第三十七話 バカなお兄ちゃん
私の質問にいつ答えてくれるのだろうか?
まさ先輩のお説教は延々と続いていた。
私とうまなちゃんとイザーちゃんはこの隙に逃げることも出来そうだなと考えていたのだけれど、鈍感なはずのお兄ちゃんは私たちの行動を敏感に察知して逃げ出さないようにまさ先輩に告げ口をしていた。
ただ、まさ先輩はそんなお兄ちゃんに対して更にお説教をし始めた。いつまでたっても終わらない説教タイムが繰り返させることになってしまった。
「まー君はさ、本当に空気を読んでほしい時には読まないよね。ここまで来るとわざとやってるんじゃないかって思うんだけど、まー君はそんな風に事態をややこしくするのが好きじゃないってわかってるから余計に意味がわからないんだよ。今だってゆまちゃんたちがコッソリ逃げようとしているのがわかってたと思うけど、どうしてそれをいちいち説明して逃げ道をふさごうとしちゃうのかな。俺だってゆまちゃんたちがこの場から逃げたいって思ってるのを感じたから気付かないふりをしてたんだし、ここにいる魔物たちだって俺と同じように気付かないふりをしていたんだよ。まー君が何も言わなければみんな無事に帰れたっていうのにさ、どうしてそういう風にチャンスを自らドブに捨てるのかな。君たちは初心者向けコースを選んで魔物狩りをしてこの世界に慣れていこうとしていたんだと思うけど、どういうわけか初心者コースなのに超裏面が選ばれちゃってるんだ。それってどうしてなのかわかるかな?」
どうしてなのかわかるかなと言われても、それがわかればこんな失敗はしなかっただろう。
初心者オーラ全開の私とお兄ちゃんを見て魔物たちも逆に戸惑っていたような気はするし、まさ先輩が言うように見逃してくれようとしていたのも事実だと思う。私は魔物の生態に詳しくないので何とも言えないけれど、あまりにも力の差がある相手の場合は戦わずに無視するというマナーがあるのかもしれない。それなのに、お兄ちゃんは真面目にアピールをして自分から逃げ場を失う事になったんだよ。
いったい何がしたかったのか本当に理解に苦しむけど、それはお兄ちゃんを除くこの場にいる全員が思っている事だろう。
「どうしてなのかわかるかと言われてもわからないよ。そもそも、魔物がいる世界だって実際にこうして魔物を目にしたから受け入れられているだけであって、魔法とか魔物とかそういうのはよくわかっていないだよ」
「最初は誰だってそうさ。もちろん、最初からこの世界で生まれて暮らしてきたやつは違うと思うけど、まー君とかゆまちゃんみたいによそから入り込んできた人間は色々と戸惑う事もあるだろう。俺がゆまちゃんとまー君の事を知っているように、ゆまちゃんとまー君も俺の事を知っている。他にもこの世界と君たちの世界には共通している人物がたくさんいると思うけど、みんな別人だからな。だからと言って、全く知らない相手という事でもないのがややこしいところであるよ」
「じゃあ、まさ先輩は俺の知っているまさ先輩だけど、俺の知らないまさ先輩でもあるって言うことなの?」
「そう言うことになるな。おっと、そんなに敵意を向けないでくれ。俺も引くに引けなくなってしまうぞ」
「初めからそのつもりだっただろ」
なんでかわからないけれど、バカなお兄ちゃんがまさ先輩を挑発したおかげで戦わないといけない状況になってしまっている。
うまなちゃんとイザーちゃんの計画だと、私でも簡単に狩れる弱い魔物を一方的にやっつけて戦闘の基本を学ぶはずだったのだけど、今の感じだと私たちが一方的にやられておしまいだと思う。
いや、普通にやられるだけだったらまだマシなのかもしれない。まさ先輩の陰に隠れて危なそうな魔物がチラホラ見えているのが気になるし、何かの実験体にでもされたらたまったものじゃない。
それにしても、なんでお兄ちゃんはあんなに冷静なのだろう?
もともと感情の起伏が激しい方ではないのだけれど、この状況でも落ち着いているというのは魔法を使えるようになった影響も多少はあるのだろうか?
「ゆまちゃんごめん。なぜかこんなことになっちゃったけど、まさ先輩ならどうしてこうなったのかわかるのかもしれないよ。でも、今はそんな事を気にしている場合じゃないって分かるよね?」
「うん、それはわかるけど。わかるんだけど、どうしたらいいのかがわからないよ」
「大丈夫。とりあえず落ち着こうか。それと、私たちが今からする話を聞いても取り乱さないでね。いや、取り乱すなというのは無理だと思うんで、多少は取り乱しても落ち着いてもらいたいな」
「もしかしてだけど、お兄ちゃんとまさ先輩がお話している間に三人で逃げ出そうって話?」
「そうなの。そういう話をしようと思っていたの。ゆまちゃんが賢くて助かるよ」
「それで、お兄ちゃんはどうなるの?」
「落ち着いて聞いて欲しいんだけど、まー君はココで死んでもらう事になります。いや、まー君には死んでもらう必要があるんだよ。申し訳ないと思うけど、まー君はココであいつらに殺されてもらわないと困るんだ」
「!?」
私は言葉が出なかった。
驚きなのか怒りなのか悲しみなのかわからない感情が頭の中をグルグルと駆け巡り、何を言えばいいのかわからなかった。
ただ、うまなちゃんとイザーちゃんが冗談を言っている感じではないという事だけは真剣な表情から伝わってきた。




