第85話 魔性の女
タカシは我に返り落ち着こうと試みたが、笑いが止まらなかった。なぜなら、間違いなく高レベルの神聖魔法、リザレクション(死者蘇生)まで覚えていたからだ。横で見ていたホープは困惑して口がぽかんと開いていた。そんなホープにキスをし、興奮をぶつけるように激しく抱いた。
タカシは行為でぐったりしているホープを背後から優しく抱き、現在の状況を分析した。死者蘇生は諸刃の剣になる可能性がある。現在の教会で使用できる最高レベルの神聖魔法を確認した方がいい。高レベルの魔法はそれだけで災いの元になる。特に回復系は扱いが難しい。聖者や聖女、または教皇がどのような魔法を使えるのかをホープに確認したが、ホープは詳しくなく、現在は聖者や聖女はいないと思うとだけ答えた。
タカシは全ての予定をキャンセルして教会へ向かった。リオンの父親ローガンは司祭だったはずだ。母親のセシリアもいる、詳しい情報がわかるはずと考えた。教会では朝の礼拝が終わり、リオンが掃除をしていた。リオンはタカシを見つけると笑顔で挨拶し用事を聞いた。タカシは素直に神聖魔法の使い手について尋ねた。リオンによると、教皇様が神聖魔法をどこまで使えるかはわからない。ただ、聖者や聖女よりは圧倒的に低いレベルとのことだった。それは教皇様のレベルが低いのではなく、聖者や聖女が別格で、それだけ一般人との差が大きいということだ。現在は聖者も聖女も不在で、おそらく教皇様が神聖魔法で最も高いレベルを行使できるだろうとのことだった。
「どうして急に神聖魔法に興味を?」
リオンは気になったことを素直に聞いた。タカシは自分でもびっくりするほど動揺してしまった。リオンはタカシに近づき首を傾げ、大きな目でタカシを覗き込んだ。リオンの長い金髪から甘い香りがし、タカシを誘惑した。うら若いリオンの無防備な仕草にタカシは唾を飲み込む。時間が早送りになったような錯覚の後、体が急激に熱くなり、思わず口走ってしまった。
「俺は、神聖魔法を使えるようになったみたいだ」
「それは凄い!!」
リオンはタカシの両手を握りしめた。タカシは心臓が飛び跳ねるような衝撃の後、(これは食べてはいけない果実だ!)と呪文のように何度も心の中で唱え、冷静を保つよう努めた。
リオンは矢継ぎ早に質問をした。
「いつからですか?どのような神聖魔法ですか?何回使えますか?」
「大したことはない。初級のヒールだ」
リオンは怪しむように、タカシの顔に近づいてまじまじと見つめた。タカシはリオンの目を見返したが、逃げるように視線を下にずらすと、瑞々しい唇で視線が止まってしまった。すぐにリオンから手を離し、距離を取った。
「セシリアさんはどこに?」
「アーナス様に会いに領主邸に行きましたよ」
タカシは、神聖魔法が使えるようになったことは黙っているつもりだった。しかしリオンの無自覚で無防備な対応がタカシに妙な緊張を作り、思わず口走ってしまった。以前イーアスに「リオンに無礼なことをしないように」と釘を刺されたことで不必要に意識しているのかもしれないと考えた。しかしホープとの関係が深まったことで、同じシスター服を着ているリオンに同様の欲情を抱いてしまったのだと改めた。あの無防備な仕草は魔性だ。冷静ではいられない、気をつけなければ——領主と教会、二つの不評を買うと考えるタカシだった。
タカシはリオンから逃げるように領主邸へ向かった。領主邸でイーアスにセシリアを探しに来たことを伝えた。セシリアは用事を終えて教会に戻ったとのことで入れ違いになっていた。
「ちょうど良かったです。応接間でお待ちください」
しばらくすると、アーナスが初老の男性を連れてきた。




