探偵の真意
出勤してからようやく探偵と二人きりで話すことができる。とはいっても私は探偵の電話番号をしらない。つまり、私は向こうからの電話を待つしかないのだ。
控え室は私が入ってからしばらく沈黙が流れている。私はただ自分のスマホをただじっと眺める事しか出来ない。
すると手に持っていたスマホが短く震えた。画面がつくと通知が見えた。
「ここの音響で話せる」
ということは電話ではなく、さっきみたいに誰もいないところに話しかければ、探偵と話をすることが出来るのだろうか?
いや、正確に言えば、この場にいるのは私だけだった。相手の姿が見えないと話しかけてもいいものなのかわからない。
もしかしたら、相手も私が話を始めるのを静かに黙って待っているのだろうか?でもいったいなんの話からはじめれば良いのだろうか?聞きたいことがありすぎて話の入口を見つけることができない。
とはいえ、私から話を要求しておいて、なにも言わないのはそれはそれで失礼だ。一応上司にあたる人であることに変わりない。私はとにかく今一番聞きたい事を尋ねることにした。
「それで、私はまずなにをすればよろしいですか?」
これが一番聞きたい事だった。最初にこの場所に潜入したときに与えられている任務はしっかりこなしているつもりだ。だが、ここから先はなにも言われていない。ノウハウもない。無茶ぶりも良いところだ。だったらせめてある程度の指南を要求しても失礼ではないだろうという考え故の質問だった。
しかし、すぐに探偵からの返答は得られなかった。やはり彼にとっても今回のことは計算外な内容で、考える時間が必要なのだろうか?
「そもそも私にこんな事件を解決できるでしょうか?」
今回の事件は紛れもない殺人未遂事件。たとえさっきの中に殺人を企てた人間がいなかったとしても、起きてしまった事実を考えれば、この近くにそういう危険な人物が潜んでいるのは間違いない。そんな恐ろしい人間に立ち向かって、真実を暴くことが果たして、危険なこととは無縁の世界で生きてきた自分にできるのだろうか?
だがいくら質問を誰もいない部屋で投げ掛けても探偵からの返答が得られない。私は質問をしすぎているのだろうか?いろんなことが起こりすぎていて、頭の中の考えが堂々回りして疑問や不安が質問として沸き上がってくる。
すると、会場のスピーカーがえらく騒がしくなった。そして間もなく静かになると、ようやく探偵の声を聴くことができた。
「すまない。ちょっとお手洗いに行っていて席を外していた。それで、なんの話?」
「えーっと・・・」
今の気持ちをなんと形容したら良いのだろうか?私は膝から崩れそうになった。
「すまない。マイクを通して話してくれないと、私には聞こえなくてなぁ・・・」
確かにそうだった。私の中で彼に言いたいことがまた一つ増えた気がする。
「もしかして君、緊張しているな?」
私が控え室に転がっていたハンドマイクを持ち、言葉を発しようとするかしないかの絶妙なタイミングで至極当たり前のことをわざわざ質問にしてきた。
「当然です。一応言っておきますけど初出勤ですよ?それなのに未経験のことを頼れる人間が近くにいない状態でやらなければならないなんて、緊張なんて言葉じゃ足りませんよ」
私は気が付けば、感情に任せて自分の思いの丈を姿の見えないどこかにいる上司にぶつけていた。
「それはすまない。君には悪いことをしたと思っているが、大丈夫だ。私が付いている。それにこの事件はそんな大した事件でもなんでもない」
「それはあなただからそう言えるのであって、推理小説も読んだことがない私からしたら・・・」
「そういう意味ではない」
ようやく私の悪態が止まった。私は探偵の次の言葉を待ち望んだ。
「この事件は幸いにも無差別的犯行ではない。何かしらの理由で被害者に危害を加える計画性を持った犯行だろう。それが計画通りだったのかは知らないがね」
「それのどこが大したことがないんですか?」
私の言っていることを否定した割には、その根拠がありえないくらい弱いものだった。
「つまり、必ずどこかに真実へとつながるヒントがあるってわけだよ新人君!」
もしかして、私はいま説得されているのだろうか?
「あなたは本当にこの事件の捜査を何も知らない私にさせるおつもりですか?」
「ああ」
私の質問に食い気味で返答が来た。
「それって被害者に対して失礼ではないですか?」
「何が失礼なんだよ。君は被害者の為に真実を暴いて、犯人を見つけようとしているのだぞ?それのどこが失礼なのだ?むしろあれだけの人々がいて、真実を暴くどころか、食い物にしようとしたんだぞ?むしろ彼女は君に感謝するべきだろうよ」
まぁ、私も彼にさらし者にされなければ、今頃この会場からフェードアウトするつもりでいたのだが・・・。
「でも、それで私の推理が間違えてしまったら・・・」
「それは確かに気を付けなければならないな!」
ようやく彼に、私の真意が届いたような気がした。だが、彼の返答は私の求めているものとは似ても似つかなかった。
「だからこそ、どんなに時間をかけてもいいから慎重に捜査をして悩みすぎるくらいに悩んでくれ!」
「はい?」
私は彼に対して言葉を発するのがやっとだった。
「先ほどから言ってますけど、私は悩むことすらできないほどの素人なんですよ?」
「だからって私が教えてしまったら、すぐに事件を解決してしまうからなぁ・・・それでは意味がないんだよ・・・」
私は今の一言で具体的にはわからないが、彼の裏にある真意の存在を感じた。
「まぁでも捜査が全く進まないのもこまっちまうからなぁ!ひとまず彼らの昨日までの足取りでも聞いたら良いと思うぞ!彼らは全員、何かしら隠し事をしているに違いないからな!」
「わかりました!やってみます!」
話の最初はどうなることかと思ってはいたが、どこからかどうにかなりそうと思える自分が現れた。
「いいか!とにかくじっくり考えるんだ。時間をかければかけるほど真実は近づいてくるはずだ!」
要するに私のこれからの任務は時間稼ぎということだ。それがいったい何の意味を成すのかはわからない。とにかくじっくり時間を稼いで、この事件を解決に導く!
だが、そう気持ちを振り立たせても、体は正直だった。私は足を小刻みに揺らしながら、か細い声で容疑者四名がいる宴会場へと歩みを進めた。
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第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1




