犯人はあなただ!来栖さん!その3
その場にいる四人はスマホを開いている私に注目していた。このタイミングでスマホの画面を凝視していたら、何かこの事件において重要なことが書かれていると、誰しもが思っているのだろう。
「どうかなさったのですか?」
岩倉が尋ねてきた。まぁこの際、隠しておく必要もない。だが、これはあくまで事件解決のためである。
「来栖さん、たった今、青柳さんの血液検査の結果が出ました」
来栖は黙っていた。私は念の為もう一度、探偵から送られてきたメッセージの内容を読み直し、再び来栖を含めた、容疑者たちに視線を向けた。
「やはり、私の推理通り青柳さんの血中から睡眠薬を過剰に摂取された痕跡が検出されました」
それでも来栖は黙ったままだった。
「来栖さん・・・」
岩倉もことの顛末を確信してしまったようだった。来栖はだんだんとうつむき始めた。さっきまでの勢いは失われ、もはや手詰まりの状態を悟っている様子だった。
「来栖さん。あなたがお持ちの睡眠薬を、お見せいただけませんか?」
私はゆっくりと語りかけた。
すると、来栖の目から涙が溢れ、彼女の大きな瞳でさえも抱えきることが出来なかった。
そして呼吸を少し乱すと、少しだけ顔を上げた。この宴会場が来栖の話を聞く準備を整えているかのように、静寂が来栖の声を待ち侘びている。
来栖はそれに答えた。
「だって・・・あの人は何もわかっていなかった・・・」
第一声を発すると、岩倉は頭を抱えた。
「来栖さん・・・」
岩倉は優しく寄り添おうとしたが、それは拒まれた。
「あなたもですよ!岩倉さん!」
岩倉は来栖の声に驚きながらも、どこか心当たりがある表情をした。
「三年間、私がどんな想いでこのプロジェクトに携わってきたか・・・」
岩倉は言葉を失っている。すると、来栖は岩倉と私に自分の想いを打ち明けてくれた。
「私は学生時代、青春の全てをパナケイアに捧げてきた。体に負担を与えずに父を・・・いや人類を癒したいその一心で。ところが三年前、クルゲン酸が糖と反応したことで猛毒が発生してしまうことがわかったあの時・・・、開発の第一人者だった私は責任をとって製品開発部を辞めさせられた。私はこれまでの人生がなんだったのかわからなくなった」
すると、来栖は岩倉をまっすぐと見た。
「でも岩倉さん、あなたが開発を引き継いでくれるのなら、私の想いを知っているあなたなら、きっとパナケイアを大事にしてくれると思っていた。でも、それは間違いだった」
来栖の言葉を受けて、岩倉は俯いた。それでも彼女は容赦無く話を続けた。
「パナケイアが完成した一年前のあの時から、あなたは味についての相談を青柳さんや高瀬さんをはじめ多方面の人間にするようになりました。味が良くなければ売れない。売れるためなら、信念を捨てるしかない。あなたも他の人と同じように、金に目がくらんだんですよ」
「それはちがう」
来栖が岩倉に言い捨てると、彼は勢いよく反論した。ようやく来栖の勢いが治まり、岩倉も自分の気持ちを話すチャンスを得ることができた。
「君ほどではないかもしれないけれど、私もそして青柳さんだってパナケイアの可能性を信じている気持ちは同じだ」
岩倉は息を切らしながら、来栖に訴えかけた。しかし、来栖の心にはまだ響いていないようだった。
「だったら、あの会話はなんですか?」
「会話?」
「昨日、私が大浴場へ向かう途中、青柳さんとあなたが話していたあの会話ですよ!」
岩倉はすぐに頭の中に思い浮かべることが出来たのか、またもや頭を抱えている。
「青柳さんの味変更の提案を最初あなたは否定していました。私も安心していたのに、結局あなたは青柳さんの売れるためには仕方がないという一言に説得されてしまい、今日を迎えたんです。それを聞いた時、私は孤独でした」
来栖の声は上擦っている。私は彼女の悔しい想いを感じていた。それは岩倉も同じだったようだ。会場にいた人間は誰一人として、彼女に言葉をかけられずにいた。
「それで、朝のミーティングで呼び出された時に、睡眠薬を盛り青柳さんの意識が朦朧としている状態でイベントに出席させ、失敗を誘発させる。それがあなたの狙いだったんですね」
私は意を決して静かに言葉をかけた。
「このイベントがうまくいけば、パナケイアが売れるのは目に見えていました。でも本来のパナケイアとして世に出ないのなら、意味がありません。私はそれをなんとしてでも阻止しなければならなかった。ただ、金儲けの道具にされたパナケイアを救いたかったんです」
来栖は涙を拭いながらそう言うと、溢れてくる感情に耐えきれず再び涙を流してしまった。
それを見ていた岩倉が来栖の前に立つと、そのまま頭を下げた。
「来栖さん、申し訳なかった」
岩倉は誠心誠意の謝罪をした。
「もっと早く君に話しておくべきだった」
岩倉はそう言うと、スライドをいじり始めた。来栖は早送りでめくられていくスライドを涙を拭いながら眺めている。
そしてとある一枚のスライドがスクリーンに映し出された。
そこには派手なデザインはなく、ただ文字が書かれているだけだった。そこにはこう書かれている。
「パナケイア開発の第一人者 来栖 明美」
「へ・・・?」
来栖は映し出された自分の名前をボーッと眺めていた。
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第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1




