第四十一話 死んで……戻ってきた
お兄ちゃんの帰りを黙って待っているのはもったいない気がしていたので、この機会にこの世界の事を色々と教えてもらう事にした。似ているようで似ていない部分も多い謎に満ちたこの世界で私が出来ることはいったい何だろう。それを考えている間にお兄ちゃんがひょっこり返ってくるんじゃないかと思えたのだ。
基本的な部分は私が知っている世界とそこまで変わらないのだが、一番大きな違いは魔法が現実に存在している事とそれにまつわる生命体が存在しているという事だろう。
普通に暮らしていれば魔物と遭遇することはほとんど無いのだけれど、その理由としては人間の生活圏が結界によって守られているからだそうだ。
結界は相手の力を反発するようにできているため、魔物が強ければ強いほど強力になって侵入を防いでくれるらしい。その代わり、大した力のない魔物は結界を素通りすることが出来てしまうのだが、その程度の魔物であれば義務教育を終えた魔法使いであれば苦も無く始末することが出来るという。
弱い魔物を探して小遣い稼ぎをしようとする者も多くいるようだが、そのような魔物は人間世界に近付いてくることなど滅多にないので普通にアルバイトでもした方が稼げることになる。もちろん、名の知れた魔物を討伐すればかなりの額の報酬を手に入れることも出来るのだけれど、そのような魔物を小遣い稼ぎ感覚で討伐できるような力が有るのであれば正規の手段をとって魔物狩りをした方が効率的であるし、何度も死ぬようなことをする必要もなくなると思われる。
人間の世界には魔法使いの派閥が存在している。
細かく分けると数え切れないほどの派閥があるのだが、大きく分けると魔法そのものの技術や効率化を追求している組織と従来から存在している格闘術や武術と魔法を融合させた組織がある。
どちらか一方だけに所属するのが普通と思うのだが、この世界ではどちらにも所属している者も意外と多かったりするのだ。何度も死ぬことが出来るこの世界では失敗を恐れる必要は無いし、ダメだったら別の方法を選べばいいだけだという考え方が一般的である。その事から、魔法以外の事に関しても何か一つに固執するというケースはあまり多くないのである。
ただ、恋愛に関しては失敗を恐れるものが多く、学生で恋人がいる割合は以前いた世界の半分にも満たないという。告白に失敗したときの話がどこまでも広がっていくという恐怖は死ぬことよりも辛いと思われているのだ。
この世界にもっと早く来ていたとしたら、あんなに浮かれて気持ち悪かったお兄ちゃんの姿を見なくて済んだのかもしれない。異性と二人で出かけるだけでもハードルが高いこの世界では何事も起きなかったのかもしれないのだ。
そんな事を考えていると、死んだ人が転送されるという部屋に誰かがやってきたというランプが点灯した。
うまなちゃんとイザーちゃんに連れられてその部屋へ向かうと、あの時お兄ちゃんと一緒に買い物をしていたメガネの女の子が横になっていた。
「あれ、なんでうまなちゃんとイザーちゃんがいるの?」
「ここでまー君を待ってるんだよ」
「まー君?」
「ここにいるゆまちゃんのお兄さんだよ。愛華ちゃんのクラスメイトじゃなかったっけ?」
「ああ、まさ先輩の後輩のまー君だね。うん、覚えているよ。同じクラスで……魔力は凄かった男の子だよね?」
「愛華ちゃんは仲良かったんじゃないの?」
「普通に挨拶くらいはしてたと思うけど、特別仲良かったってことはないと思うよ。二人で何かしたこともないし」
「お兄ちゃんと買い物に一緒に行った事とかないんですか?」
「え、一緒に買い物?」
「はい、一人じゃ入りづらい店に付き合ってもらって一緒に行ったとか、そういうの無いんですか?」
「そういうのはないかな。一人で入りづらい店に行きたいって思った時に男の子を誘うって言うのはちょっと難しいかな。私だったらお姉ちゃんを誘っていくと思うよ」
「そうなんですか。普通はそうですよね」
あっちの世界と違ってこっちの世界はお兄ちゃんを誘惑するような女はいないという事かもしれない。
おそらく、お兄ちゃんの意識も変化していると思われるので、この前までいた世界よりもずっと住みやすい環境になっていると考えていいだろう。
私は、愛華ちゃんの言葉を聞いてこの世界に来てよかったと心から思えたのだ。
「それで、まー君が来るのを待っているって、私と同じようにまー君が死んでここに来るのを待ってるってこと?」
「そういう事なんだよ。でも、ちょっとだけ引っかかることがあるんだよね」
「引っかかる事って?」
「私たちもさっきまでまー君と一緒にいたんだけど、まさ先輩率いる魔物軍団に囲まれて命からがら逃げてきたんだ。その時にまー君を一緒に連れてくることが出来なかったんだよね」
「うわ、それって自分がまー君の立場だったら絶望するやつだね。でも、あのまさ先輩相手にすぐ死んでないって、最悪な事態になってるんじゃない?」
「やっぱりそう思うよね。まさ先輩が素直にまー君を殺すとは思えないもんね」
「あんなに性格の悪い人は見たことないもん。魔王になるだけの事はあると思うよ。でも、見た目だけは凄く良いんだよね。あれで中身もよければ最高なのに、中身がアレだからどこまで言っても最低な評価になっちゃうんだよ」
この世界ではまさ先輩が受け入れられていない。
それを聞いたという事だけでも、この世界に来た価値があるというものだ。




