経歴
そわそわと待っていると、間も無くして岩倉は宴会場へ戻ってきた。時間的にもトイレで間違い無いだろう。トイレといえば谷川だ。あれから随分と経つがまだ戻ってきていない。
「探偵さん、次は誰を呼んでくれば良いですか?」
岩倉が私一人取り残された宴会場の空気を察して、声をかけてくれた。正直なところ、私は彼にパナケイアの趣旨ってやつを聞きたいのだが、別にそこはこのプロジェクトに携わる人間なら誰でも知っていて当然なはずだ。
「ご協力に感謝します。それでは高瀬さんを呼んでいただけますか?」
「わかりました」
岩倉はそう言い残すと控え室へと入っていった。私は捜査資料と自分のメモを見比べながら、高瀬がこちらへ来る数秒の間で、彼に質問する内容を整理した。
今までの感じと経歴を見る限り、彼はかなり頭が切れる人間だ。たとえ彼が犯人ではなかったとしても、この捜査の主導権を握られるのは良くはない。とにかく、毅然とした態度で、抜け目なく話を進めていく必要があるだろう。
彼はすぐに入ってきた。なぜだか岩倉がこちらへきた時よりも緊張した。だが、向こうは特に深く考えていなさそうな柔らかい表情で、こちらに会釈をすると椅子に腰を下ろした。
「それで私に聞きたいことはなんでしょうか?」
高瀬の物言いは明らかに自分は潔白であることをアピールしているように見えた。逆に、それが前面に出しすぎていて、私は違和感を覚えていた。
私は、探偵から送られてきた捜査資料の高瀬の部分に目をやると、取り調べを始めた。
「あなたはコンサルタントとして活動しておりますが、どう言った経緯で製品開発のチームメンバーにいらっしゃるのですか?」
この疑問は恐らく誰もが抱くものであるだろう。そしてそれに関しては高瀬も同じ意見だったようだ。
「確かに、そう思われても仕方がないですね」
彼はこちらに気まずそうな笑顔を見せると、説明を続けた。
「実は以前コンサルティングを行った企業のなかに製薬会社があったんです」
まさかこんなところで話がつながってくるとは予想外だった。
「そこで製品の開発にも関与していたこともあって少しノウハウを得たんです」
コンサルティングの仕事をしていて、製薬会社のノウハウを自分のスキルとして身につけられるなんて、彼は私なんかよりも相当スペックが高い人間なようだ。それか、彼が今説明している内容は全て彼が作った真っ赤な嘘かもしれない。
だが、そこに関してはどうしてもそう結論づけることができないほど、彼は完璧な論調の説明だったし、経歴から見てもそんなスペックを兼ね備えていても、不思議なところはなかった。
「そこでお世話になった方と、岩倉さんがお知り合いで、その方から岩倉さんが新製品の開発の部分で人手が必要だという話を聞いて、今に至っております」
この会社に彼が来た経緯については理解できた。
「では、岩倉さんが青柳さんの部屋へ向かった後の話をうかがってもよろしいですか?」
「特に何もしておりません」
私はそこに納得できなかった。翌日に大イベントが控えているのに、たとえリーダーが不在で仕事が進みにくいとはいえ、何もしていないことなんてないはずだ」
「作業は何一つ行っていなかったということですか?」
私は、さらに深掘りしようと、スコップを突きつけるように、質問をした。高瀬は首を横に振りながら、弁解をした。
「そもそもあの時私は、彼が青柳さんのところへ向かっていたなんて知りませんでしたし、いつ帰ってくるかもわかりませんでしたから・・・」
私は無意識に腑に落ちていないような顔をしていたのかもしれない。すると、高瀬がそれを察してさらに話を続けた。
「まぁ、もしかしたら知らないうちに仮眠をとっていたかもしれませんが、どちらにしても何か作業をしたとして、結局、岩倉さんや青柳さんの鶴の一声でまた内容が変わる可能性もありますから、何もできなかったというのが真実ですね」
「それで、結局岩倉さんは、何時ごろ戻ってこられたんですか?」
「大体、19時前くらいですかね?」
高瀬は少し考える間をとりながら、ゆっくりと曖昧な雰囲気で答えた。
「ありがとうございます。質問は以上です」
私はそう言いながら、自分のメモに今、彼から聞いた証言をまとめていた。あまりにメモ書きに集中していたせいで、すぐに彼が出ていくことなく、呆気に取られた顔で、まだこちらを見ていることに気が付かなかった。
「これだけですか?」
私はようやく思ったより近くから聞こえた声で、彼の存在を認識していた。
「はい・・・」
正直、これ以上彼に聞きたいことがない。何せ、彼の行動はほぼ、岩倉と共にあるため、先に岩倉から色々と話を聞いてしまっている今、それで十分なのだ。
「まだ、何かお話しすることがございましたら、お聞きしますが?」
私はあえて彼の自発性を刺激してみた。
「いえ・・・ただ、短いなぁと思いまして・・・。岩倉さんはもう少し長ったような・・・」
初めて、彼が不安というか、心が乱されている表情を浮かべた気がする。
「まぁ、長々と質問をしても仕方がないですからね」
「なら、良いですけど・・・」
まさか彼からそんな反応が返ってくるとは思ってもみなかった。
彼が部屋から出ていくと、再びこの広い会場でひとりぼっちになった。
「さてどうしたものかなぁ・・・」
私は深いため息を吐いて、今まで集めた捜査資料や自分のメモに書かれた情報と睨めっこを始めることにした。
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第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1




