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新米探偵助手は読者の推理が頼りです!  作者: マフィン


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17/22

せめてこれくらいは

 そう。考えれば考えるほど、この事件は外部の人間は犯行ができないのだ。何せ、全員、昨日からこのホテルにほぼ缶詰状態だった。ホテルでも客室で誰かと接触している形跡もない。お互いがお互いのアリバイを証明している。


 来栖には悪いが、やはり外部の線で無理やりに結論づけようとしても、必ず矛盾点が生じてしまう。


 さて、残るは谷川の取り調べだけとなった。彼女はまだ、トイレから出てきていない。余程お腹が痛いのだろう。今、来栖に様子を見に行ってもらっているが、できればちゃんと二人で戻ってきてほしいと願っていた。


 もし、この隙に彼女が外へ逃げ出していれば、間違いなく彼女が黒だがそれと同時に犯人にまんまと逃げられたことになってしまう。


 そうなれば、私の失態となり、せっかく見つけたこの仕事も早々にお役御免となってしまう。給料の交渉の余地はありそうだが、できればやめたくはない。


 そんなことを考えていると、扉のドアノブが動く音が聞こえてきた。扉の後ろから来栖が見えた。私は、とにかく願った。鼓動がとんでもない音を立てている。だが、すぐ後ろから遅刻魔新人の谷川の姿が見えてくれたおかげで、すぐに収まってくれた。


 「すいません、ちょっとトイレで眠ってしまっていたみたいで・・・」


 確かに、谷川の目はほぼ目玉が見えなくなっていた。


 「ありがとうございます来栖さん。控え室に戻っていただいて大丈夫です」


 来栖は会釈をすると、何も言わずに控え室へと帰っていった。私はそこで少しだけ違和感を感じた。相手が新人なら叱責でも慰めでもなんでもいいが、何かコミュニケーションがあっても良いのではないかと思ってしまった。


 まぁもしかしたら、私の知らないところで行われていたのかもしれないが、私にはそれが引っかかってしまった。


 「それで、もうお腹は大丈夫ですか?」


 「ええ。遅くなってしまってすいませんでした」


 謝りなれているのだろうか?誠意はとても感じる。


 「いえいえ、今ちょうど来栖さんの取り調べが終わったところですから、お気にならさらず」


 私もなぜか座席から立ち上がっていた。とにかく我々はすぐに椅子に腰をかけて向き合った。席についてからは、谷川はまた落ち着き払った表情でこちらを見ていた。やはり彼女のこの雰囲気が引っかかってしまう。


 「では谷川さんにお話を伺いましょう」


 「わかりました」


 やはり気になってしまう。私はとうとうそれを口に出してしまった。


 「随分と落ち着いていますね?」


 「そうですかねぇ?」


 「ええ、まぁ興奮されているよりはこちらとしても有益な情報が得られるのでありがたいですがね」


 どこか皮肉みたいな言い方になってしまったが、そんなことを言われても、まるで彼女の心に全く響いていないように感じた。


 「それでご質問は?」


 私が取り調べをするはずなのに、なぜか私が大きなため息をついていた。


 「昨日は、早々にお休みになられていたとのことでしたので、あなたには今日のことについていくつかお伺いしようと思います」


 すると、彼女の表情が疑問でいっぱいになった。


 「今日ですか?今朝の話なら、遅刻をして青柳さんからこっぴどく叱られたことぐらいしかお話しすることはありませんけど・・・」


 彼女の感情を動かせたことに、私はとてつもない満足感を得ていた。


 「なぜ遅れてしまったのでしょうか?」


 質問に勢いがついた。


 「なぜ?と言いますと?」


 私は一生懸命具体的な説明を考えた。遅れた理由をどう説明しろと言うのだろうか?理由が無ければ遅れないと言うのは古い考えなのだろうか?


 「いや普通、遅刻をされるとなると寝坊かなと思ったのですが、昨日はすぐにお休みになったとのことでしたので、それは考えにくいかな?と・・・」


 私は話しながら、この話の矛盾点を見つけてしまった。我ながら即興でここまでよく話を展開できたと心の中で自画自賛していた。


 私の追求はさらに続いた。


 「しかもあなたはまだ入社して3ヶ月の新人さんでいらっしゃるとお聞きしました。そんなあなたが夜通しかかるようなお仕事をされているとも思えなくて・・・」


 すると、谷川は驚いたような表情でこちらを見ると、右手を後頭部へと運んでいった。


 「お恥ずかしながら・・・朝がどうしても苦手でして・・・。それに新人っていうのもあって、昨夜は確かに早めにベッドに入りましたが、緊張でなかなか寝付けなかったんです」


 今のは恐らく私の質問への当てつけも入っていたに違いない。


 「なるほど・・・」


 私は再びペースを乱された気がした。その場合は必殺の話題がえと行こう!いや、なぜ私が話を誤魔化さなければいけないのだろうか?


 そんな葛藤をしながら、もう一つ聞きたいことを質問した。


 「青柳さんからはいつもあんな感じで怒られているのですか?」


 「はい。私が悪いんですけど入社した時からずっとです」


 「先ほども何か叱責をされていましたね?」


 私はイベント中の話を持ち出してみた。見方によっては叱責ではないという意見も出てきそうだが、あれは確かに叱責に見えるような目つきと表情が、私の脳裏にも焼き付いている。


 「ええ、打ち合わせの時と位置が違ったようでして・・・。まぁ遅刻をしてしまったので、その打ち合わせも聞いていなかったんですけどね」


 「それなのに、よくパナケイアを運ぶなんて大役をやらせてもらえましたね」


 そう一言が口から飛び出した瞬間、すぐに私は反省しなければならないと思った。


 「すいません、ちょっと失礼でしたね」


 口では謝罪をしているはずなのに、ちょっと皮肉のような言い回しになってしまった気がした。


 だがしかし、これはあくまで私の純粋な疑問だった。あんな数ミリのミスも許されないという雰囲気で、彼女にあの役割を任せた青柳の真意が知りたかった。もし、私が青柳の立場だったら、絶対に彼女にあの大役を任せないであろう。


 「確かに遅刻したせいで、高瀬さんに変えられそうになったのですが、どうしてもパナケイアは私が運びたかったので無理を言ってやらせてもらったんです」


 意外な理由に、私の表情はポーカーフェイスを忘れていた。


 「随分思い入れがあるのですね」


 「迷惑ばかりかけてしまっているので、せめてこれくらいはと思いまして」


 なんだかそこに関しては、共感してしまった。私も今はまだ何もできない初出勤の探偵助手だ。恐らく私はこの事件の真実からは程遠い場所を彷徨っているに違いない。だが、せめて探偵が捜査を引き継ぐとなった時に一刻も早く真実に辿り着いてもらうために、私はこの仕事を何がなんでも遂行しなければならないのだ。


 「質問は以上です。ご協力ありがとうございました」


 私が頭を下げると、彼女も同じようにお辞儀をした。


 「では失礼します」


 彼女が控え室へ戻りこれで全ての情報が、出揃った。あとはこれらの点を線で結び、真実の形を見つけ出さなければならない。


 私は今にも誰かに助けを求めたいところだ。

お読みいただきありがとうございます。ぜひ評価、ブックマーク、感想をしていただけるとかなり励みになります。

よろしくお願いします。


第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1


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