■ シオマネ怪人と少年の瞳
ある夏の日。命を終えようとしてるシオマネキは、謎の人物と出会う。そして”あの瞳の少年”に再び会うため、改造人間となるのであった……。
あぁ、あの忘れえぬ瞳をした少年に、もう一度会いたい。
夏の日差しの照りつける中、シオマネキの僕は、薄れゆく意識の中でそう思った。
波の音も聞こえなくなってきた。このまま、死んでしまうのだろうか……。
”生きたいか?”
意識が薄れいく中、頭上から声が聞こえてきたような気がした。
生きたい。あの瞳の少年にもう一度会いたい。
”そうか……”
次に気がついた時、僕は僕でなくなっていた。そこは薄暗い室内で、周りには何人もの人間らしき存在が直立不動の姿で立っている。彼らの中央に横たわった僕を、皆が見つめているようだ。
だが、おかしい。
彼ら全員の背丈が、異常に低いのだ。かといって、子供というわけではない。体つきは立派な大人である。
「手術は成功です」
その中の一人が誰かに向かって報告すると、どこからともなく海辺で聞いたあの声が響いてきた。
『目覚めよ、シオマネキ怪人……』
僕は不思議とすぐに、それが新しい僕の名前だと気がついた。
意識が鮮明になるにつれ、周りの状況がはっきりとわかってくる。最初、周りの人間たちが異様に小さく感じたのは間違いで、それは僕が大きくなったからそう感じただけだったのだ。
「シオマネキ怪人よ。お前は我が首領の目に留まり、栄えある改造人間となった。これからは我ら組織のために粉骨砕身、働くのだぞ」
僕のすぐ横にいる、頭から白い布をスッポリと被った男が言った。
僕の頭の中で、無数の情報が交錯する。怪人に改造された事により、頭脳には沢山の新しい知識が詰め込まれたようだ。
僕は遺伝子を改造され、人工細胞を主体とした悪の組織の先兵となったらしい。元の姿を殆ど留めてはいないが、それは紛れもなくシオマネキを意識したものであった。
『さて、シオマネキ怪人よ。お前の使命だが……』
不気味な室内に首領の声が響く。僕は自らの使命の全てを聞き、言葉では言い表せないほどの感謝の念を抱いた。
これでまた、あの少年に会える……。僕はその日を心待ちにして、日々の訓練にいそしんだ。
運命の日は、夏の終わりにやってくる。
僕は首領と出会った海岸で、作戦行動に打って出た。他の怪人たちの行った陽動作戦のおかげで、我らを邪魔をする正義の味方と称する輩はここへは来ない。
作戦開始を前に、僕は辺りを見回した。改造された目は、数百メートル先まで鮮明に映し出す事が出来る。
”いた!”
あの少年だ。あの瞳をした彼に間違いない。
少年は毎日、海岸へ来ていたので、必ず今日もいると思ったがその通りとなった。チャンスは、今しかないのだ。僕は運命の神に感謝する。
僕は直ちに作戦行動へと移った。グズグズしていれば、陽動作戦に気づいた邪魔者が、すぐさまここへと駆けつけるに違いない。
改造人間となった僕には特殊能力が与えらえていたが、それは直接戦うには不向きな力であり、人間たちがヒーローと呼ぶ存在を前にすれば、僕はたちまち撃破されてしまうだろう。
僕は早速、卑小な存在だった頃と同様に、体と同じくらい大きな左腕を、海から陸へ向かって大きく振った。
しばらくすると、水平線の彼方から不気味な轟きが近づいてくるのが分かった。少しずつ騒めきだす人間ども。僕は手を振りながら、少年の前へと立ちはだかる。彼からすれば見上げるほどの体躯である僕を前にして、少年の瞳は”あの時”とは正反対に恐怖の色に満ちていた。
「おい、お前。 僕を覚えているか? 」
僕は醜くひしゃげた声で、少年に問う。
「覚えているかと聞いているんだ」
少年は恐ろしさの余り、僕の眼前にヘタレ込み失禁した。
彼を助けようとする者なんて、誰一人としていない。そりゃ、そうだろう。僕が恐ろしい姿をした改造人間の上に、海の向こうからは大津波が迫っているのだから……。
僕の能力は、この巨大な左腕を振って大波を呼ぶ事なのだ。その能力を使った作戦は成功間違いなしだろう。海岸から数キロ先までは、僕が呼んだ津波に押し流され壊滅状態となる。
「もう一度聞く。僕を覚えているかと聞いているんだ!」
僕は、少年をなぶるように叫んだ。
腰の抜けた彼は、ただ首を振るばかり。
あぁ、いい気持だ。あの時、この少年もこんな気持ちだったのだろうか。
「ふん、では教えてやろう。
僕はな、数週間前にお前が海岸で踏みつぶしたシオマネキだよ!」
何を言われているのか理解できず、キョトンとする少年。
さぁ、ここが僕の人生のクライマックスだ。
あの日、兄弟たちと浜辺を歩いている時に、僕はこの少年と出会った。彼は僕らを見つけるとニタリと笑い、陰湿にもて遊びながら、次々と僕ら兄弟の命を奪っていったんだ。それはそれは、目も当てられぬほど残酷に……。
あの時の少年の瞳を僕は忘れない。勝ち誇ったような、忌まわしい事極まりないその瞳を。
僕の招いた大津波は、もうすぐそこまで近づいている。僕の使命もここまでだ。絶大な力である反面、使った方も只では済まない。僕はもうすぐ二度目の死を迎えるだろう。
だが僕は満足だ。こうして仇を取れたんだから。大津波は、僕も、少年も、彼の家族や街も、残らず滅ぼすだろう。
僕は眼前に迫った津波を前に、高らかに笑う。その笑い声は、津波の轟音をかき消すほどに、辺りへと響き渡った。
「おーい。そろそろ帰るぞー」
向こうから、息子を呼ぶ父親の声が聞こえる。
「はーい。今行くよ!」
少年は自らがもて遊んだ小さな命の亡骸を討ち捨て、父親の元へと駆け出していった。
後にはどういう生き物だったのか、最早わからぬほどに千切れた何かの残骸だけが残った。
辺りには、波の音が変わらず響いている。いつもと同じ、ただ日差しだけが異様に厳しい海辺の風景が広がっている。
それは命を終える刹那にシオマネキが見た、真夏の幻影だったのだろうか。
【終わり】
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気楽イラスト819のキャプション




