第82話 新たな秘策
方針が決まると皆の動きは早く、各村々の風景が劇的に変わっていった。
ただ、問題点もいくつか出てきた。一つは名称だった。各村に元々使われていた村名をタカシたちは知らず、魔の森を向いて方向で村を指定していた。さすがに名前で呼ぼうという話になった。そこで、魔の森に面する防衛線の要所になる三つの村をミナタカ村(左)、ニラム村(真ん中)、アルニタク村(右)とし、タカシたちが拠点としている村をハチヤ村(中央)、新たに加わった村をネビュラ村(中央下右)とした。
使用されていない家で傷みが目立つものについては、状況が悪いものは解体して防衛線構築の資材として使うことが決まった。家の中にある家具などは倉庫として使う家を指定して集められた。農具や工具、作物の種なども回収され、指定された家に集められた。
各村の畑は村に隣接するように作られ、他は平原や林が広がっていた。これらをタカシ班が中心になって開墾し、畑を広げる作業を行った。タカシはとりあえず畑を増やせばその分収穫量も上がると考え開墾に励んだ。ただ、農業の具体的なやり方がわからず不安も抱えていた。一番詳しいのは村娘たちだが、そのやり方はタカシが目指しているものではなく、もっと理論に基づいた効率的な農法で大規模農業として行いたかった。
タカシは異世界人としての記憶を思い出していたが、農業の経験がなく一般教養の範囲内だった。植物には光、水、二酸化炭素、栄養が必要で、栄養の三大要素は窒素、リン、カリウムだということは知っていても、窒素をどうやって補充すればいいのかがわからなかった。それは大規模農場についても同じで、「広大な畑で牛馬を使い組織的に行う」というところまではすぐに思いついたが、さらに詳しい内容はわからなかった。
また、新たな産業についても何をするかがまとまっていなかった。既存のやり方を異世界人の知識で改善するのは比較的楽だが、ゼロから新たな産業を作るには記憶があいまいすぎて踏み切れず、二の足を踏んでいた。
タカシは悩みに悩んで新たな秘策を思いつき、ディオス邸へ向かった。対応してくれた使用人にアーナス夫人への面会を申し入れる。ディオス邸は以前のような、暗く周囲に誰もいないような静まり返った様子はなく、使用人が増えて文官が常駐し、武官の出入りもあった。タカシは応接間に案内され、しばらくするとアーナス夫人がイーアスと共にやってきた。タカシは、二人きりで会う時とは違う毅然とした態度のアーナス夫人を見て、新鮮な気持ちを感じていた。
タカシは辺境騎士団の現状を報告し、本題に入った。
「農業に詳しい人を紹介してほしいです。最新の農法や大規模農業に詳しい者だと助かります」
「ディオスの農業はあまり進んではいません。最新の農法と言われると他領からの引き抜きになりますが、どこの領地も人材を出さないでしょう。技術者の流出への警戒もあり、難しいかもしれません」
アーナスは、タカシがディオス領の産業を育てディオス領を盛り上げようとする動きを好ましく思い、後押ししたいと考えていた。ただ、農民も技術者も保守的で地元意識が高い。領主との関係性も強く、ハードルが高いように感じていた。
「それでは商人を紹介していただけないでしょうか?新たな特産になりそうな農作物、胡椒やサトウキビを育てたいと思っています!」
タカシは目を輝かせ、秘策をドヤ顔で披露した。アーナスもイーアスも驚き、沈黙が応接間を支配した。
すぐにアーナスが勇気を振り絞って沈黙を破った。
「タ、タカシ殿……胡椒やサトウキビは気候が合わず、育てるのは難しいかと……」
タカシは秘策を否定され、わかりやすく意気消沈した。アーナスは、タカシの絶望のどん底のような表情に焦った。
「わっ、私の母、リリアーナ第三王妃は商業都市ゼーロムの出身です。ゼーロムの商人に声をかけてみます。もしかするとディオスの気候に合った胡椒やサトウキビがあるかもしれません」
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
それからタカシは騎士団の活動内容と苦労話、新たな産業を作りたいことなど近況を語った。アーナスはタカシのやる気を削がないよう、必死に話を合わせるのであった。




