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第86話 商人のグランス

アーナスが連れてきた男は、商業都市ゼーロムの商人グランスと紹介された。タカシの要望に応えるため、アーナスが手配してくれたようだ。しかしアーナスが言っていた通り、サトウキビや胡椒は気候が合わず育てるのは難しいとのことだった。タカシは現在大規模農業を行おうと農地を拡大中だが、農業に詳しくないのでアドバイスがあれば教えてほしい、注意点でも構わないと素直に尋ねた。


グランスは詳しくはありませんがと前置きをした後、私見を述べた。


「ディオス領は肥沃な土地ですので、畑を増やせば増やした分収穫量は上がると思います。まず焦らずに地道に行うことです。問題点が出ればその都度改善していけばいいと思います」


「肥料について教えてほしい。窒素・リン・カリウムは、そちらで手に入るか?」


「窒素・リン・カリウムなるものは存じません。私が知っている肥料は堆肥になります。牛や馬などの糞に藁や枯葉を混ぜて熟成させたものを肥料として使うのが一般的です。私どもでご用意することは可能ですが、ご自分で作られることをお勧めします。こちらで用意すると高くなりますので……」


タカシは前世の記憶を少し思い出した。堆肥は有機肥料と呼ばれるものかもしれない。そう考えると窒素・リン・カリウムは化学肥料か。それならこの世界にないのは納得できる。


「小麦を作ろうと考えているが、他に何かおすすめの作物はないかな?」


「ちょうどいい商品があります。他の領主に売ろうとしていたのですが、泥団子みたいで気味が悪いと売れませんでした。しかし育てやすく収穫量も多いので、おすすめです。他にもいくつか持ってきていますので、後で確認してください」


タカシは泥団子と聞いて苦笑いをした。


「収益性の高い特産品になるもの、早い話し手っ取り早く金を稼ぐ方法はないか?」


「アーナス夫人にも同じことを言われたのですが、そのようなものはありません。例えそれがあったとしても、安易に飛びつくものではないです」


タカシはアーナスを見た。アーナスはタカシから視線を逸らし、ばつが悪そうな仕草を見せる。タカシは、誰でも同じことを考えるものだと微笑んだ。


グランスは説教モードに入ったように、長々と話し始めた。


「商業都市では、良い品を安く仕入れて売れば評価されますが、王国では違う場合が多いです。王国では、各職業の労働者や職人ギルド、商人ギルド、そして領主や貴族の商売を邪魔すると不評を買います。最悪、罪に問われたり商売を妨害されたりと散々です。手っ取り早く金を稼ぐということは、既存の労働者や権力者に流れる金を奪う行為でもあるのです。そのため、晴れの日に雨具を売るような行為は厳禁です。例えば相手が困っている時、小麦が不作の時に小麦を売るのは喜ばれます。しかし不作でもないのに小麦を安く売ることは許されません。小麦の場合は商人ギルドの指定された店でしか売れませんので、勝手に安く売ることも高く売ることもできません」


「じゃあ恨まれずに金儲けをするには、どうすればいいんだ?」


タカシは金儲けを否定されたように感じ、少し不機嫌になりながら聞いた。


「まず小額なら問題になることはないです。次に需要がある場合、先ほどの説明で言うところの不作ですが、それによって権力者が必要としている点が重要です。権力者が必要としているならば問題になることはないです。あとは希少性ですかね。需要と被る部分があるのですが、必ずしも生活に必要ではない点で違います。例えば、宝石や美術品、酒や砂糖などの嗜好品ですね」


「うーーん、それではディオス領の財政を立て直すアドバイスはないか?」


グランスはアーナスを見た。アーナスは微笑みながら頷いた。


「戦争で減った人口を戻すのが重要です。人口は国力に繋がります。人口を増やすためには、安定的な食料自給が必要です。その点でディオスは恵まれていますので、焦らずできることからやっていけば自然と結果がついてくるでしょう。財政難に対してアーナス様に提案した一つですが、獣人族との戦争が長期化すると予想されています。そのため第二王子軍は長期戦に向けて軍費の負担を減らすため、節約を考えると予想します。そこに需要があります。ディオス領の豊富な農作物など食糧を戦地に届けることで利益を得られる可能性があると提案しました」


(戦争特需か!?)タカシはその言葉の意味を理解していた。それなのに思いつかなかった自分を恥じた。戦争には莫大な資金がかかるが、負ければ意味がないため削減が難しい。ディオス領が安く食糧を売り戦地に届けるところまでやれれば、第二王子軍の軍費と労働力の二つの負担を抑えられメリットは大きいはずだ。グランスの言う通り、需要はある。


タカシは、知識を持っていても現実社会に結びつけるのは意外と難しいと感じた。

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