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第81話 散策


タカシは毎朝、レインに魔法を教えてもらっていた。授業内容は毎日変わり、時間は三十分から一時間程度、本格的な講習や実技だけでなく、魔法使いにまつわる物語や、実際にあった活躍や失敗話の雑談も多かった。それらはとても面白く、魔法についての好奇心が刺激された。


いつもの場所にタカシが着くと、レインはすでに待っていた。小さな水球を作って遊んでいたらしく、その水球がタカシに近づいてくる。タカシが軽く避けると、水球は次々と増えて速さを増し、タカシを追いかけた。


「ほらほら、もっと逃げないとびしょ濡れになりますよー」


レインはそう言いながら、笑顔で水球を増やしていった。タカシは回り込む形でレインに近づき、滑り込むようにその足元に入った。レインは「キャア」と小さな悲鳴を上げ、水球が弾けて二人を水浸しにした。タカシは立ち上がり「悪い先生だ」と囁いてレインの唇を奪った。タカシの唇はレインの首へと流れ、そのままレインを抱くのであった。二人は、水球によって冷えた体が程よく温まるのであった。


拠点に戻り着替えを終えた。しばらくするとセルマが合流し、三人で昨日の会議で出た自活について話し合った。まずタカシからレインに経緯が説明され、特産品となりそうな農作物や産業があれば教えてほしいと質問がなされた。


「特産品としては、特にありません」


レインによると、開拓にも参加していたが途中からギルドマスターになり細かな状況はわからない。ただ、ディオス男爵は公爵より領土拡大を急務とするよう厳命されていた。産業に力を入れて新たな収入源を確保するという考えよりも、開拓を行って村を増やしていくことが最重要だった。そのため村人は開墾、家や橋作り、農業や狩りと何でも行ったが、逆に専門分野に特化した人材は育ちにくかった。他領に比べ馬や牛、馬車は比較的多いが、産業として増やしたのではなく、開拓に必要だったため公爵より援助されたり購入されたりしたものだった。豊富な食糧も、たまたま肥沃な土地で農業以外に産業がないため収穫量が多くなっていただけだった。


「ディオス領は、敗戦の影響から財政が逼迫しているようです。財政が潤いそうな産業はないでしょうか?」


「……すみません。何か思いつけば提案したいと思いますが、今はわからないです」


タカシとセルマは、レインがギルドマスターとして、またAクラス魔法使いとして知識が豊富で、良い案がいくつも出てくると期待していたが、甘くはなかった。三人で拠点の村を散策し、新たな産業になりそうなヒントを探そうとしたが、都合よくは見つからない。逆に、誰も住んでいない家々には傷みが目立つ箇所があり、問題が山積みなのを感じさせられた。


拠点に戻ると、シャロンとキーシャが帰っていた。二人から、元村娘やゴブリンの被害女性、自警団からの農作物と産業についての報告を受けた。産業の情報はなかったが、どのような農作物を育てていたかは詳しくわかった。ただよく考えると、アーナスから届けられる農作物ばかりだった。アーナスの気配りを感じるのであった。


結果として新たな産業に結びつく情報はなかったが、タカシが口を開いた。


「レインからの情報で、ディオス領は産業を育てるよりも領地拡大に力を入れていたことがわかった。つまり創意工夫次第で、以前よりも収穫量を増やせる可能性があると思っている」


タカシは当初から考えていた、異世界人としての知識を発表した。


「俺は、大規模農業を考えている!」


「今までは村の周りにある大小さまざまな畑を、それぞれの所有者が自由に農作物を作って自給自足していた。大規模農業とは、広大な畑で組織的に農業を行うことだ。作る農作物もあまり種類を増やさず、例えば小麦だけで、牛馬を使って効率的に耕し皆で種をまく。組織で管理することによって作業効率が上がり、収穫量も増える農法だ」


皆はあまりわかっていないようで、ぽかんと口が開いた状態だった。


「まあ、一度やらせてくれ」


「魔の森の防衛ライン強化をセルマをリーダーに、メグとコリン班で行ってくれ。ディオス領全体の巡回は正規の騎士団が行うから、俺たちは魔の森から出てくる魔物を通さなければ安泰だ!気合を入れて頼む。俺はレインの魔法や牛馬を使って広大な畑を作っていく。実際の農作業は、シャロンとキーシャをリーダーに、カリンとミオ班で行ってくれ。作るのはとりあえず小麦でいい。牛馬が入りにくい小さな畑は、植える作物は任せる。まあ、こんな感じでやってみよう。俺たちには魔物の部位や魔石の収入もあるから、失敗を恐れずにやろう」


タカシから方針が発表され、皆は大きな声で返事をするのであった。

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