第五話 背の高い男と男たち
まー君よりも頭一つ分背の高い男がいやらしい笑みを浮かべて二人に近付いてきた。見た目だけで判断するのは難しいのだが、まー君たちよりも年齢は五つは上のように思えた。
そんな男がニヤニヤしながら近付いてきたという事もあってメガネの女の子はまー君の後ろに隠れることしかできなかった。メガネの女の子をかばうように立ったまー君に向かって背の高い男が顔を近付けつつ高圧的に話しかけてきた。
「この店がどんな店か知ってて入ってきたのか?」
「そうだけど。この店がどんな店か知らずに入ってくるような奴はいないと思うけど?」
「そりゃそうだな。じゃあ、この店に女連れで入ってくることが何を意味しているか分かってるってことだよな?」
「いや、それは全然わかってないかも。そもそも、この店には女連れで入ってきたんじゃなくて、女に連れられて入ってきたんだけど。ねえ、そうだよね?」
まー君は視線だけ後ろに向けてそう尋ねたが、メガネの女の子はどう答えていいのかわからずに困っていた。
もちろん、まー君の屁理屈を聞いて背の高い男も何を言ったらいいのかわからずに困っていた。
その様子を観察していたゆまもお兄ちゃんの言動に頭を抱え込んでしまっていた。
「確かにお前がそっちの女に連れられて入ってきたんだと思うけど、そういう事じゃないよね。ほら、こういう場合ってそう言う意味じゃないって分かると思うんだけど、もしかしてあんたって最近よく見かけるそう言うニュアンスがわからないタイプの人なのかな?」
「いや、わかってて言ってるよ。俺もそこまで馬鹿じゃないから」
「へえ、そう言うこと軽く言っちゃうんだ。この状況を見てもそんなこと言っちゃっても大丈夫だと思ってるわけ?」
「もちろん、俺に心配事は何もないからね」
まー君は半歩前に進んでゆっくりと顔を上げた。
身長差だけでもかなりあるのに、近付いてみると体の厚みも全然違うという事が一目で理解できる。
それなのにもかかわらず、まー君には何か自信があるように見えるのだが、メガネの女の子はとても不安そうにしていた。
騒ぎを聞きつけて店内にいた人達も様子を見に集まってきたのだが、まー君の後ろに女の子がいるという事をに気付いた瞬間にただのオーディエンスからまー君の敵へと変化してしまった。
「状況がよくわからないんだけど、ケンちゃんとあの男の子ってなんで揉めてるの?」
「俺も詳しいことは知らないんだけど、あの男の子が女の子を連れて店に来たってことでケンちゃんが突っかかってるみたいだね。ケンちゃんって女の子と一緒に買い物とか言ったことないから羨ましくて声かけちゃったってことなんだと思うけど、どう思う?」
「どう思うって言われてもな。ヨモさんは女の子と一緒に買い物とかしたことあるの?」
「あるわけないじゃん。他のみんなだって無いでしょ?」
騒ぎを聞きつけて集まってきた男たちは誰一人として女の子と遊んだことが無いという事が判明した。
もちろん、幼少期までさかのぼれば女の子と遊んだ経験はあると思うのだが、思春期を迎えてから異性と遊んだことがあるかという質問になると答えは決まっている。
そうなってしまうと、女連れでこの店にやってきたまー君は常連たちにとって敵と認定されても仕方ないという事なのかもしれない。
だからと言って、暴力はいけないと思い助けに行くべきかココでまさ先輩を投入するべきかどうかゆまは悩んでいた。今週一番頭を悩ませてしまったのだが、そんな事をしている間に自体は大きく進んでしまった。
「中々自信ありそうだが、お前はそんなに自分の腕に自信があるのか?」
「それなりに……かな。人前でやったことはないけど、それなりに場数は踏んでるはずだよ」
「そいつは良いことだ。だがな、ギャラリーがいるかいないかの違いって意外と大きいもんなんだぜ。外野の声ってのは、思いのほか戦い方に影響しちゃうもんなんだよ。お前にとって観客の声が力となるのか、プレッシャーとなるのか見ものだな」
「そんな大した数でもないと思うけどな。でもな、俺とあんたのどっちが強いか承認になってもらうには十分だと思うよ」
「相変わらずでかい口を叩きやがる。気持ちで負けてないってのはイイコトだと思うぜ。その心意気、認めてやってもいいかもな。ついてきな」
店の奥の方へと歩いていく大男とそれについていくまー君。メガネの女の子は心配そうに見つめているものの、周りに促される形で後をついていくことしかできない。出口を完全にふさがれてしまっている形になっているために前に進むしかないのだが、その表情は先ほどよりも不安の色が濃く浮かんでいるように見えた。
メガネの女の子と一定の距離をとる男たちであったが、誰一人として話しかけることはなくチラチラと横目で見るだけにとどめていた。誰かが勇気を振り絞って話しかけてみようとしているのは伝わるのだが、誰も最初の一歩を踏み出すことが出来ずに遠慮して隣を歩く権利を譲っていた。
もちろん、ゆまはそんな事を気にしてはいなかったし、まー君がこれからどうなってしまうのか心配しているのである。まさ先輩に連絡をした方が良いのか悩んでいたのだが、まー君と大男が握手をしてから離れていたのを見て、これは大丈夫な奴だと思って連絡はやめることにしたのだった。




