第三十二話 世界征服への第一歩
うまなちゃんとイザーちゃんが全裸になっていたとしても、チョーカーを付けている限りお兄ちゃんには服を着ているようにしか見えないという事になる。
実際に裸になってもらう事はないけれど、これからしばらくの間はお兄ちゃんが私以外の女体に何かを感じるという事が無くなった。それだけでもこの改変は成功したと言ってもいいだろう。
でも、それだけじゃ物足りないと感じた私は少しだけ世界も変えてみることにした。
「お兄ちゃんはさ、誰にも負けない凄い力を手に入れたとするじゃない。そうなった時に、世界を支配してみたいって思うかな?」
「世界を支配?」
「そう、お兄ちゃんが世界最高で誰も追いつけないくらいの凄い魔法使いになったとしたら、世界を支配してみたいって思う?」
「いや、全然思わないけど。誰かに恨まれるようなことはしたくないからね」
「ふーん、そうなんだ。なんか、お兄ちゃんっぽいね。でもさ、ゆまがお兄ちゃんに世界を支配してほしいってお願いしたらどうかな?」
例え話ではあったけれど、私の話になった時にはお兄ちゃんはちゃんと考えてくれていた。自分の力を自分の意志で行使するというつもりはないみたいだけれど、私がお願いした時にはちゃんと考えてくれるみたいで嬉しい。
でも、お兄ちゃんの答えはきっと変わらないんだと思う。
「そうだね。もしも、俺が世界を支配するような力を持っていたとして、その力を使って世界征服をしてほしいって頼まれたとしても俺はそんなことしないかな。ゆまがそんな事を言うわけないと思うし」
「でも、ゆまはこの世界で一番偉い人になりたいっていうかもしれないよ?」
「向上心があるというのはいい事だと思うけど、武力による支配ってのは良くないと思うな。人を傷つけるようなことはやっちゃいけないことだと思う。その事はゆまもわかっていると思うけど、誰かを不幸にしたうえでの世界征服なんて嬉しいかな?」
「そう言われるとちょっと考えちゃうけど、誰も不幸にしないで世界を支配するなんて不可能だと思うよ。ゆまだって誰かを不幸にしたいなんて思ってはいないんだけどさ、世界を支配するにはそれくらいの業は背負わなくてはいけないと思うんだ。でも、出来ることならその業はゆまじゃなくてお兄ちゃんに背負ってもらいたいな」
「実際に手を下すのは俺だから恨まれるのは仕方ないと思うんだけど、恨みの全てが俺に向くとも限らないんだよね。世の中には案外うがった見方をする人も多いし、何かに気付いちゃう勘のいい人だってたくさんいると思うよ。もしも、本当に世界を支配したいんだったとしたら、そういう人たちをどうするか考えてからにした方が良いと思うよ。俺は自分が恨まれるのは別に平気だけど、俺のせいでゆまが恨まれるっていうのは耐えられなさそうだからね」
「そうだね。ちょっとくらいなら世間から嫌われてもいいかなって思ってたけど、そのちょっとが積み重なると大変なことになりそうだもんね。そんな大変な思いをお兄ちゃん一人に背負ってもらうのは申し訳ないと思うから、ゆまの少しだけお兄ちゃんを支えることにするよ」
「いや、そうじゃなくて、恨まれない方法を考えたらいいんじゃないかな?」
誰の恨みも買わずに世界を支配するなんて不可能なことだと思う。世界を支配するなんて隊それたことをしてしまったら、何をしても恨んでくる人はいるだろうし、何もしなくても勝手に恨んでくる人だっていると思う。
どこにでもいるようなごく普通の兄妹がある日突然世界を支配した。なんてことになったとしても、それを素直に受け入れて私たちの事を認めてくれる人なんて何人もいないと思う。どちらかと言えば、世界を支配した私たちを殺して世界を手に入れようとする人の方が多いのかもしれない。
だからと言って、そんな人たち全員を納得させる方法なんて存在しないだろう。
「あの、ゆまちゃんは本当に世界を支配したいって思ってるんですか?」
「私たちも仲間に入れてくれるんだったら、知恵を貸しますけど?」
うまなちゃんとイザーちゃんにはずっと大人しくしていてほしかった。お兄ちゃんの意識がほんの少しでも二人に向いて欲しくないというワガママな理由だけで黙っていてもらったけれど、知恵を貸してくれるというのだったらソレを聞いてから判断しても遅くはないだろう。
今のお兄ちゃんは二人の顔を認識したとしても首から下は認識してないはずなのでオマケして許してあげよう。
「その知恵ってのは、いったいどういう話なのかな?」
「凄く単純な話だよ。誰よりも強力は魔法を使えるんだったとしたら、何をするよりも簡単な話だと思うんだ。私もイザーちゃんも似たような事をしようとした人を見たことがあるんだけど」
「その人は魔力が足りなくて失敗していたんだ。でも、お兄さんだったら、ゆまちゃんのお兄さんだったら大丈夫なんじゃないかなって思うよ」
「そんなに信用される理由が知りたいんだけど。俺と君たちって初対面だよね?」
「初対面ではあるけれど、ゆまちゃんのお兄さんってことで十分だよ」
「初対面だったとしても、ゆまちゃんのお兄さんなら信頼できるよ」
そこまで信頼してもらえるという事は嬉しいんだけど、本当にそんなうまい話があるというのだろうか。
そもそも、お兄ちゃんがどれくらい強い魔法使いになれるのかなんて想像もできていない段階だし、うまなちゃんとイザーちゃんが知っている人とどれくらい違いがあるのかもわかっていない。
というよりも、うまなちゃんとイザーちゃんが知っている魔法使いっていったい誰だ?
お兄ちゃん以外に魔法使いがいるというのか?
少しだけ謎は深まってしまった。




