第二十一話 お兄ちゃんは気持ち悪い
全く同じ衣装に身を包んでいる時点で私には区別なんてつかないのだけど、お兄ちゃんの事を警戒しているためか二人ともビックリするくらい大量の香水をつけて部屋に入ってきた。むせかえるような甘い匂いに包まれた。
お兄ちゃんが二人の事を匂いで見分けているとは思えないのだけど、その辺もしっかりと対策を立てていることからも二人が本気でお兄ちゃんに挑んでいるという事がうかがえる。
「俺から見て右がうまなちゃんで左がイザーちゃんでしょ?」
「え、なんでわかるの?」
うまなちゃんとイザーちゃんはお兄ちゃんが即答したことに驚いてはいた。少なくともこの時点ではまだ感心していると言った空気感ではあったが、次第にその気持ちは嫌悪感へと変化していったのである。もちろん、私もこんなに性格に充てるお兄ちゃんの事を気持ち悪いなと思いつつあった。
「チャイナ服を着ている方がイザーちゃんで浴衣を着ている方がうまなちゃんだね」
何か我慢できなくなってしまったのかお兄ちゃんは部屋に入ってきた瞬間に答えていた。私としてはもう少しいろんな衣装を着ている二人を見ていたいと思っていたこと路なのに、お兄ちゃんのせいでせっかくの綺麗な衣装を見ることが出来ずにフラストレーションが少しずつ溜まっていってしまっていた。
それでも、何を基準に見分けているのか気になるというのがこの時点での私の感想であった。
「君はイザーちゃんだね」
「さっきと同じ服を着ているけど、君はうまなちゃんだ」
「柔道着を着ている君はうまなちゃんだよね」
「空手着を着ているのはイザーちゃんだ」
「小悪魔風のイザーちゃんと天使風のうまなちゃんだね」
「二人ともゾンビメイクをして原形が残っていないけど、頭が割れている方がイザーちゃんで内臓が飛び出ている方がうまなちゃんでしょ」
どんなメイクをしても、服を交換して同じように入ってきてもお兄ちゃんの目はごまかせていなかった。
素顔がわかる状態で見分けることが出来るのはまだいい。私にもわからないちょっとした特徴があってソレを基準に見分けているのだと考えることが出来るから理解出来るが、完全に素顔がわからなくなっているゾンビメイク状態でも見分けることが出来るというのはちょっと良くないことだと思う。
なぜなら、お兄ちゃんが二人を見分けているのは顔や表情ではなく体を比べて違いを見つけているという事になるのだ。
顔をじっと見て比べているというのも気持ち悪いとは感じてしまうが、体を見比べていると考えてしまうと本当に気持ち悪く思えてしまう。私の事もそう言う目で見ていたのかと考えると、もう少しだけ見えない部分も見せてあげようかなという気持ちにもなるのだが、他の人に対してそんな事をするのはやっぱり許せないことだと思う。
うまなちゃんもイザーちゃんも所謂グラビア体型というものではないものの、それなりに体の凹凸があるわけだから男のお兄ちゃんが見てしまうのも無理はないと思いつつも、そんな風に他の女の事を見るなんてあってはならないことではないだろうか。いや、絶対にやってはいけないことの一つだと言えよう。
それでも、まだ体ではなく声や息遣いで見分けているという可能性もないわけではないのだ。
ただ、息遣いで見分けているのだとしたら、それはそれで気持ち悪いという事になってしまう。
「こんなに正確に当てられるとは思っていなかったな。途中から自分の方が間違っているんじゃないかって錯覚にも陥っていたけど、悔しいことに君の答えは全て正解だったよ」
「自分たちが考えられる手はすべて打ってきたし、これ以上私たちが二人の違いを潰すことは出来そうもないよ」
「そんなわけで、この勝負は私たちの完敗だね。ここまで見分けてもらえるって、凄く光栄なことだと思うな」
「ちなみになんだけど、妹ちゃんは私たちの事を見分けることが出来たかな?」
本当の事を言うと、私の正解率は半分にも満たないと思う。お兄ちゃんが答えるのが早すぎて悩む暇もなかったという事もあるけど、お兄ちゃんが答えた後でも自分なりの答えは思い浮かべていたものの、不正解が続いていた。
お兄ちゃんみたいに見た瞬間に答えが浮かんだ時だけはそれなりに正解率が高かったと思うのだけれど、少しでも悩んでしまうとお兄ちゃんの方が間違っているんじゃないかという気持ちになり、次こそはお兄ちゃんが間違えるという考えになっていたのかもしれない。学校のテストじゃないんだから全問正解なんて出来るはずがないという思い込みと、お兄ちゃんが私以外の女の事を正確に答えてほしくないという感情が入り混じって不正解であれと強く願っていたのかもしれない。
私はその事をオブラートに包んで間違いの方が多かったと伝えることにした。
「妹ちゃんも私たちの事を見分けられるのかと思っていたんだけど、普通でよかったよ。兄妹そろって全問正解されたらどうしようかって不安だったんだよね」
「裏で色々作戦を練っている時に話していたんだけど、妹ちゃんの真剣なまなざしは全問正解しているんじゃないかって思わせるくらいに凄かったからね」
「私なんて全然ですよ。兄貴はちょっと気持ち悪いくらいでしたからね。あんなにすぐに答えを出して正解するなんて、やっぱり兄貴は気持ち悪いなって思っても間違いないですもん」
「あんまり気持ち悪いって連呼してほしくないんだけど。俺なりに頑張った結果なんだけどね」
お兄ちゃんが何を頑張っていたのか知らないけど、今の時点でも十分に気持ち悪いと思えるのは間違いが無かった。




