第87話 泥団子
タカシはグランスと一緒に馬車置き場へ行き、彼の幌馬車に乗せている商品を見せてもらった。グランスは申し訳なさそうに麻袋を傾け、他の領主から泥団子と呼ばれた作物を見せた。
「これが一番のおすすめです……。育てやすく収穫量も多いのですよ」
タカシは泥団子と呼ばれた作物を見て、目を見開いて驚いた。
「泥団子って、ジャガイモじゃないか!」
「え!?ご存知で?」
「え!?……あっ、まあ何となく……」
タカシは何となくごまかしてしまったが、グランスは指摘せず話が進んだ。
「茶色でごつごつとした見た目が土のように見えて、受け入れられなかったようです」
タカシはジャガイモはぜひ育てたい、小麦も主食だから外せないと悩み、両方育てることを決めた。そこで、ある農法を思い出した。
「グランスさん、休耕地で育てる蓮華草のような植物はありますか?」
「蓮華草とは?休耕地で育てるということは、土壌を肥やす目的の植物ですかね?」
「はい!」
「それならクローバーでしょうか?手間もかからず家畜の餌にもなりますよ」
「それです!!」
タカシは概ね自分がやりたい大規模農業の姿が見えてきた。小麦、ジャガイモ、休耕地を一年でローテーションする輪作農法を思い描き、上機嫌になった。タカシは馬車の中を覗き込むように首を伸ばす。グランスは荷物の中からクローバーの種を取り出してタカシに渡した。さらに奥からごそごそと作業をしながら、
「アーナス様に言われ、他にも珍しい農作物を持ってきています」
とつぶやき、トマトやトウモロコシなど王国にはない作物を自慢げに見せた。タカシは前世で馴染み深い作物を見て大いに喜んだ。タカシはそれらの農作物と、にんにくやハーブなど村になかった種や苗を購入した。
「グランスさん、奴隷は手に入りますか?できれば見切り品のような売れ残りでいいので、安く欲しいです」
「見切り品をご存知なのですね……。アーナス様からも同じことを聞かれました。しかし現在王国は奴隷不足になっています。特に男性奴隷は品薄ですね」
「獣人奴隷は今も二人で金貨一枚でしょうか?」
「今は高騰して人間奴隷と同じか、少し高いかもしれません。王都以外でも売買できるようになって人気が集まっています」
「あまり急がずに地道にやっていくのがいいですよ。ディオス領は農作物を育てるのに適しています。食糧があり治安が良ければ人は自然と増えます。時間はかかりますがね」
「アーナス様には、奴隷が欲しいのなら商人ギルドマスターの第一王子に頼んでみるよう提案しました。王都の奴隷商は、売れ残りを格安で軍隊、鉱山、開拓村、農奴の順で売る制度があります。戦争中なので望み薄ではありますが、回してもらえるよう交渉することをお勧めしました。一人銀貨百枚ですので損はないです」
「え?銀貨百枚?」
タカシが見切り品として購入したシャロンやセルマは金貨一枚だったので、それよりも安いことに驚いた。
「売れ残りを抱えても食費や人頭税がかさむだけで、いいことないですからね。赤字でもギルドマスターの要望に応える方が商人としては大事です」
「病弱や体が不自由で働けない奴隷はどうしているのだろうか?」
「レア度が高ければ僧侶に回復魔法をかけてもらうのでしょうが、一般奴隷ならば放置されますね。後は本人次第です」
「僧侶の回復魔法かあ……」
タカシは、王都の洗い場で会った虐待の痕跡を体中に残していた獣人奴隷たちのことを思い出した。そしてキャロの姿が重なるのであった。
「どのような状態でも構いません、例え働けない獣人族でも格安で手に入りますか?」
「格安といっても輸送費がかかりますので……」
「一人銀貨二百枚ではどうだろう?」
「それは安すぎる。赤字で仕事を請ける商人はいませんよ」
「銀貨三百枚ではどうだ?働けない獣人族なら厄介払いしたい奴隷商も主人も多くいるだろう、こちらは何人でも受け入れ可能だ」
「アーナス様に確認してみます。領主から第一王子ライザス殿下に頼めば話はスムーズですので……」
グランスは、問題のある獣人奴隷をディオス領まで届けることに悲観的だった。しかしタカシの強い圧に負けそうになり、アーナスに相談することで収めるのであった。




