犯人はあなただ!谷川さん!その5
宴会場には高瀬の高笑いが不気味に響き渡っている。
「高瀬さん・・・やっぱり谷川さんが言ってた計画は事実だったんですね?」
岩倉は怒りの感情を押し殺しながら、そう言うと、高瀬はゆっくりとこちらに目線を向けた。
「ああ、だがそれも全部どこかの誰かが妙な騒ぎを起こしたせいで失敗したよ」
「どうしてこんなことをしたんですか?」
岩倉の感情が爆発した。だが、それを上回る感情で高瀬は言い返した。
「すべてはクライアントの利益のためですよ!このパナケイアは一見すると普通のエナジードリンク。だが、糖を少々加えるだけで即効性のある完璧な猛毒の完成だ。しかも自然由来の成分のおかげで、毒殺とはなかなか断定されず、さらに味が最悪となれ、味を直すために糖を入れると言う口実も作りやすく、不慮の事故として処理されやすい。この商品は暗殺兵器ととして完璧なんですよ!」
高瀬は楽しそうにまるでこちらに商品プレゼンをして、自分のやったことを正当化しているように見えた。
「あとはプロジェクトリーダーが飲んで速攻お陀仏となる光景さえ、クライアントに見せられれば、今頃注文殺到のはずだった・・・」
高瀬はガックリときているようだ。確かに彼の立場になって考えても、これだけの綿密な計画が失敗したとなれば、落ち込んで当然なのかもしれない。
だが、そんな理由があれ、谷川は彼に容赦するつもりはないようだ。もちろんそれは私も同じだ。
「恐らく今頃、あなたに対して苦情が殺到している頃でしょうな。あなたとクライアントとのやり取りまでが我々に漏れてしまっている以上、彼らも黙ってはいないかもしれないですよ」
谷川が話し終えるかどうかくらいのタイミングで、私の頭の中で嫌な予感がよぎった。そしてそれは的中した。
「だったら全員道連れだ」
高瀬は懐から拳銃を取り出し、空中に撃ち放った。凄まじい発砲音と共に、悲鳴が起こると、ガスや空気が漏れるような音が、部屋中に響き渡る。
私は即座に口を抑えて、体勢を低く保った。もし何か良くないものが漏れているのだとしたら、発生源は今高瀬が撃った天井に違いない。
そんなことを考えていたら、もう一発銃声が聞こえた。
「はっ!」
谷川が振り返った。
「来栖さん!」
岩倉の叫び声が聞こえる。
「これで形成逆転ですなぁ!パナケイアを加工して作った毒ガスを事前にダクトに充満させていたんです。これでこの場にいる全員が確実に死ぬ。そして君たちの死によってクライアントたちもこの商品に飛びつくはずだ!」
高瀬の目は、もう正気ではなさそうだ。
「そしたら、あなただって・・・」
岩倉が撃たれた来栖を介抱しながら、高瀬を睨みつけている。
「どうせ私がこのまま逃げ切っとしても殺されるのは目に見えています。それだけ私が生きている世界は恐ろしいんですよ!」
高瀬の目に恐怖が浮かんでいるのを、私は見逃さなかった。やはり彼も彼で何かを背負ってきている以上、逆に彼が何をしでかすのか予測ができなかった。
「でしたら、我々の捜査に協力してくれれば、あなたの安全は保証します!」
谷川は彼に手を差し伸べた。高瀬の目には迷いが見える。彼の感情は目によく出るようだ。どんなにポーカーフェイスでいたとしても、目は口ほどに物言うとはよく言ったものだ。
そして彼の覚悟も見えてきた。だがそれはこちらとしてはあまり良くない覚悟のようだ。
「いいや、もう何をしても手遅れさ。この毒には解毒剤がない。つまり、今ここでどう足掻いても我々の運命は変わらないということです!」
私は周りを見た。銃で撃たれた来栖、それを介抱する岩倉、最後まで諦めない谷川、そして、恐怖のなかで運命を受け入れた高瀬。私もそんな彼らと運命を共にするということなのか?
「すべてはクライアントの利益のために」
その時、銃声と共に人が倒れる音がした。
「谷川さん・・・」
岩倉が高瀬に銃を向けた谷川を見ている。
「谷川さん、どうして彼を?」
「私が先に死んでしまったら、彼をここに留めておける人間がいません。一般人を犠牲にしてしまう以上、彼だけはどうしても世に放つわけにはいかなかった・・・なぜか、彼の気持ちが今わかった気がします」
谷川の頭にもどうせ死ぬならという言葉が浮かんでいるのだろう。
「高瀬さん・・・」
岩倉は意識が遠退いていく来栖を抱き抱えながら、高瀬を遠い目で眺めていた。
「岩倉さん、巻き込んでしまって申し訳ございませんでした」
谷川は岩倉に顔を向けることなく謝罪した。恐らく、顔向けできなかったのだろう。
「谷川さん、あなたは一体何者なんですか?」
だが、岩倉の質問を遮るように、谷川は空中に話しかけた。
「探偵さん、聞こえてますか?」
「ええ、全て見ておりました」
探偵の静かな声が、宴会場に響き渡る。
「先ほどあなたにお送りしたデータと今日のこの状況をICPOに送っていただけますか?」
ICPOってもしかしてインターポールのことか?それと谷川に一体何の関係が?彼女は拳銃を持っていた。つまり・・・
「わかりました。私が責任を持ってお届けします」
谷川は安堵の表情を浮かべた。
「これで我々の捜査も無事解決ですね」
「このデータがあれば、彼のクライアントにもかなり近づくことができるでしょう。これもあなたの功績だ」
谷川は少しハニカむと私の方を見た。
「あなたもこの度はご協力いただきありがとうございます。そして申し訳ない」
私は胸の底から湧き上がってくる感情を押し殺しながら、黙って首を横に振った。目頭が熱くなる。
その時、谷川はふらっと気を失って、私の方にもたれかかってきた。周りを見ると、岩倉も来栖も気がついたら、気を失っている。ガスが噴出される音だけが宴会場に響き渡るほど辺りが静かになってしまった。
そして、谷川は私の肩にもたれたまま、息を引き取った。私が最後の一人になってしまったみたいだ。
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第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1




