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■ 戦髪奇譚

髪の毛に宿り、絶大な力を宿主に与える精霊。だが、それは女の髪にしか宿らない。ことわりを破り、男の髪の毛に宿った精霊と宿主の運命は?

古来より、精霊と盟約を結ぶ一族がいた。精霊は髪の毛に宿り、その髪は様々な力を発揮する。盟約を結べるのは女のみ。女の髪の毛には、特別な霊力が宿るとされていたからであった。


ゆえに一族は、みな女ばかりであり、男は子を成す場合の一時のつがいでしかなかった。優秀とされる男を拉致し、用が済めば記憶を消して放逐する。


妊娠後、胎児の霊力を鑑定する事によって生まれてくる子供の性別を判別でき、男の子の場合は有力者への養子として出され権勢を拡大する道具として使われた。当然の如く、一族の中で男性の地位は著しく低い。というより、そもそも男は一族とは認められていない。下僕同様の扱いだ。


ある時、子を成すためだけの一時のつがいのはずであった男女が、妊娠発覚後に手に手を取りあい出奔した。何故そのような事態になったのかは、今もって不明である。


またその行方も分からずじまいであった。腹の子は男の子とわかっていたので、ある程度捜索をした後は、追及もおざなりになっていたからである。精霊の宿らない”男”は、一族の中ではゴミ同然なのだから、それは当然の話であろう。


十数年後。


その男の子、結野(ゆいの) 美加雄(みかお)は、父と二人暮らしであるが、平凡な高校生として青春を謳歌していた。母はその霊力と髪に宿った精霊の存在ゆえに、そこから探索が及ぶ事を恐れ、美加雄を生んだ後、どこへともなく姿を消していたのである。


よって、美加雄に母の記憶はほとんどないが、父からは「事情があって、会えないでいる。恨んではいけない」と言い聞かされていた。美加雄のほうも、その性格ゆえ思慕の情を抱く事はあっても、恨むような事はなかった。


そんな日常の中、美加雄に一族の手が伸びる。彼を人質にして、出奔した母親をおびき寄せるためだ。


その頃、闇に潜んでいた物の怪が活動を顕在化させ始め、一族はその撃退に血道をあげていた。だが物の怪の力は強く、稀代の力を誇っていた美加雄の母親を呼び戻し、戦わせようという魂胆が一族の長にはあった。


それゆえ昔とは違い、本気で捜索をした結果、美加雄の所在が判明したのである。


美加雄を人質にし、母親にいう事を聞かせようと一族の手が彼に伸びようとした時、異変が起こる。どこからともなく美加雄の母親が現れ、一族の刺客とあいまみえたのであった。彼女はこの日が来る事を予見し、信頼できる者たちに家族の様子を見守らせていたのである。


美加雄の母親の能力に圧倒される刺客たち。戦いも決着し一安心かと思ったその時、更なる凶事が美加雄を襲った。


両者が疲れ果てるのを見計らい、物の怪の先兵が現れたのである。彼らは一族に潜りこませたスパイから、一族が出奔した強力な術者を探している事を知った。そして自分たちの方が先に美加雄を人質として奪取し、その母親を一族と戦わせようとしていたのである。


さしもの母親も、多勢との戦いの後では疲労困憊であり、美加雄を守ろうとするも危機が迫る。


物の怪の先兵は、もし母親が物の怪に協力しそうもない時は、物の怪の脅威となる前に殺すよう命じられていた。気が短く残忍な先兵は、自らの判断で母親を亡き者にしようとする。


瀕死の重傷を負う母親。


母子の再会もつかの間、彼女は美加雄の腕の中で息を引き取った。


「行きがけの駄賃だ。小僧、覚悟しな」


母親だけでは物足りない物の怪は、美加雄をも手にかけるべく迫ってくる。


怪物の剛腕が美加雄の眼前に迫った時、母親の頭髪が光ったかと思うと、そこから異形のものが飛び出してきた。


「やっ、お前はコイツの精霊か」


物の怪が叫ぶ。


そうなのだ。盟約を結んだ者が死んだため、彼女の髪の毛に宿りし精霊が解き放たれたのであった。


盟約者の突然の死にパニックを起こした精霊は、そこら中を無秩序に飛び回り、やがて何を思ったのか、美加雄の頭めがけて突っ込んでくる。


余りの事に一歩も動けぬ美加雄。精霊は彼の頭髪にすっぽりと入り、吸収されていった。


「はっ、馬鹿め。精霊は男とは盟約を結べん。ふん、残念だ。親子ともども俺が手に掛けてやろうと思っていたが、そうもいかんらしい。


小僧、お前もこれで終わりだ」


事情を知る物の怪がせせら笑う。


怪物の言った事は正しかった。精霊は霊力を持った一族の女の髪にしか宿れない。それ以外の者の頭髪に憑依すれば、その者の体は妖火に包まれ燃え去り消えてしまう。


「ぎゃぁぁ!!」


途端に青白い炎に焼き尽くされる美加雄。


「まぁ、そこそこ面白い見世物ではあるな」


物の怪は悠然とそれを眺めている。


だが異変はすぐに起こった。


美加雄を包んでいた炎の青白さが、だんだんとピンク色に変わっていったのだ。


「なんだ?」


これには物の怪も驚き、目を見張る。


炎がひときわ大きく燃えあがり消失した後、そこには美加雄であって美加雄でない者がいた。


髪の毛は赤く長く異様に逆立ち、その中には何か異形の表情らしきものさえ見える。また顔つきも体つきも元の美加雄とはかけ離れており、そこにいるのは激しくもおぞましい別の”何か”であった。


「どういうこった!」


唖然とする物の怪だったが、彼持前の戦闘センスはすぐに危険を主人に知らせる。


その警告通り、美加雄だったものは猛然と物の怪に突進し、その醜い模様のついた腹に拳の一撃をくらわせた。すさまじい勢いでふっ飛ぶ物の怪。


だが、美加雄だったものは容赦しない。


反撃を試みる物の怪を軽くいなしたかと思うと、先ほどの攻撃を上回るダメージを次々に怪物へと与えていく。


なすすべのない物の怪は、


「そ、そうか! まさか、お前の父親は……!?


俺は、とんでもない怪物の誕生に手を貸してしまったのかも……」


と言い残し、絶命した。


荒い息を吐きながら、美加雄はニタリと笑ったかと思うと、緊張の糸が切れてしまったかのように、倒れこみ意識を失ってしまう。


その場に、けたたましいブレーキ音が響く。


大型のバンが凄惨な現場に横付けした。


そこから飛び出してきた数人の男たちは、手慣れたように辺りを調べ、中の一人が意識のないままの美加尾を抱き上げる。


「これが、美加雄くんか……?」


美加雄を知っている様子のその男は絶句し、更に、


「彼女が密かに恐れていた事が、現実のものとなってしまった……。最悪だ」


と、わなないた。


リーダーらしきその男は他の面々に指示を与え、その場の処理もそこそこに美加雄を連れて立ち去ってしまう。



美加雄の身に何が起こったのか? 彼の母親が恐れていた事態とは? 一族、物の怪、精霊、そして謎の男たちの関係は?


様々な謎を秘め、いま前代未聞のヘアーバトル開幕!


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