犯人はあなただ!谷川さん!その3
谷川は自分に疑いをかけられていると言う状況にも関わらず、全く動じている様子はなかった。
「探偵さん。私を疑うのでしたら、ぜひその根拠をお教えいただけませんか?」
話し方は新人の慣れないような口調だったが、その表情はまるで、いくつもの修羅場を潜り抜けていた猛者のような勇ましい表情だった。とりあえず、私は言われた通り、彼女を疑う根拠を述べた。
「あなたは三ヶ月前にこの会社に入り、それからと言うものアシスタントとして、プロジェクトを影ながら支えてこられた。だが、言い換えれば、影に身を潜めて。プロジェクトを静観していたとも言えますねぇ」
「頑張っていたつもりでしたが、いかんせん私は不器用なので、結果的にはそうなってしまっていたかもしれないですね・・・」
なんだか言い放ったこちらに罪悪感が残るような返しだった。しかし、岩倉が追い討ちをかけてきた。
「かなり大きなプロジェクトでしたし、それに完璧主義の青柳さんともそりが合わなかったのも確かですしねぇ」
「それにあなたは必要以上に青柳さんから厳しい叱責を受けておられていたようですし・・・」
彼女が青柳にそう仕向けていたのかもしれない。そうすれば、真っ先にこう言う状況になった時に容疑から排除されるだろう。
「ですが、それは自分のせいだと思っていますので・・・」
逃げようとしているのだろうか?だが、残念ながら、根拠はそれだけではない。
「それに昨日のあなたの行動は、かなり曖昧なものばかりでしたので、想像力が豊かな私からすると、仮説を立てるのが捗ってしまうほどです」
「確かに、彼女が青柳さんの忘れ物を取りに戻ってからは、彼女には誰も会っていませんからねぇ」
なぜか容疑が晴れたと思っているのか、岩倉も私の推理ショーに参加し始めた。
谷川もだんだんとこちらに訴えかけるような口調になり始めてきた。
「それは私もそう思いましたけど、先ほど探偵さんにもおっしゃいましたが、私は早めにお休みさせていただいていたので・・・」
「確かにそれは取り調べの時にもそうおっしゃっておりました」
私は谷川の言葉を早めに切り上げた。
「ですが、それを証明できる人も居ないんですよね?」
今度は高瀬まで、この推理ショーに参戦してきた。なんだかみんなで新人をいじめているように感じてしまっているのは私だけなのだろうか?だが、谷川も負けてはいなかった。
「まぁそれはそうですけど・・・。でも私がその時間に何かをしていたと言う証拠もありませんよね?」
谷川がそう言うと、他の容疑者もそれに無理やり反論しようと体が前のめりになっているのがわかった。
「まぁまぁ昨日についての話はこれくらいにして、今日の話をした方が良さそうですね?」
私は慌てて彼らから彼女を遠ざけた。ようやく我に戻ったように目を覚ました彼らは、それでも谷川への疑いなのか?それともただ谷川に罪を着せているのか?どちらにしても、谷川に対しての白い眼差しが容赦なく注がれている。
私は慌てて次の質問をした。
「今日の朝、パナケイアをこの会場へ用意したのはどなたですか?」
「それは私ですね」
手を挙げながら、堂々と答えたのは高瀬だった。するとすぐに岩倉の助け舟がきた。
「ですが、彼は昨日の打ち合わせから私の部屋にいましたし、朝、私の部屋から朝食会場を経てこの会場へは私も一緒に来ています」
すかさず岩倉が反論しにくる。
「その間にお二人のどちらかでも結構ですが、そのパナケイアを口にされましたか?」
私は絶対に彼らにこの話の主導権を握らせたくはなかった。
「いいえ」
高瀬は端的な答えだ。
「前の日に確認していますからする必要は・・・」
「ということは、その時にすでにすり変えられていてもわからないというわけですか?」
岩倉の何度目かの反論の途中だったが、私は、それを綺麗に遮れるくらいの大きな独り言を口にした。
「すり替えられた?」
岩倉はまるで絵に描いたみたいなリアクションをとった。
「ああ、失礼しました。私も時々いろんなことで夢中になりすぎると、周りを置いてけぼりにする癖がございまして・・・」
「はぁ・・・」
私は単純にそのすり替えられたことについての質問が煩わしくて、あえてうっかり口にしてしまったということを装って、めんどくさい質問を阻止して、話を先へ進めた。
「では、イベント本番でパナケイアが公に登場する前、最後にこのパナケイアを触ったのはどなたですか?」
「それは谷川さんですね」
またしても、高瀬が答えた。その間、岩倉はその時の情報を思い出そうと、目線を天井に向けている最中だった。だが、すぐにまた反論を始めた。
「我々はパナケイアとは反対側にいましたので、パナケイアをセットした後は、谷川さんと来栖さんと岩倉さんしか触れられる人はいませんねぇ」
「私はずっと会場にいましたので・・・」
来栖は直ちに自分の無罪を主張した。すると、谷川は勢いよく片手を綺麗に上げた。
「はい!私以外は、パナケイアを触っていません」
来栖とは打って変わって、谷川は直ちに自分への容疑を主張した。果たして彼女のこの動きはどういうことを意味しているのだろうか?
その時、ポケットのスマートフォンが小さく震えるのを感じた。
「失礼」
やはり探偵からの連絡だった。
「青柳さんの血液検査の結果が出た」
私はその通知をすぐに開いた。
お読みいただきありがとうございます。ぜひ評価、ブックマーク、感想をしていただけるとかなり励みになります。
よろしくお願いします。
第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1




