第四話 お兄ちゃんは減点
ちょっとだけ良い感じになっている二人を見たゆまは少しだけイラっとして、まさ先輩を呼び出そうかと思ってしまったがすぐに思いとどまった。
まだ一緒にストロベリーシェイクを飲んだだけじゃないか。これから先にもっと嫌なことがあるかもしれないし、まさ先輩を呼び出すのはその時でもいいのではないかと考えたからだ。
それでも、お兄ちゃんが楽しそうにしている姿を見るのは少し息苦しかった。
「まー君がもう大丈夫ならそろそろ行こうか。実は、あんまり時間ないんだよね」
「そうなんだ。時間が無いんだったら急いだ方が良いかもしれないね」
「本当にごめんね。でも、まー君が協力してくれて助かったよ」
ファストフード店を出た二人は仲良く横並びで歩いていたのだけれど、すれ違う人が意外と多かったこともあって自然と立てに並んでいた。
こんな時にちょっと気の利く男の子であればこまめに後ろを見て歩調を合わせたり気を遣ったりもするのだろうが、まー君は時間が無いと言われたことが頭に残っていたのかちょっと急ぎ気味に歩いて目的の店を探していた。
一緒に歩いているメガネの女の子からしてみると減点対象になりそうな行為であったが、それを監視しているゆまにとってはメガネの女の子の好感度を下げるような行為だったために加点対象となっていた。だが、メガネの女の子はまー君に対して何の好意も抱いていなかったので減点するようなラインにすら立っていなかったという事を二人は知らなかった。
やっとの思いでたどり着いた店の前で二人は息を整えているのだが、その店を見た瞬間にゆまの中での加点がさらに続いていた。
後ろを歩いているメガネの女の子に対して気を遣う事もなく、時々道を間違えてきた道を何も言わずに戻る。その上、疲れているのがモニター越しでもわかるくらいに息が上がっているメガネの女の子を見ても何も言わない。嫌われる要素だらけのお兄ちゃんには満点花丸を付けてあげたいとゆまは心の中でガッツポーズをした。誰も見ていないのだから声に出してもいいと思うのだが、意外と内気なところもあるゆまはたった一人で自分の部屋にいたとしても叫んだりは出来なかった。
さらに、加点対象としてこれ以上ない店はないと思えるくらいに個性的な店の前に二人が立っていたのだ。
この街に溶け込むつもりが一切ないという事を主張するような巨大な竜のオブジェが正面入り口の上に飾られており、入り口の左右にはビキニアーマーを身につけた女戦士が竜に向かって剣を構えていた。その後ろには杖をかざした若い女性とシスターが見守っているのだが、誰を見てもみな薄着で竜と戦うような恰好ではないんじゃないかと思えて仕方が無かった。
何が目的でこんな店に連れて行ったのかお兄ちゃんの感性を疑ったゆまではあったが、メガネの女の子はゆま程ひいてはおらずに今の状況を受け入れようとはしているようであった。
そもそも、この街にこんな店があったという事を初めて知ったのだが、店内の様子がどうなっているのか外からは一切うかがうことが出来ないという事が二人にとってどう作用するのかゆまは楽しみであった。
「なかなかパンチのある店だね。これは私一人ではちょっと入りにくいかもしれない。まー君がいてくれて助かったよ」
「俺でよければいつでも付き合うから」
「あ、いや。この店に来るのは今日で最後だから大丈夫かも」
ハッキリと断ったメガネの女の子に対してゆまはモニター越しに拍手を送った。ここまではっきりと否定するという事は、間違いなくお兄ちゃんに対して行為を抱いていないという証明になると思ったのだ。それは間違いではなく、まー君だけが気付いていない事実なのである。
だが、まー君はそんな状況を気にすることもなく、次にどうやって誘おうかと頭を悩ませているのだ。もちろん、その答えなど出ることが無いので悩むだけ無駄なのだが、まー君はそんな事に気付くことなどなく黙って考え込んでいた。
「あの、まー君から先に入ってもらってもいいかな?」
「あ、ああ、ごめん。じゃあ、中に入ろうか」
「さすがにここに私から先に入るのは勇気が出ないよね」
さらなる減点行為にゆまは自分の頬に両手を付けてピースをしても良いのではないかと思っていた。時間が無いと言っている人に対して全く気を遣わずに目的地の前で立ち尽くす。こんなことは中々出来るような事でもないし、やるような人はいないだろう。
だが、そんな事を平然とまー君はやってのけたのだ。こんなことをして好感度が上がるような事は絶対にないとゆまは確信したのだが、店内を見てそれは確固たるものとなったのだ。
ゆまが見ているモニターに映し出されたのは子供にはとても見せられるようなものではない肌色の多いイラスト群だった。
どこを見ても様々な色をした肌が目に入る。漫画であったり映像作品であったりゲームであったりと媒体は様々なのだが、共通していることと言えば露出が非常に多いという事だ。
誰がどう見てもこんな場所に未成年の女の子を連れてくるのはおかしいと思うし、自分からこの店に行きたいというのもおかしいとは思う。
でも、メガネの女の子を見た時にゆまが最初に感じたのは、そっちの世界の事も好きなんだろうという事だった。
そんな店内にまー君のような一見すると弱そうな男が愛嬌のあるメガネの女の子を連れ込むとどうなるのか?
答えは、店内にいたちょっと危ない輩に絡まれるというものだった。




