犯人はあなただ!岩倉さん!その4
宴会場は静かなる混乱が巻き起こっていた。その場にいた全員が私の発した言葉を理解することができずに、私の次の言葉を待ちわびている。
「探偵さん?何をおっしゃっているのでしょうか?」
その時、ポケットのスマートフォンが小さく震えるのを感じた。
「失礼」
やはり探偵からの連絡だった。
「青柳さんの血液検査の結果が出た」
私はその通知の中身を見ためにスマートフォンの画面を点けた。彼らは私の一挙手一投足にまで集中している。私としてもこの知らせは絶妙なタイミングで非常にありがたかった。
「たった今、青柳さんの血液検査の結果が出ました」
またもや、彼らの表情が揺らいだ。私は、来栖に視線を向けながら、スマホに書かれている検査結果を告げた。
「青柳さんの血中から睡眠薬の成分が検出されました」
その瞬間、私以外の三人も来栖に視線を向けた。
「そうですか・・・」
彼女は罰の悪そうな顔でつぶやいた。私はさらに追求の手を緩めなかった。
「来栖さん、あなたは確か、外泊の際は睡眠薬を飲まれるそうですね?昨日はそれを会社に忘れて取りにまで行っている」
「それはそうですけど・・・」
彼女はまた何か弁解をしようとしている。だが、私の中の推理は強固な確信へと変わっていた。
「もちろんそれだけではありませんよ?」
「はい?」
弁解を遮られた来栖は、苛立ちを露わにした。
「先ほどの会話ですよ。あなたは岩倉さんのことを詰めていらっしゃる時に、すこし気になる言い回しをされました」
恐らく、来栖は今、数秒前の自分の過ちに気がついたに違いない。彼女は、だんだんと顔を下へと向け始めた。私は、訳がわかっていなさそうな岩倉達に向けて、話を続けた。
「来栖さんは『青柳さんに薬を盛って』とおっしゃっていたんですよ。私は今の血液検査の結果の話をするまで一度も、青柳さんに薬が盛られた話をしておりませんでした」
私はそう言うと、岩倉の方へと視線を向けた。
「岩倉さん、不快な思いをさせてしまって大変失礼いたしました。ですが、私がこの事件の真相を確信するにはこれしか方法がなくて・・・」
「そうだったんですね・・・」
私の謝罪に対して、岩倉はそれどころではなさそうな返事をした。すると、再び来栖の顔があがったのがわかった。何か思いついたのだろうか?
「でも、パナケイア自体はすり替えらえられていたんですよね?だったら結局、青柳さんがあのようになった理由がなんだったのかは、わからないじゃないですか?」
来栖の顔は、必死の形相で全力で私にくってかかってくる。だが、そこで私もそれに引っ張られてしまっていたら、本末転倒になってしまう。とにかく冷静さを保つことを心がけた。
「ですがあなたはそれを私がまだ血液検査の結果をみなさんにお伝えする前から・・・」
「ですから、パナケイアが理由じゃないのなら、別のタイミングで誰かが、青柳さんに薬を盛ったんじゃないかなって思っただけですよ。それが偶然当たっただけ私を疑ってますけど、こんな理論、誰でも思いつくことじゃないですか?」
彼女がそういうと、会場内は今までとは違った雰囲気の沈黙が流れていた。
「であるなら来栖さん。あなたがお持ちの睡眠薬をお見せいただけませんかね?」
来栖の目が明らかに泳ぎ始めた。
「そんなものはとっくに・・・」
だが、私の目はずっと来栖の目を捕らえて離さなかった。
「あなたは昨日、睡眠薬を飲もうとした時、青柳さんに呼ばれてしまい、睡眠薬を飲んでいなかった。そうでしたよね?」
来栖はまたしても顔を下に向けてしまった。
「でしたら、他の誰かに飲ませていない限り、あなたの睡眠薬はまだまるまるあなたの手元にあるはずです。違いますか?」
「それは・・・」
彼女に弁解させるのはこの状況では逆に酷なことだ。それだったら・・・
「さぁ、来栖さん。薬を見せていただけませんか?」
私は柄にも無く強めな追求で来栖に詰め寄った。彼女はずっと下を向いたまま、反応がなかった。すると、これまでのやり取りを心配そうに眺めていた岩倉が、来栖の元へと近づいた。
「来栖さん?」
すると、彼女の身体が小刻みに震え出したのがわかった。
「だって・・・あの人は何もわかっていなかった・・・」
「来栖さん?」
岩倉は彼女の言葉を理解しようと寄り添ったが、それを思いっきり拒まれた。
「あなたもですよ!岩倉さん!」
岩倉は来栖の声に驚きながらも、どこか心当たりがある表情をした。
「三年間、私がどんな想いでこのプロジェクトに携わってきたか・・・」
岩倉は言葉を失っている。すると、来栖は岩倉と私に自分の想いを打ち明けてくれた。
「私は学生時代、青春の全てをパナケイアに捧げてきた。体に負担を与えずに父を・・・いや人類を癒したいその一心で。ところが三年前、クルゲン酸が糖と反応したことで猛毒が発生してしまうことがわかったあの時・・・、開発の第一人者だった私は責任をとって製品開発部を辞めさせられた。私はこれまでの人生がなんだったのかわからなくなった」
すると、来栖は岩倉をまっすぐと見た。
「でも岩倉さん、あなたが開発を引き継いでくれるのなら、私の想いを知っているあなたなら、きっとパナケイアを大事にしてくれると思ってた。でも、それは間違いでした」
来栖の言葉を受けて、岩倉は俯いた。それでも彼女は容赦無く岩倉には耳がいたい話を続けた。
「パナケイアが完成した一年前から、あなたは味についての相談を青柳さんや高瀬さんをはじめ多方面の人間にするようになりました。味が良くなければ売れない。売れるためなら、信念を捨てるしかない。あなたも他の人と同じように、金に目がくらんだんですよ」
「それはちがう」
来栖が岩倉に言い捨てると、彼は勢いよく反論した。ようやく来栖の勢いが治まり、岩倉も自分の気持ちを話すチャンスを得ることができた。
「君ほどではないかもしれないけれど、私もそして青柳さんだってパナケイアの可能性を信じている気持ちは同じだ」
岩倉は息を切らしながら、来栖に訴えかけた。だが、すぐに彼女の反論が返ってきた。
「でも、本来のパナケイアじゃなければ意味がないんです!このイベントがうまくいけば、このプロジェクトに参加しているメンバーに高い名声が手に入るのも目に見えていた。でも私はパナケイアを壊した連中がそうなるのは許せなかった。それにただ、金儲けの道具にされたパナケイアを救いたかったんです」
来栖は涙を拭いながらそう言うと、胸元に手を入れた。
「いえ!救います!」
彼女の手元からナイフの刃の反射する光がこちらを向いていた。
お読みいただきありがとうございます。ぜひ評価、ブックマーク、感想をしていただけるとかなり励みになります。
よろしくお願いします。
第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1




