第三十三話 魔法使いになっちゃったお兄ちゃん
「世界中の人を魔法で洗脳しちゃえばいいよ」
そんなことが出来れば誰も苦労しないだろう。
お兄ちゃんがその気になればそれも可能かもしれないが、優しいお兄ちゃんは世界中の人を洗脳することなんて出来ないと思う。
力を持っているものが強いとは限らない。
うまなちゃんとイザーちゃんはきっとお兄ちゃんが世界で一番強い魔法使いになったという事を知っていると思うんだけど、お兄ちゃんがその力を使う事がないという事は知らないんだと思う。
だからこそ、世界中の人を魔法で洗脳すればいいなんて軽々しく口にしてしまったんだろう。お兄ちゃんは全く理解してないと思うんだけど、もうそんな事を言ってほしくないと強く願ってしまった。
「魔法って言われてもさ、俺はそんなの使えないよ」
やっぱり、お兄ちゃんは自分が魔法を使えるという事実に気付いていない。
どんなに凄い魔力を秘めていたとしても魔法を使うという意思を持っていなければ何の意味もない。知らない間に与えられたその資格を行使する方法を知らないのだから当然なのだが、私はまだお兄ちゃんに気付いて欲しくないと思っている。
それなのに、うまなちゃんとイザーちゃんはお兄ちゃんが世界最強の魔法使いになったという事を一刻も早く自覚してもらいたいと思っているような行動にばかり出ている。私も心のどこかで二人と同じようなことを思っているのは事実であるので二人を止めることはないのだが、こんな時にもお兄ちゃんの鈍感力が発揮されてしまって何を言われても魔法なんて使えるはずがないと思い込んでしまっている。鈍感なのに頑固なお兄ちゃんは自己肯定感が低い傾向にあるためか、自分が凄い魔法使いだという事を絶対に認めることはないのである。
「ゆまちゃんのお兄さんって言うの面倒になってきたんで、私たちもまー君って呼ばせてもらうけど、まー君はさっきまでと違うって感じはしているかな?」
「例えば、新しい力を手に入れて生まれ変わったんじゃないかなって思う事はあるかな?」
「新しい力とか生まれ変わったとかは全然思わないけど、少し寝ていたせいか頭はスッキリした感じがするよ。気のせいかもしれないけど、視力も少し良くなったような気がしているね。でも、それ以外は特に変わったところなんて無いと思うけど」
「じゃあ、まー君が魔法を使えるんだとしたら、どんな魔法を使ってみたいと思う?」
「どんな魔法って言われてもな。そんなこと考えたことも無いからね。まあ、しいて言うのであれば、自分の能力を高めるような魔法を使ってみたいかな。あんまり派手ではないと思うけど、それが一番良いと思うんだ」
「へえ、意外だな。そんなこと言う人初めて見た。派手な魔法とか使いたいって思わないのかな?」
「全然思わないね。目立つのそんなに好きじゃないし」
こんなところでもお兄ちゃんの優しさが出てしまっていると思った。
それからもうまなちゃんとイザーちゃんは派手な魔法を使った方が良いんじゃないかとしつこく誘導しているのだけれど、お兄ちゃんはそんな意見には一切耳を貸さずに自分の意見を貫いていた。
きっと、お兄ちゃんの中では目立つようなことはせずに地味に行動していたいと考えているのだろう。目立つのは自分ではなくまさ先輩に任せようと考えていそうだけど、残念なことにまさ先輩は魔法を使えるようになっていない。魔法以外の特別な力を手に入れている可能性はあるけれど、私はお兄ちゃん以外の知り合いに魔法を使う許可は出していないのだ。うまなちゃんとイザーちゃんは魔法が使える世界に変化したことによって秘められていた力が解放されて魔法を使えるようになっているのだけれど、それ以外の多くの人は魔法を使うことなんて出来やしないし、お兄ちゃんと一緒で魔法を使うなんて発想を持っていないのだ。
「魔法を使いたいな思う事があったら、魔法の使い方を教えてあげるよ」
「実は、私たちって別の世界からやってきた特別な存在なんだよ。ゆまちゃんとまー君も特別な存在ではあると思うんだけど、私たちとはちょっと違う感じだよね」
「今の私たちは特に与えられた使命もなくゆまちゃんとまー君を見守るだけで良かったんだけどね」
「まー君が私たちの想像よりもずっと上だったから、思わず直接会いに来ちゃったってわけ」
「ゆまちゃんとまー君が良ければなんだけど、私たちがどうしても封印することが出来なかった悪魔を封印するお手伝いをしてくれないかな?」
うまなちゃんとイザーちゃんが何か隠しているとは思っていたけれど、悪魔の封印をお願いされるとは夢にも思わなかった。
私には戦う力なんて無いし、お兄ちゃんも世界最強の魔力を秘めているだけで戦う事も魔法を使う事も出来ないんだから二人に協力なんて出来ないし、出来たとしてもそんな危ない橋を渡ることなんて出来ない。
さすがにお兄ちゃんも悪魔とか封印とか言われても納得することは出来ないだろう。
世界最高の魔法使いになったという事実も受け入れてくれないくらいなんだから、悪魔の封印とか言われても信じたりなんてしないはずだ。
「その悪魔の封印って、何をすればいいのかな?」
「私たちが封印の儀式をやっている間、悪魔が邪魔しないようにしてくれたらいいよ」
「凄く強い悪魔だから難しいかもしれないけど、時間を稼いでくれたら大丈夫だからね」
なぜかわからないけれど、お兄ちゃんは悪魔の封印を手伝う事になってしまった。




