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新米探偵助手は読者の推理が頼りです!  作者: マフィン


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14/17

欠陥

 岩倉が戻ってきた。足取りは普通だが、表情はどことなく気まずそうな顔をしている。何かを隠しているのは確かだ。


 「岩倉さん、再びすいません」


 私は一応の社交辞令を述べた。立って話すのもなんだかこちらが緊張しそうだったので、椅子との間に小さなテーブルを用意して待っていた。


 「谷川さんが控え室から出ていきましたけど、どちらへ行かれたのか、探偵さんはご存知なんですか?」


 「はい、トイレへ。急を要するようでしたので、特別に許可を出しました」


 「まぁ彼女も今日はかなりプレッシャーもあっただろうし、お腹が痛くなっても仕方がありませんよね。まだ入社して3ヶ月でこんな大きなプロジェクトに参加させられて、ましてやこんなことに巻き込まれたんですから・・・」


 岩倉はそう言いながら、椅子に腰掛けた。


 こうして、座って向かい合うと、それはそれで緊張感が漂った。この貴重な取り調べの時間を生かすも殺すも私次第だ。


 「それで、パナケイアの色のことですよね?」


 話を本筋へと戻したのは岩倉からだった。


 「ええ、それに青柳さんとのこともお話いただけますか?」


 私は慌てて、場の空気を掌握しようとした。やはり大手の企業に長年勤めて管理職の地位にいる人間だけあって、話は早かったが、そう易々と主導権を握らせるわけにはいかない・・・と思うのだが・・・


 「わかりました。ですが、ここからの話は社外秘のこともお話しするので、絶対に他言無用でお願いいたします」


 「もちろんです」


 岩倉は私に念を押すと、小さく息を吐き、話を始めた。


 「実は青柳さんから数週間前に味についての指摘がありまして・・・」


 「味ですか?」


 味の指摘とはどういうことなのだろうか?美味しいとか不味いとかそういう単純明快なものなのだろうか?


 「ええ、効果は保証できるのですが、その代わりに味が・・・正直、どうしようもないくらい不味くて・・・私たちも困っていました」


 そう言われると、どこまで不味いのか飲んでみたいものだ。だが、次の話を聞いて、一気にその気持ちが引き潮のように、綺麗さっぱり引いていくのを感じた。


 「しかも、パナケイアの主成分であるクルゲン酸は糖と反応すると、猛毒になるという性質がありまして・・・」


 「それって、製品としてどうなんですか?」


 私は思わず本音が漏れた。超絶気まずい沈黙が流れた。もちろん、こんな話友達にも家族にも言えるような話ではないのは分かっているし、口が裂けても言わない。だが、もしこのことが世間にバレたら、恐らくこの会社は倒産だろう。


 すると岩倉の、必死な弁解が始まった。


 「もちろん、詳しい説明は省きますが、パナケイアとして完成している以上、世間に出回るものに関しては、たとえ砂糖菓子と一緒に摂取しても人体に影響はありません。ですが、製造工程の最中で糖を入れてしまうとクルゲン酸が毒化してしまう課題が残っていたんです。結局、味を直すことは出来ずに、前日を迎えました。そんな時、高瀬がどうにか製造工程で糖を入れても、人体に影響がない方法を見つけたということで、昨日の最終会議の時に私と青柳さんの前にその試作品を持ってきたんです」


 岩倉はああ言っているが、販売するなら、糖と一緒に摂取しないでくださいくらいの注意書きを書くつもりだったのかが、気になる。


 私はだんだんとこの企業の製品を買いたくなくなってきたが、そんなことは今はどうでも良かった。


 「それはどうだったんですか?」


 「青柳さんはかなり喜んで採用しました。もちろん、私たち三人でそれを飲んで、安全性も確かめました。これで全ては丸く収まった。それはそうだったのですが・・・」


 「ですがなんですか?」


 少し、岩倉の感情の昂りを感じた。


 「やはり私は糖を入れてしまうことによって、パナケイアの本来の趣旨から離れてしまうと思ったんです」


 確かにパナケイアが売りにしているのは自然由来のクリーンなエナジードリンク。恐らくそこに砂糖は含まれていないのであろう。


 「それで青柳さんのところへ?」


 私がそういうと、岩倉は無言で二、三回頷いた。


 「説得しに行ったんです。ですが、相手も頑固者ですから、激しく口論になってしまい、その様子を恐らく谷川さんがみていたのでしょう」


 「その説得は結局のところどうなったのですか?」


 すると岩倉の顔に笑みが溢れていた。


 「逆に説得されてしまいました」


 「ではパナケイアの色はそれが?」


 「はい、糖を入れたことによってあの色に変色してしまうみたいなんです。決まったのは昨日の今日だったので、もしかしたら、来栖さんには伝わっていなかったのかもしれないです」


 私の中で少しずつ話の点が線で繋がっていっているような気がしていた。他に岩倉に質問をすることがあるだろうか?正直、岩倉のあの表情を見る限り、口論はあったものの青柳に対して何かしらの恨みを抱いていたようには見えない。


 だがもし、それが全部彼の嘘だったとしたら・・・?演技だっていうこともあり得る。パナケイアの趣旨とは一体なんなのだろうか?


それを一度は味を犠牲に貫こうとした岩倉を、青柳はどのように説得したのだろうか?


 私はその質問をしようとした時、岩倉が申し訳なさそうにこちらをみていた。


 「どうかなさいましたか?私もトイレに行っても良いですか?」


 ちょうどキリが良いのかもしれない。このまま行くと、岩倉の証言だけで事件の結論を急いでしまいそうな気がした。


 「そうですね。岩倉さんの取り調べはこれくらいにしましょう」


 「ありがとうございます」


 岩倉はそう言いながら席を立つと、出口へと向かっていった。しかし、すぐに足を止めるとこちらを振り向いた。


 「探偵さん、私が最初に呼ばれたということは私が疑われているってことですよね?」


 正直いうと、私はあまり疑ってはいないが、可能性がゼロかと聞かれたらそんなこともなかった。


 「時にこういった取り調べは、アリバイを見つけるために行われる場合もありますので・・・」


 私がそういうと、岩倉は何も言わずに部屋を出ていった。


 あれ?トイレの方向って左だったか?もしかして・・・


 だが実際トイレは岩倉の向かった方向にある。私は捜査のしすぎで人間不信になっているようだ。

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よろしくお願いします。


第1話→https://ncode.syosetu.com/n1110mi/1


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