第三十八話 紅茶に合うパフェ
バカな兄を持つと妹は苦労するのだ。
そんな苦労があってもお兄ちゃんといるのは楽しかったのだが、今回ばかりはとても擁護できるものではない。生き残るチャンスを自ら潰して自滅に追い込まれるなんてバカだからと言い訳できるものではない。いくら言葉を並べて言い訳をしたところで、到底許される行為ではないのだ。
だからこそ、お兄ちゃんを犠牲にして助かろうといううまなちゃんとイザーちゃんの言葉に共感は出来る。
共感は出来るのだけど、どうやったら助かるのかという事の説明がないので私は何をしたらいいのかわかっていない。
なぜか、うまなちゃんとイザーちゃんが私の左右から抱きしめてくれて、二人同時に頬にキスをしてくれた。
なぜこのタイミングでそんな事をするのだろうと思ったし、お兄ちゃんとまさ先輩が私たちの事を見て目を逸らしたのもハッキリと見てしまった。
私も目を逸らそうとした瞬間、物凄く眩しい光に包まれて何も見えなくなってしまった。死ぬってこういう事なのかなと思っていたのだけれど、私の体を包み込むかすかに柔らかい感触が私の意識を現実へと引き戻してくれた。
「う、うまくいってよかった。失敗したらどうしようかと思ってたよ」
「緊急離脱って初めてだったもんね。それにしても、なんであんなに危ないところに出ちゃったんだろうね?」
「あの、ここっていったいどこなの?」
「ココはね、クラブハウス零楼館だよ。私たちとゆまちゃんが出会ったホテルの隣にある魔法使いのために作られたクラブハウスなんだ」
「多分、もう少しでまー君もやってくると思うからお茶でも飲みながら待ってようか」
他にも何人かこの部屋に入るのだけれど、全員同じパンツスーツを着用しているのでここのスタッフなのかもしれない。その中の一人がワゴンに乗せたお茶のセットを持ってきてくれたのでその予想は間違っていないはずだ。
それにしても、魔法使いのためのクラブハウスっていったい何なんだろう?
お兄ちゃんがもう少しでやってくるって言うのもどういう意味なのか気にはなる。
でも、それ以上に、うまなちゃんが入れてくれる紅茶とイザーちゃんが作ってくれているパフェが気になって仕方がない。
お兄ちゃんもあんな馬鹿なことをしなければ一緒に楽しめたのにと思いつつも、こうして私だけでティータイムを楽しむことも悪くないと思っていたりもした。
「色々と聞きたいことはあるだろうけど、順を追って説明するね。それでも聞きたいことがあったら質問してくれていいからね。まずは、お茶を一杯どうぞ」
「パフェも好きなの選んでいいよ」
「じゃあ、ベリーのパフェをいただこうかな」
口に入れる前から紅茶のいい香りが体中を駆け巡っているような印象を持ったのだが、紅茶を口に含んでみると実際に体中を紅茶が駆け巡っているのを感じていた。
後味もスッキリとした飲み心地で先ほどまで感じていた魔物に囲まれていた時のストレスも一瞬で吹き飛んでしまったと錯覚してしまった。
それだけではなく、ベリーのパフェも程よい酸味と甘さが紅茶にとても良く合う。この組み合わせ以外ないのではないかと思えるくらいに美味しいと思ったのだが、うまなちゃんが食べているパフェはコーヒーとよく合いそうだし、イザーちゃんが食べているパフェは抹茶とよく合いそうに思えた。
いきなり本題に入るのかと思っていたのに、三人ともパフェとお茶に夢中になってしまって完食するまで誰も話をすることは無かった。
「あ、全部食べちゃったね。まあ、パフェを食べながら深刻な話をするのも難しいと思うし、とけちゃうのももったいないもんね」
「じゃあ、お茶を淹れ直すんで説明はイザーちゃんにお願いしようかな」
「わかったよ。それにしても、まー君が戻ってくるの遅いかも。ちょっと心配になってきたよ」
「食べてる間に戻ってくると思ってたんだけどね。意外と、あの魔王と話が弾んでるのかもしれないよ」
魔王って言うのは多分まさ先輩の事だろう。魔物たちが全員まさ先輩に従っているように見えたし、学校で見かけた時のようなカリスマ性が魔物相手にも発揮されているという事か。
でも、そんなに強そうには見えなかったんだよな。カリスマ性だけでやっていけるもんなんだろうか。
「何から説明しようかな。とりあえず、ここクラブハウス黎明館の説明からするね。この場所は無数に存在している魔法使いのための緊急避難所の一つで私たちが本拠地登録している家なんだよ。ゆまちゃんとまー君はとりあえずここに設定してあるんでいつでも使っていいからね。出入りは自由だけど、私たちがゆまちゃんを抱きしめて一緒に飛んできたのをまねしたとしても、ここに登録していない人を連れ込むことは出来ないからそこだけは注意してね。あの状態で一緒に飛んできたとしたら、登録していない人は結界に阻まれてはじけ飛んじゃうか結界に当たった衝撃で潰れちゃうと思うんだよね。だから、さっきみたいに緊急避難をする時は十分に気を付けるんだよ」
「じゃあ、あの時にお兄ちゃんも一緒に連れてくることが出来たんじゃないの?」
「それはちょっと難しいんだよね。私とうまなちゃんは何度もココを使ってるからこっち側から位置を把握するのは簡単なんだけど、ゆまちゃんとまー君の場合は初めてだったから静止してもらって情報を照合する必要があったんだよ。だから、私とうまなちゃんでゆまちゃんが動かないようにしっかりと押さえていたんだ」
あのキスには何の意味があったんだろうと思ったけれど、そこに触れるのはやめておこうと思ってしまった。




