第89話 聖者
タカシが神聖魔法を使えるようになったと知り、アーナスとメイドのイーアスは驚きのあまり言葉を失っていた。
「俺が神聖魔法を使えるのは内緒にしてほしい。現在の生活を変えたくない」
アーナスはゆっくり深呼吸をしてタカシに質問をした。
「タカシ殿は四肢欠損を治せますか?」
「四肢欠損を回復する正式な魔法の名前は?使える魔法の名前と大まかな効果が、何となくわかる程度なんだ」
「教会は秘密主義なところがあって、魔法の名前はわからないです」
「ハイエリアヒールは使えますか?」
イーアスが食いつくように質問してきた。
「ああ、それなら間違いなく使える」
アーナスとイーアスはまた言葉を失い、二人で目を合わせて信じられないような仕草を見せた。イーアスは小走りで応接間の窓に向かい開けた。
「ホーリーランスを外に向けて放ってください」
タカシは応接間のソファーに座ったまま、外に向けてホーリーランスを使った。
「これでいいか?」
イーアスはタカシのホーリーランスを見た後も信じられないような素振りだった。アーナスはイーアスを見つめ、勝ち誇ったように微笑むのであった。
「俺は内緒にしたいんだ。これ以上は魔法について聞かないでくれ」
「それは、国家や教会の庇護下に入らないということでしょうか?」
「ああ、今のままで十分だ。アーナスやシャロンたち皆と親しくでき、色々とあるが皆と別れることは考えられない。今の生活が気に入っている」
「アーナス様です!」イーアスがタカシの言葉遣いを訂正した。
「教皇や聖者が使える神聖魔法について、知っている範囲でいい、教えてほしい」
「教会は秘密主義で詳しい情報を出しません。国家においても、聖者や教皇が使える魔法について公言しません。基本的に秘匿されます。それは教会とのトラブルを避けるためと、戦争リスクを下げるためです。ただし上級貴族の間では多少情報が共有されています。私は下級貴族の妻ではありますが、元王女ですので多少知っています。ハイエリアヒールが教皇になる最低限の資格です。表向きは皆同じ教皇と呼びますが、実際には教皇、聖教皇、神聖教皇という三つのランクがあるそうです。そして神聖教皇よりも上位の神聖魔法を使える者が聖者と呼ばれるそうです」
「神聖魔法には、軍隊全体に影響を与える魔法がある。国家戦略に組み込まれるのはわかる気がする。俺は親しい者が困っていれば神聖魔法を使いたいが、情報漏洩で生活を乱されるのは困る。なるべく使わない、使う時も変装しようと考えている」
「隠すならそれがいいでしょうね。回復できるのであれば、働けないような獣人族を引き取る件、前向きに検討しましょう。ただし、あまり期待はしないでください」
「ああ、それでいい。本当はここへは、セシリアさんに会いに来たんだ。教会で領主邸に行ったと聞いたからな。セシリアさんに教皇が使える魔法や聖者のことを聞けたらと考えていたが、入れ違いになった。結果として上級貴族しか知らない得がたい情報が手に入った。ありがとう」タカシは笑顔で感謝を伝えた。
「セシリアは、とても心優しい良い人です。だからこそ、タカシ殿の内緒にしたいという気持ちが理解できないかもしれません。教会に入る気がないのなら、気をつけた方がいいですね」
タカシは真顔になり、教会関係者は要注意だと心に刻むのであった。
「気になったのだが、俺が高レベルの神聖魔法を使えると、なぜわかったんだ?」
「年齢・性別に関係なく、神聖魔法が急に使える者は出てきますが、それらはヒールなどの初級魔法の範囲で、中位・高位レベルの魔法が急に使えることはありません。唯一の例外が聖者や聖女、それに準ずる者だけです」
タカシは自分で聖者と自己紹介していたのと同じだと気づき、恥ずかしくなった。そして当初アーナスとイーアスが驚愕した理由に納得するのであった。情報が少なかっただけにアーナスからの情報はかなり助かったが、今後は神聖魔法が使えることを隠し通すために情報収集は慎重に行おうと決意した。そこでアーナスとイーアス以外に話してしまったリオンのことを思い出した。リオンにはヒールしか使えないと言ったが、明らかに疑っていた。余計な噂を言いふらされても困ると、タカシは急いで口止めに教会へ向かうのであった。




