第88話 新たな思い
タカシは亡くなったキャロの思いを継ぐため、苦しんでいる獣人族を一人でも多く助けてやりたいと思った。その思いから、強引に話を進めようとしすぎたようだ。
グランスは、奴隷商に働けないような奴隷がいるとは思えず、内々に処分している可能性もあると考えていた。例えそのような獣人族がいたとしても僅かで、その数名のために王都からディオス領まで運ぶのはリスクも大きく割に合わないと考えていた。二人の考えのすれ違いが、気まずい空気を作った。
「そういえば、先ほど応接間でした恨みを買わない商売の件ですが、恨みを買いにくい組織が二つあるのですよ」
空気を変えるために、グランスが話し始めた。
「一つが教会です。教会は治外法権的な存在で、商人ギルドと職人ギルド双方とも深く関わっていますが登録はしていません。知識が豊富で、技術に関して職人よりも優秀な分野もあります。しかしギルドに加入していないので税金を払っていません。人頭税も払っていないかもしれませんね。教会は回復魔法が使えるため、どの業界も敵に回したくない。批判しにくいためです。商売っ気が強くなく、炊き出しや孤児院運営を行っているのも、恨みを買いにくい理由です。タカシ様から休耕地の話がありましたが、以前チーズの買い付けで修道院へ行った時に、輪作で休耕地に使われていたのがクローバーでした。農業も教会は進んでいると思われます」
タカシは、修道院の農地で行われている輪作に興味が出た。ただ、小麦とジャガイモ、休耕地のパターンを変える気がなかったため質問を止めた。しかし態度に出ていたのか、その修道院ではライ麦、カブ、休耕地でクローバーを育てていたと教えてくれた。
「もう一つが冒険者ギルドになります。ここは商業都市のように成果主義です。冒険者ギルド内で一つのマーケットが存在し、冒険者ギルドのカウンターで多くの商品の売買が完結します。手数料はかかりますが、手間を考えれば安いです。宵越しの金を持たない考えの人が多く購買意欲が旺盛で、特に装備品に関しては金に糸目をつけないですね。荒くれ者が多いですがギルドの権力が強くルールが明確なため、ギルドを通せば恨みを買いにくいです」
タカシは、王都で冒険者をしていた頃の金回りの良さを思い出した。リスクもあるが自由だと考え、現在の責任の多い立場に苦笑いするのであった。
タカシはグランスから商品を購入し終わり、アーナスに言い忘れたことを思い出して館に戻った。アーナスは応接間にいなかったため私室へ向かったが、途中でメイドのアンに呼び止められ、応接間で待つよう怒られた。応接間でしばらく待つと、イーアスを連れたアーナスがやってきた。イーアスからも、館内を勝手に出歩いたことを咎められた。それを見て、アーナスは少し笑っているようだった。
「ゴブリンの被害者女性を奴隷として預けてくれたことへのお礼を言いたかった。本当にありがとう。まさか僧侶や魔法使いがいるとは思っておらず、驚いた。先日、僧侶のホープとは従属契約を終え、心強い仲間が増えたと皆で喜んでいる」
「あれはホープの、教会に行きたくないという願いがあったので、タカシ殿の戦力強化になればとホープに選択肢を与えました。従属契約まで至ったのはタカシ殿の魅力があればこそ、さすがです」
「レインもよく頑張っていて、彼女の魔法は農地拡大に欠かせない。俺はレインから魔法を教わっているが、うまくいかず苦労している」
レインの話をすると空気が重くなり、アーナスは伏し目がちになった。
「平民が魔法を使おうとするなど、分不相応です」
先ほどまで黙っていたイーアスが、あざ笑うように言った。
タカシはイーアスを無視して、もう一つの本題に入った。
「グランスさんからも話があると思うのだが、獣人奴隷の見切り品を手に入れたい。もう少し踏み込んで言うと、虐待などによって働けない獣人奴隷を広く回収できないかと考えている」
「今でも大量の獣人奴隷がいます。そこに虐待を受けた獣人奴隷が入れば、負の感情を制御できなくなるのではないでしょうか?それに、働けない奴隷を入れるメリットも感じません」
「俺のところにはカリンやミオ、メグがいる。この三人は幹部で、従属契約を結んでいる。彼女たちがいるから制御は可能だと考えている」
「だからといって働けない奴隷を買うなど、アーナス様の優しさに甘えすぎている!」
イーアスが強い口調で割って入った。
「俺は神聖魔法が使えるようになった。働けない状態でも回復できると考えている」
アーナスとイーアスは驚きのあまり固まり、時間が止まったような沈黙が訪れた。




