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新米探偵助手は読者の推理が頼りです!  作者: マフィン


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パナケイア

 トイレから早足に会場へ戻ったが、出て行った時と風景はそこまで変わらなかった。とは言っても、もうそろそろイベントが始まってもおかしくはない。もし、これ以上彼らを待たせてしまったら、半数以上のメディアの人間が退出するであろうと安易に想像できるくらい、後方から見ると皆、左手首もしくは右手をチラチラと確認している。


 その時、ふと会場の後方に不自然に置かれている二つのパーテーションが目に入った。


 なんでこんなところに?


 確かに、前方はパーテーションだらけだ。まるで臭いものには蓋をして、見栄を大事にしているかのように、前方には何枚ものパーテーションが行儀よく並べられている。


 だが、ここだけはそうは思えなかった。前方のそれらとは違い、どこか空気のように周囲に溶け込もうという意気込みを感じた。


 まぁどんな会社にも、一つや二つ隠すべきものがあるのは当然だ。私はすぐに自分の席へと戻ろうとすると、会場内の照明がゆっくりと小さくなっていくのを感じた。


 どうやら、ようやくイベントが始まるのであろうか?メディアの人々も、一斉に体制を整えて、これから始まる催しに集中する準備を整えた。


 やはり、一部上場の大手の会社が主催するイベントだけあって、周りの人間の気合を感じる。


 そんな中私は、どこか場違いな気分で自分の席へ腰掛ける。その頃には会場内は一切の明かりがなくなっていた。


 暗闇の中で期待と緊張が入り混じっている。一瞬の静寂の後、それを盛大にぶち壊すように、大音量のファンファーレが会場中に響き渡った。すると、暗闇だった会場内に、一つの明かりが後方から演台に向けて伸び、その光が照らす先には、無人だったはずの演台立つ、一人の女性が緊張と覚悟が入り混じった表情でこちらを見据えていた。


 先ほどアナウンスをしていた女性だった。


 彼女は大きく息を吸いながら、顔を少しマイクへと近づけると、まっすぐと落ち着いた声を発した。


 「皆様、大変お待たせいたしました。ただいまより、株式会社エナジーヘルスの新商品、「パナケイア」のデビューイベントを開始させていただきます」


 彼女の開会宣言に、メディアの人々は拍手で応えた。


 それに対して、彼女は小さく頷きながら、明らかに喝采が鎮まるのを待っているような表情をしている。そして喝采は思っていたよりもすぐに収まり、再び彼女の話すタイミングがやってきた。


 「ありがとうございます。改めまして、本日は、我が社が自信を持ってご提供いたします、新感覚のエナジードリンク、パナケイアのデビューイベントにご参加いただきまして、誠にありがとうございます。申し遅れました、私は、本日の司会進行を仰せ付かりました、株式会社エナジーヘルス広報の来栖明美と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」


 来栖がお辞儀をすると、再び拍手と共に無数のフラッシュとシャッター音が起こった。先ほどよりも大きく長い拍手に感じた。目鼻立ちの整った、まるで女子アナのような顔立ちと、華奢な体格から男が多いメディアの人々には、商品よりも好印象なのかもしれない。


 来栖が顔をあげると、次の言葉を待つように拍手がやみ、彼女の話す空気が自然と出来上がった。


 「それでは早速、本商品のプロジェクトリーダーより、詳細な説明をしていただきましょう」


 どこか急に来栖の紹介に気迫が失われた気がした。もしかしたら、フラッシュで目をやられたのか、気合が入りすぎて、少し息が続かなかったのかもしれない。すると、わずかに彼女の咳払いをする音が聞こえた。


 どうやら後者だったようだ。


 すると、先ほどのパーテーションの上手側から女性を先頭に三つの人影が現れた。


 「プロジェクトリーダーの青柳美江です」


 来栖の紹介を受け、先頭を歩いてきた女性が、中央へと入ってきた。スポットライトは来栖から青柳へと移る。拍手で出迎えられ、笑顔でこちらに会釈をするその目には、どこか虎を思わせるような鋭さを感じた。そして汚れや乱れ一つない身なりを見て、先ほどの怒号の正体が彼女であるという確信を持った。


 青柳は再び深くお辞儀をすると、会場内が少し明るくなり、その出立に相応しい力強い声で挨拶を始めた。


 「関係各社の皆様、本日はご多忙の中、我が社の新商品、パナケイアのデビューイベントにご参加いただきまして、誠にありがとうございます。私が本プロジェクトのリーダーを務めました、青柳美江と申します」


 そういうと、彼女は上手側に視線を向けた。そこには、二人の男性と一人の女性が立っていた。


 「商品の紹介に入る前に、このパナケイアの開発チームをご紹介いたします」


 すると、彼女に一番近い距離にいた、一人の男性が一歩前に出てきた。


 「まずは商品開発チームリーダーの岩倉健斗」


 「よろしくお願いします。こちらがメンバーの高瀬裕也です」


 青柳の紹介に岩倉が一礼をすると、その隣にいた男を紹介した。


 「高瀬です。よろしくお願いします」


 私はその時、ふと朝の出来事を思い出した。この高瀬という男は、ホテルの人間と間違えて、会場の場所を聞いた男だった。


 やはりそっちの人間だったのか。


 「広報の来栖」


 来栖が再び一礼をする。やはりどこか来栖に対してのメディアのリアクションにひいきを感じる。


 「そしてアシスタントの谷川」


 高瀬の隣にいた女性が一礼をした。この女性も私は見たことがあった。あの遅刻をしていたあの女性だ。どことなく生気が薄い表情をしている気がした。


 「以上メンバーが自信を持ってご紹介いたしますこのパナケイアは、先ほどの紹介にもあったように、新感覚のエナジードリンクとして産声を上げました。ギリシア神話に登場する癒しの神からその名を得るに相応しく、皆様には本当の意味での癒しを感じていただける商品に仕上がっております」


 青柳の淡々とした説明はまるで、カリスマ講師のように左右に動き回りながら、我々の脳に直接商品のイメージを働きかけてきた。


 「従来のエナジードリンクのような、カフェインによる覚醒作用に頼らず、製薬会社としての実績をもつ我が社が、独自に開発いたしました成分、クルゲン酸が体の疲労に直接働きかけ、疲れた体の根本から癒しを与えてくれます。従来のような覚醒作用によるパフォーマンスではないため、皆様自身の本来のパフォーマンスを体に負担を与えずに発揮させることが可能になるのです」


 私はクルゲン酸というワードをメモした。やはり他のメディアもこの説明にリアクションを一切しない選択肢はないようだ。皆、熱心に彼女の説明に耳を傾けている。そのせいで、逆に産業スパイのような怪しい人物を見極めることができずにいた。


 「私の説明はこれくらいにして早速、パナケイアに登場していただきましょう」


 青柳はそういうと、居心地が良さそうな中央から下手がわに避け、上手側に鋭い眼を向けていた。恐らく、一番はじにいる谷川という遅刻をしていた女性に向けられているのだろう。


 「以上、プロジェクトリーダー青柳による挨拶でした」


 来栖の言葉に微動だにせず、谷川はこちらの全体を眺めるように、視線を移動させていた。


 「それでは新商品のパナケイアの登場です」


 いよいよ問題の商品が現れるようだが、私の意識は今パナケイアにはなかった。こんなにヤキモキしたのは久しぶりかもしれない。

お読みいただきありがとうございます。ぜひ評価、ブックマーク、感想をしていただけるとかなり励みになります。

よろしくお願いします。


第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1


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