第十六話 プレゼントの魔力
お兄ちゃんはいつも私が欲しいと思っている物を欲しいと思っているタイミングで買ってきてくれる。あのメガネの女の子が言っていたように未来を見通す力が有るのじゃないかと思ってしまうくらいに絶妙なタイミングなのだけど、私が調べた限りではお兄ちゃんにそんな能力は無い。もちろん、何度目かの人生をやり直しているという事もないようだ。
お兄ちゃんはそう言うことには気が利くのにも関わらず、本当にしてほしいと思っていることは絶対にやってくれないのだ。
血の繋がった兄妹だから仕方ないという事は理解しているけれど、そんな些細な問題を気にしないくらいに強い気持ちで接してほしいと思っているのである。
「昨日の夜から気持ち悪いくらいに浮かれてたわりには早い帰宅だったね。途中で何かあったの?」
私は意地悪だ。
お兄ちゃんに何があったのか全部知っているのにソレをお兄ちゃんの口から言わせようとしている。
でも、私はお兄ちゃんが本当の事を全部言ってくれないという事も知っている。
私が聞きたくないことを避けて話してくれるという優しいお兄ちゃんだと知っているのだ。
「そんなに浮かれていたって自覚は無いんだけど、ゆまがそう言うんだったら間違いないんだろうね。でも、目的はちゃんと達成出来たからね」
目的が達成出来たってどういう事だろう?
あのメガネの女の子と会うことが目的だとは思えないし、あのよくわからない店でチンピラに絡まれるのも目的だとは思えない。
ファストフード店で過ごすことが目的だったとしたらあの変な店で絡まれた時にさっさと逃げていたと思うし、まさ先輩に会ったこともお兄ちゃんの計画には入っていなかったと思うから関係ないだろう。
お兄ちゃんの目的っていったい何なんだ?
「さっきからニヤニヤして気持ち悪いんだけど、兄貴の目的っていったい何だったの?」
「それはね、コレを買いに行ってきたのさ」
じゃーんという効果音を自分で出しながらお兄ちゃんはプレゼント用の袋を差し出してきた。
お兄ちゃんが買い物をしたところを見ていなかったので袋の中身が何なのか本当にわからない。まさ先輩なんかにかまっていなければ中身が何かなんて想像する必要も無かったのに、この辺にドキドキしてしまう時間の責任をまさ先輩に取ってもらう必要が出てしまった。あの時にちゃんと無視しておけばよかったと思う反面、お兄ちゃんが何を買ったのかわからないので袋を開けるときの楽しみが出来たと思う気持ちもあった。
でも、やっぱりまさ先輩は余計なことをしてくれたと思う気持ちの方が強くなってしまう。
「気に入ってもらえると思うんだけど、開けて確認してくれるかな?」
「え、今ここで開けないといけないの?」
「いけないってことは無いんだけど、ゆまが喜んでくれると思って買ってきたからさ。大丈夫かどうか知りたいんだよね」
「なんか、私が貰ったものを私の好きなタイミングで開けたいんだけど。そうやってお兄ちゃんの気持ち優先で開けるとか、どうなんだろうね」
ちょっと言いすぎかもしれないと自覚はあるのだけど、お兄ちゃんが少し悲しそうな顔をしているのを見るのも嫌いじゃない。責められる時はそれなりに責める事が二人の関係性をより濃いものに変えてくれるのだ。
少なくとも、私とお兄ちゃんにはこんなことで壊れるような関係ではないと信じている。
それにしても、この袋の中身はいったい何なんだろう?
持ってみた感じではそこまで重いものではないのでゲーム機や本ではないと思う。
箱に入っていると思われるので中身はハッキリとしないのだが、いつかどこかでこの大きさの箱と同じ重さの物を持っていたような記憶はある。小学生の時に全く同じ形状で同じ重さの箱を持って喜んでいたかもしれない。
あの時の箱と同じものだとしたら……お兄ちゃんは小学生の時の私が喜んだものと同じものを買ってきてくれたという事になる。のか?
私が袋を開けるのを今か今かと待ちわびているお兄ちゃんの表情を見ているとどっちがプレゼントを貰った側なのかわからなくなりそうだが、こんなに無邪気な顔で楽しみにしているお兄ちゃんの顔を見るのは二週間ぶりくらいのような気がする。
もう少しだけ焦らして、お兄ちゃんの子の表情を堪能してしまおうかなんて思っていたけれど、あんまり意地悪なことをするのは良くないと思って、いったん袋の中身だけでも確認してあげようかなと心を入れ替えてあげた。
「そんな顔で見られると開けにくいんですけど。爆発とかしないよね?」
「爆発なんてするわけないでしょ。爆発する者だったら俺も離れてると思うし。そもそも、俺がゆまを殺そうとするはずがないよね」
「それはそうなんだけどさ、なんかそのワクワクしながらドヤってる兄貴の顔が気持ち悪いんだけど」
表情豊かなお兄ちゃんと違って、私は冷静を装って表情を固定していた。
お兄ちゃんが私のためにプレゼントを買ってきてくれたという事実に飛び跳ねてしまいそうだし、お兄ちゃんの目的も私のためにこのプレゼントを買ってきてくれたという事なんだと今更気付いた事にも表情が崩れてしまいそうな原因の一つだった。
それでも、私はどんな拷問を受けたとしても表情を崩さないという訓練を思い出して心を落ち着かせていた。
でも、お兄ちゃんが私のためにプレゼントを買ってきてくれたという事実が私の心を強くかき乱してしまう。
今の状態でほんの少しでもお兄ちゃんに触れてしまうと、私の理性はどこかへ行ってしまいそうだ。




