犯人はあなただ!来栖さん!その5
高瀬は急に肩を揺らしながら笑い始め、次第にその笑い声は宴会場の隅々まで響き渡るほどの大きなものになった。
「お飲みになれないということはやはりあなたが・・・」
高瀬の笑い声をバックに探偵の声が聞こえたかと思うと、高瀬はスーツの内ポケットへ手を突っ込み、何のためらいもなく銃を取り出す、
そして私たちがそのまがまがしい黒い塊の存在を認知するまもなく、彼はスピーカーに向けて引き金を引いた。
突然の大きな銃声に我々は思わず身をかがめる。そして、体制を元の位置に戻すと、こちらに銃口を向けた高瀬が虎のような眼でこちらをみている。
「動くな!」
鋭く言い放たれたその一言はまるで今までの高瀬とは別人が発しているように聞こえる。
「高瀬、お前何をして・・・」
岩倉が果敢に高瀬の元へと近づくと、高瀬は天井に銃を打ち付けた。放たれた銃弾は宴会場の天井にある照明を破壊し、破片がこちらへと降り注いでくる。
来栖と岩倉は悲鳴を上げながら再び頭を両手で覆い床に体を張り付けた。
その姿を見て、高瀬はまた高笑いを上げる。
「あーあー残念!せっかくパナケイアを新世代の毒ガス兵器としてプロモーションしている最中だったというのに!!!」
笑ったり怒鳴ったり、高瀬は忙しい男だ。
「それはどういうことだ?」
岩倉がそういうと、高瀬は憎たらしい顔で後方を指さした。
「ほら、あそこを見て」
彼の指に先には一台のカメラがたたずんでいる。私はてっきりイベントの記録撮影用にエナジーヘルスが用意したものだと信じ込んでいた。
「もしかして、ここの様子が・・・?」
「ええ、全世界の私の顧客に配信されていますよ!」
果たして、あのカメラの奥にはどんな人々が見ているのだろうか?そんなこと恐ろしくて考えただけでも寒気がする。
「お前がもしかして、探偵さんが追っている産業スパイだったのか・・・」
岩倉がそう言い放つと、高瀬はめんどくさそうに話を始めた。
「コンサルと称して会社に潜入すれば、俺が何もしなくても勝手に情報が流れてくる。あとはその中からクライアントのニーズに合わせたものを提供する。それが産業スパイと言われるのであれば、おっしゃる通りです」
真の悪人には罪悪感というものがないようだ。
「だが、なんでパナケイアを?」
岩倉の問いに、高瀬はまるで聞かれる事が事前にわかっていたかのように、間髪入れずに答えた。
「簡単なんですよ!カモフラージュをするのがね。一見すると普通のエナジードリンク。だが、糖を少し加えるだけで即効性のある完璧な猛毒の完成だ。しかも自然由来の成分のおかげで、毒殺とはなかなか断定されず、さらに味が最悪となれば、味を直すために糖を入れるという口実も作りやすく不慮の事故として処理されやすい最高の暗殺用兵器なんですよ!この商品は!」
私は彼の話を聞いて、これほど悪用するのにもってこいの商品はないと、逆に感心してしまうほどだった。高瀬は説明をしながら、さらにテンションが上がっていった。
「あともう少し!あとは実演するだけだったんですよ!プロジェクトリーダーが商品を飲んで、速攻お陀仏となれば、今頃はクライアントから注文殺到のはずだった!それなのに・・・」
すると、高瀬の目つきがまた変わった。何か仕掛けてくる。
「まぁ良い・・・これで名誉挽回だ!」
高瀬はそう言い放つと、明後日の方向に銃口を向けて一発発砲した。するとそれと同時にもう一発銃声が聞こえてくる。
我々はその音に反応して身をそらすと。高瀬が悲鳴を上げながら、持っていた拳銃を空中へ放り投げた。
「貴様!」
高瀬が撃たれた先を睨みつける。
「谷川さん」
「谷川さん」
岩倉と来栖も高瀬が睨んだ先に視線を向けると、その先にいた救世主の名前を叫んだ。
その時、私の耳が異変を感じた。どこからともなく、ガスが漏れるような音が聞こえてくる。まさか!さっき高瀬が撃った一発の銃弾は、そのために?
私は嫌な予感が頭をよぎる。ひとまず自分の直感を信じて口を抑えながら、宴会場の出口へと走った。しかし、普通は内側から鍵をかけるはずの宴会場の扉がびくともしない。
「もう遅い!既に扉は俺の部下が対処している。あなたが追い出してくれたおかげで彼らも随分と楽に仕事ができただろうなぁ」
もしかして、あのフリー記者たちのことなのだろうか?
「それにダクトに充満させたパナケイアの成分で作った毒が、あの穴から流れ出て止めることはもうできない。この毒ガスの効果を知れば、クライアントたちは大喜びだろう!」
高瀬は有頂天になっている。
「でも、あんただって!」
岩倉が食って掛かった。
「ああ、だが、インターポールに正体がばれた以上、もはやこれまで。ならせめて貴様らを道連れに、その効果を全世界に見せつけ、わが組織に莫大な利益をもたらすまでさ!」
どうやら、彼はもう正気ではないようだ。
「残念ですが、もうすでにあなたのクライアントとは連絡が途絶えています」
「はぁ?」
谷川の言葉に、高瀬は睨みを効かせた。だがしかし、彼女にはそんなものは通じていなかった。
「あそこのガス噴射装置に気化しやすく加工された猛毒パナケイアを入れて、この部屋につながるダクトに充満させていたということですね・・・」
谷川はそう言いながら、宴会場の後方を指さした。彼女の指の先を見ると、そこにはさっき私が不自然に思ったパーテーションがあった。やはり彼はあそこに何かよからぬものを隠していたようだ。
「ふん、それがどうした?残念ながら、こいつには解毒剤がない。一度糖と混ざれば、もう無毒化は不可能だ!本当にこの物質は神がもたらした賜物だ!」
「いえ、そうでもないかもしれません!」
高瀬の有頂天をまたしても、踏み躙られてしまった。
「どう言うことですか?来栖さん」
岩倉は来栖に詰め寄った。すると、来栖はまっすぐ我々を見て力強く答えた。
「カフェインです」
まさかの物質の名前に、驚きを隠せなかったのは、私だけではないはずだ。
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第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1




