ先輩をイジメてきたのは事実だけど、魔王だったことは無いと思う。
「ちょっと待って、さっき気になる事を言ってたと思うんだけど、一つ質問してもいいかな?」
「俺が答えられるモノだったらいくらでもどうぞ」
「聞き間違えだったら申し訳ないんだけど、まー君は魔王の事を真っ二つにしたって言ったのかな?」
「言ったけど、それがどうかした?」
「どうかしたって言われても、そんなことが出来るなんて信じられないんだけど。あの魔王の体を真っ二つにするなんて無理だし。斬撃無効で物理耐性激強で魔法以外ほとんど意味がいない魔王を真っ二つにしたって、まー君はそんな魔法使えないよね?」
「魔法じゃなくて蹴りで真っ二つにしたんだよ。まさ先輩が伸ばしてきた腕を避けた拍子にバランスを崩して倒れそうになったんだけど、その時に体勢を立て直そうともがいたら偶然サマーソルトキックみたいな感じになってまさ先輩の体を真っ二つにしたってだけの話だからね」
うまなちゃんとイザーちゃんは信じられないと今にも言い出しそうに思えたけど、ビックリしすぎて言葉が出ないようだった。私もお兄ちゃんが何を言っているのかわからなかったし、サマーソルトキックって何だろうって思っていた。
でも、うまなちゃんとイザーちゃんはお兄ちゃんが言っていることをすぐに信じているみたいだ。やっぱりお兄ちゃんの言葉には説得力があるのだと再認識させられた。
「嘘は言ってないんだろうね。少なくとも、魔王の血を全身に浴びるくらいの攻撃をしたって言うのは事実だと思うし、背中までべっとり血がついているってことを考えると魔法で爆発させたって感じでもないもんね。魔王を攻撃している時に背中を見せているってことなんだろうけど、サマーソルトキックをしたって事なら納得だよ」
「あの魔王を真っ二つにしたってのは信じるしかないよね。そうなると、私たちの計画は全然違う方向に進んでしまうかもしれないよ」
「まあ、そうなっちゃうのも仕方ないよね。だけど、計画が大きく変わることは無いと思うんだ。あとは、まー君が魔法を使えるようになると良いんだけどね」
やっぱりうまなちゃんとイザーちゃんが何を言いたいのかさっぱりわからない。お兄ちゃんの魔法をあてにしているような感じだけど、それはちょっと無理なんじゃないかな。
お兄ちゃんは普通の魔法を使えないようにって頼んであるんだよね。
それをここで教えてあげてもいいんだけど、そうなったら二人はどんな反応を見せてくれるんだろう。もっと泳がせてから発表するのもありかもしれないね」
「まー君はまだちゃんと魔法は使えないみたいだけど、どんな魔法を使ってみたいとかあるのかな?」
「特にこれといったのは無いんだけど、魔法が使えた方が良いのかな?」
「一番最初に思い浮かんだ魔法を練習すると良いんじゃないかな。まー君だったらどんな魔法でも使えそうだけどね」
「うーん、どんな魔法も違和感があるんだよね。なんか、馴染まないというか、魔法を使っている自分の姿が思い浮かばないんだよ」
「どんな魔法でもいいんだよ。具体例を出しちゃうとそれに誘導しちゃう形になっちゃうんで何も言えないけど、まー君が一番使いやすいって魔法を思い浮かべてくれたらいいんじゃないかな」
「うーん、いろいろと考えてみたけど、やっぱり俺が魔法を使っているところなんて想像できないよ。今まで生きてきて魔法になじみが無かったからさ、全然想像なんて出来ないや」
「漫画とかアニメを見ていた時とかゲームをやっていた時に想像したりしなかったのかな?」
「自分が魔法を使っている姿とかイメージできると思うんだけど、どうかな?」
「やっぱり無理かも。そういうの考えて見てなかったからね」
「それだけ凄い魔力を秘めているんだよ。絶対に何かあるはずだって」
「もう少しだけ、もう少しだけ考えてみようよ」




