第四十二話 救助隊よりも
いくら待っていてもお兄ちゃんが戻ってこないのはまさ先輩に捕まって死なない程度の拷問を受けているんじゃないかという話になっていた。
人が苦しむ姿を見るのが何よりも好きだというまさ先輩はお兄ちゃんにも酷い扱いをするのだろうか。向こうの世界では普通に仲の良い二人だったんだからそんな事にはならないだろう。そう思いたかった。
「まー君が戻ってこないという事は、おそらく魔王軍に捕まって拷問を受けているんだと思う。この世界に来たばかりのまー君に対して拷問をおこなう意味なんて無いとは思うけど、魔王軍なんて人間を痛めつけることが出来れば理由なんてどうでもいいと思っているような奴らばかりだからね」
「まー君の実力を見誤ったばっかりに魔王軍を呼び寄せることになっちゃったんだもんね。改めて観測してわかったんだけど、まー君の実力って普通に魔法を使えればあの魔王も簡単に倒せるっぽいんだよね。でも、魔法の使い方を知らないだろうからどうしようもないと思うんだ」
「とにかく、お兄ちゃんが危ないって事は分かったんだし、私たちはどうしたらいいの?」
「そうだね。出来ることは他のチームにも声をかけて連合軍を結成して魔王を討伐するしかないかな。魔王軍を本格的に壊滅させる作戦を立てないといけないね」
「私からも他のチームの人達にお願いした方が良いのかな?」
「多分、私たちが説得するよりもまー君の妹であるゆまちゃんが気持ちを込めてお話しした方が協力してもらえる確率が高くなると思うよ」
「それなら、私も頑張りますね」
体力を取り戻すためにケーキを食べていた愛華ちゃんが不思議そうな顔で私の事を見ていた。何か気になる事でもあるのかと思って話しかけようと思ったのだけれど、私が口を開くよりも先に愛華ちゃんはうまなちゃんとイザーちゃんに向かって不思議なモノを見るような感じで尋ねていた。
「ちょっと気になるんですけど、どうしてそこまでしてまー君を助けようとするんですか?」
「どうしてって、私たちが原因で捕まったわけだし、助けに行くのは当然じゃないかな」
「そうだよ。私たちだけ逃げ帰っちゃったってこともあるし、魔王軍に捕まって拷問をされているまー君を助けに行くのに理由なんていらないと思うんだよ」
「でも、私にはまー君を助けるって発想が理解出来ないんですよ。うまなちゃんもイザーちゃんも凄い人だとは思うんですけど、やっぱり魔法使いとしての観測眼はあまりよろしくないのかなって思っちゃうんですよね。ほら、うまなちゃんもイザーちゃんも魔法は使えるけど相手の力量を見極める事って出来てないじゃないですか」
「確かにそうだけど。愛華ちゃんの言う通りで、私もイザーちゃんも魔法には慣れていないから力を見極めるのって苦手だけど」
「だからと言って、まー君を見殺しにすることなんて出来ないよ。ましてや、あの魔王まさ先輩に捕まって拷問を受けているのを黙って見過ごすことなんて出来ないって」
「うーん、なんて言えばいいのかな。多分なんですけど、連合軍を作って魔王を討伐しようって言うのは皆に断られると思いますよ。説明するのが苦手だから簡単に言うことが出来ないんですけど、まー君を助けに行く必要はないんですよね。うまなちゃんもイザーちゃんも魔王の力って感じてます?」
どれくらい離れた場所にいるのかわからない私には魔王の力を感じることなど無理だった。
うまなちゃんとイザーちゃんはお互いに顔を見合わせてからお互いに顔を横に振っていた。私と同じで魔王の力をこの場では感じていないらしい。
それがどうしたというのだろうか。
「うまなちゃんもイザーちゃんも普通の相手が普通に出てきただけだったら絶対に負けないと思うんで索敵能力が低いんだと思うけど、私たちみたいにあまり強くない人はなるべく敵に会わないように気を付けているんですよ。安全な結界内とはいえ、どこに敵が潜んでいるかなんてわからないですからね。その中でも、一番会いたくないって思うのは魔王なんですよ。あの魔王って童貞のくせに女体にやたらと執着して触ってきたりするらしいんですよ。だから、私たちはあの魔王だけには会わないようにって先輩たちから魔王がどこにいるのか観測して共有しているんですよ」
「そんなことしてたなんて知らなかった。私たちにも教えてよ」
「いや、うまなちゃんもイザーちゃんも魔王の居場所がわかったら自分から戦いに行っちゃうでしょ。それはこっちとしても望まない事なんですよ」
「じゃあ、魔王が今どのあたりにいるかわかっているってことなんだよね?」
「いや、全然わからないです。魔王がどこにいるかなんて、今はわかんないんですよ」
私たちは三人で顔を見合わせ、愛華ちゃんに対して各々で強い言葉をぶつけてしまった。
それでも、愛華ちゃんはそんな暴言を受け流して私の目をまっすぐに見つめて真実を口にした。
「魔王がどこにいるかわかんないって言うのは本当だよ。私が死ぬ前までずっと魔王の事を観測していたし、その情報もしっかりと世界規模で共有されていたんだ。でも、私が死んでから生き返るまでの間に、魔王の力がこの世界から消えてしまったの。何の前触れもなく、急に魔王の力が消滅しちゃったんだよ」
魔力を観測できないような場所に隠れたというのだろうか。
まさ先輩も自分の事を見られているという自覚はあるだろうし、そんなモノから隠れたいと思うのも当然だ。
だけど、愛華ちゃんの口ぶりだと、魔王の力が消滅するのは珍しい事のように聞こえる。
「魔王が私たちみたいに死んでも生き返れるのかわからないけど、魔王の力が消えてから復活している様子も見られないし、その予兆も感じられないんだよ」
「つまり?」
「魔王は何者かの手によって討伐された。おそらく、まー君の手によって討伐されたって可能性が高いんじゃないかな。もちろん、魔王討伐組が偶然やってきたって可能性もあるんだろうけど、データを見ても魔王が戦闘をしていた形跡なんて見当たらないんだよ」




