■ 魚天使の黄昏(うおてんしのたそがれ)
【突如として地球へ飛来したUFOの一群。成すすべもない人類に対し、彼らの残した置き土産は地球人の理解を超えるものであった】
ある日、地球を驚天動地の出来事が襲った。主要20ヶ国の国会議事堂にあたる建物の上空に、突如としてUFOの群れが飛来したのである。
当然の如くその国の軍隊が出動したものの、UFOは全く動じないばかりか攻撃にも全く無傷。各国政府は、ほとほと困ってしまった。
そして世界中にUFO襲来の認識が広まったところで、意外な出来事が起こる。UFOから放たれた一筋の光の中を、何かが通り地上へと降ろされたのだ。
恐る恐るその存在を確かめてみると、それはこれまた驚きの物体、いや生物であった。
パッと見には顔は魚であり、しかもその後ろ側の両側面には小さな羽のようなものが生えている。だが、体は人間の赤ん坊そのものだ。正に異形としか言いようのない姿の映像は、瞬く間に世界を席巻する。
この奇妙奇天烈な贈り物は、人類の混乱に拍車をかけた。だが地球人たちの議論百出をよそに、全てのUFOは突然宇宙へと消え去っていった。
困惑したのは、なんといっても奇妙な贈り物をされた国々であった。全ては衆人環視の元で行われた出来事である。隠ぺいなんぞ出来るわけがない。各国はチームを組み、その対応に追われた。
インターネットや現実世界では、奇妙な生き物のに関する様々な意見が飛び交うこととなる。
「あれは侵略者の兵器であり、地球人を皆殺しにするためのものだ」とか「いやいや、神が地上に遣わした天使に違いない」とか「生体実験の失敗作を、地球へ捨てに来ただけじゃないのか」などなど。果ては「あれは全て生成AIが作ったウソの映像だ」といった流言飛語まで巷にあふれる始末であった。
異形の赤ん坊。いつしか彼らは、庶民の間で”魚天使”と呼ばれるようになる。魚の顔に翼が映えているという、見た目そのままの名称であった。
各国政府は透明性の名の元に、魚天使たちの動向を逐一報道した。そうでもしなければ、世の中は間違いなく陰謀論に支配されるであろう。
それからも、地球人の驚きは留まらない。
魚天使の成長は早く、科学者の弁によればその速度は人間の数十倍であった。そして三ヶ月を過ぎるころ、彼らは思春期を迎え”妊娠”した。それぞれの魚天使は隔離されていたので、各々の接触はない。しかし、彼らの半数近くが身ごもったのである。
”これは目出度い”と浮かれる者も少なからずいたが、多くの民は深刻な事態に気づき始めていた。
”このペースで魚天使が増えて行ったら、すぐに人類を上回る数になってしまうのではないか?”
まだ魚天使の寿命が分からない以上、そうと決まったわけではないのだが、自らの暮らしに直結する事態となり、だんだんと魚天使に対してネガティブな感情を抱く者が増えていった。「魚天使は、侵略兵器である」という考え方が目立ち始めたのもこの頃である。
そんなある日、世界の注目する事態が勃発する。魚天使の一部が施設を脱け出したのだ。彼らとの意思疎通が未だに捗々しくない状況は「侵略が始まった」との考え方に信ぴょう性を与えた。
”野に放たれた魚天使がこのまま増殖を続ければ、遠からず人類をせん滅するに違いない。いや、彼らにその意思がなくても、ネズミ算的に増えてしまえば人類との共存は不可能である”
そんな言葉が、連日インターネットにのぼるようになったある日、ついに悲劇が起きた。
世の中の空気に毒された中学生の一団が、偶然見つけた脱走中の魚天使の親子をリンチに掛けたのである。彼らの歪んだ正義感は、憐れな親子を死に至らしめた。その様子は彼ら自身の手により撮影された動画によって、インターネットを通じ瞬く間に世界へと広がっていく。
またしても世界中が、議論百出となる事態となった。
「人間並みの知性が確認されている魚天使に対し、これは間違った正義に基づく非道な殺人行為だ」という意見があるかと思えば「彼らは、侵略者を殺した英雄だ」という意見を吐く者も続出する。
弱りはてたその国の政府は、苦肉の策として玉虫色の裁定を下した。
それは、
「確かに彼らの魚天使に対する行為は、残虐極まりなく許されるものではない。
だがそれは、未成年である彼らの未熟さがもたらしたものであると認められる。よって、我が国の少年法に照らし罪を問うのではなく、更生の道を歩ませる事とする」
という内容であった。
だがそんな八方美人を気取るような採決を、世界が受け入れるはずもない。否定派、擁護派が対立し、インターネット上は勿論の事、現実世界でも二つの意見が激しくぶつかり合った。
やがてその争いは地域、そして国同士の衝突にも発展する。もともと、宇宙からの贈り物を一部の国が独占していたことへの反発も争いを激化させた
もうここまでくると、魚天使の存在がどうのこうのという話を超えて、地球人類が元来抱えてきた、イデオロギーのぶつかり合いの様相を呈してきた。
当然の成り行きとして、世界のあちらこちらで戦争が繰り広げられるようになる。今まで押さえつけてきたものが、魚天使というキッカケを介して爆発したのであった。
やがてどこかの国が遂に核兵器の使用を許可し、それに対抗した交戦国の同じく核兵器を用いた報復の結果、世界中で禁断の核戦争が勃発する。その結果、人類はあっけないくらい簡単に滅亡した。
その頃、宇宙のかなた、地球へと飛来した家庭用UFOの持ち主たちが、その星の警察機関に逮捕されていた。
なんと逮捕されたのはその星の中学生の一団で、彼らが星のインターネットに投稿し、大バズリしていた動画が逮捕のキッカケとなったのである。
中学生たちはインターネットで注目されるため、とある計画を練った。それはレベルの低い知的生命体のいる星へ、住民の理解を超える存在を投下した結果、どのような反応を見せるかを観察する動画の作成であった。
中学生たちは違法な遺伝子操作を用い、さも地球人たちが困惑するだろう生物を作り出した。そして惑星に放った無数の小型昆虫タイプのカメラを使い、つぶさに惑星人たちの動向を中継していたのである。
彼らの思惑は図に当たった。動画の再生数はうなぎのぼりとなり、一躍時の人となったのである。だがそのせいで当局の目に留まる事態と相成って、あえなく御用となった次第である。
このことが星の報道機関により世間に広まると、今度はその星中で議論が巻き起こった。
「未開の星とはいえ、それを滅亡に追い込むとはトンデモナイ犯罪者だ」とか「いや、彼らに悪意はなかった。未熟さゆえの”悲しい事故”に過ぎない」などなど、様々な意見が飛び交った。
その状況に、星の政府は大いに困りはてる。彼らの行動は決して褒められたものではないが、知的生命体と言っても最低レベルの生き物たちの話、あまり事を大きくしてしまえば、政府は星の住民たちの反発を買ってしまう。
そこで政府は苦肉の策として、玉虫色の裁定を下した。
それは、
「確かに彼らのやったことは倫理的にはもちろん、法律的にも重大な犯罪だ。
だが彼らの将来を考慮し、我が星の少年法に照らして罪を問うのではなく、更生の道を歩ませる事とする」
というものであった。
星は、この判断においても議論百出の大騒ぎとなる。だが次から次へと提供される話題の中で、いつしかこの話題を口にする者はいなくなった。
太陽系第三惑星・地球。
その大地は焼けただれ、空は灰色の雲に覆われている。その中で動く一つの影。
奇跡的に生き残った一人の魚天使が、ボンヤリと天を仰いで何かをつぶやいていた。ただその言葉を聞く者は、既に誰一人としてこの地に存在しない。
しかしその姿は、神が下した罰を確認しに来た一人の天使のようにも見えた。
【終わり】
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気楽イラスト821・魚天使のキャプション




