第三十一話 お兄ちゃんと私
普段は鈍いお兄ちゃんもこういう時だけは勘が働くというところが厄介だと思う。
でも、それはお兄ちゃんの勘違いなんだよという事を丁寧に伝えていけば誤解なんていくらでも解くことが出来る。お兄ちゃんが私を信じてくれないことなんて無いと思うけど、私の事を疑うようなことがあったとしたら、もう一度やり直してしまえばいいだけの話なんだ。
「何だから見覚えのない部屋なんだけど、模様替えとかしたっけ?」
「まだお兄ちゃんは寝ぼけちゃってるんだね。ココはおうちじゃなくてホテルだよ。これから美味しいご飯を食べようってことになってたんだけど、急にお兄ちゃんが倒れちゃったから慌てて部屋をとってもらったんだよ。お兄ちゃんは覚えてないと思うけど、大変だったんだからね」
「ごめん。全然覚えてないや。ゆまには申し訳ないことをしたね。そう言えば、お父さんとお母さんは?」
「お父さんもお母さんも偉い人の話を聞いてくるって言って出ていったんだけど、もう少ししたら戻ってくるんじゃないかな。お兄ちゃんが大丈夫なんだったら、お父さんとお母さんが戻ってきてからご飯を食べに行こうね」
「俺は全然大丈夫なんだけど、あっちのソファに座ってる二人は誰?」
お兄ちゃんからうまなちゃんとイザーちゃんの事が見えないように体で遮っていたはずなんだけど、どういうわけかお兄ちゃんは二人の事を見つけていた。なんでお兄ちゃんはうまなちゃんとイザーちゃんを見つけられたのだろうと不思議に思って周りを見回してみたんだけど、窓にも鏡にも二人の姿は映っていなかった。
もしかしたら、お兄ちゃんに余計な力を与えてしまったんじゃないかと警戒していたところ、ふと見上げた天井にあった天窓に二人の姿がしっかりと反射して映っていたのだ。
寝ながら天井を見ているお兄ちゃんにしてみたら、家族以外の知らない人が二人もいるという事は恐怖かもしれない。警戒心がないお兄ちゃんだったとしても、この状況が普通じゃないという事くらいは理解しているみたいだ。
だから、私はお兄ちゃんを安心させるために教えてあげることにした。
「あっちのソファに座っているのはうまなちゃんとイザーちゃんだよ。このホテルで働いている私のお友達なんだ。この部屋は普段お客さんが使う事はないみたいなんだけど、他の部屋が全部埋まっていた莉清掃中だったりで特別に貸してくれたんだよ。お兄ちゃんが倒れちゃったことを心配してくれた優しい二人なんだ。それくらい優しい二人だからお兄ちゃんが起きるまで見守っていてくれたんだよ」
「そうだったんだ。なんだか迷惑をかけてごめんね。でも、どこかで会ったことがあるような気がするんだけど?」
「私のお友達なんだからお兄ちゃんと会ったことくらいあるんじゃないかな。おうちに遊びに来たことはまだないんだけど、お兄ちゃんが良かったら今度四人でゲームでもする?」
「まあ、お礼もしたいしそれもいいかもね。でも、二人ってよく似ているよね。双子だったりするのかな?」
お兄ちゃんの質問に答えようとしたうまなちゃんを制して私が代わりに答えた。ココから先は一つの失敗によって取り返しのつかないことになる恐れがあるのだ。
一つ一つちゃんと考えて答えないと、あとでとても面倒なことになってしまう。
「そうだよね。二人はよく似ているよね。お兄ちゃんは見分けがつくかな?」
「まあ、髪の色が違うからパッと見で見分けはつくけど、同じ色だったら気付かないかもしれないな。見た目だけじゃなく、雰囲気も似ていると思うし」
「うまなちゃんとイザーちゃんは姉妹じゃないのに似てるよね。私も時々間違えちゃうことがあるくらいだもん」
「でも、一つ違うところに気付いちゃったかも」
もしかして、今回もお兄ちゃんは本人でも気が付かないような胸の大きさの違いに気付いたとでも言うのだろうか。
そんな事を言いだしてしまったら、本当にやり直してあげることになってしまうかもしれない。
「違うところって、どこかな?」
「ゆまは気付いてないかもしれないけど、髪が外ハネとまっすぐで違うよ。それを覚えていたら見分けることが簡単かもしれないね」
「うん、今はそうかもしれないね。でも、それってセット次第でどうにでもなるもんなんじゃないかな?」
「え、そうなの?」
「そうだと思うよ。私だって時々外ハネにしていることもあるし、お兄ちゃんもそれは見たことあるよね?」
お兄ちゃんが変な事を言いださなくてよかったと思いつつも、これも変な事を言っていることには変わりないのかと思った。
でも、お兄ちゃんがうまなちゃんとイザーちゃんが付けているチョーカーよりも下を認識しないというのは効果がちゃんと出ているという証かもしれないな。まだハッキリと断定することは出来ないけれど、一回試してみる必要があるかもしれない。
「ねえ、うまなちゃん。暑いからってそんな格好してたらブラが見えちゃうよ」
物分かりの良いうまなちゃんは私の言葉を聞いてすぐにシャツのボタンを二つ外してブラが見えるようにしてくれた。
私の位置からも水色のブラが見えているのでお兄ちゃんも見えているとは思うのだけれど、お兄ちゃんはうまなちゃんを見ても何一つ変わった様子を見せなかった。
それどころか、変な事を言うなよとでも言いそうな感じで私の事を見ていた。
「こら、そういう冗談は良くないよ。仲のいいお友達かもしれないけど、言って良い冗談と悪い冗談があるんだからね」
「ごめんなさい。でも、うまなちゃんってそういうところがあるからさ」
「だからと言って、そういうのは本気にしちゃうやつもいるんだからね。気を付けるに越したことはないんじゃないかな」
今の感じが続いたとしたら、うまなちゃんとイザーちゃんの胸の大きさを変えなくてもいいんじゃないかなと思えるんだろうな。




