第76話 魔法
被害女性たちが奴隷としてタカシに渡されてから二週間が経った。混乱があるかと思ったが、トラブルらしいトラブルもなかった。
タカシはAクラス魔法使いで元ギルドマスターのレインに魔法の手ほどきを乞うた。異世界人として魔法の才能があると自負していたが、実際にはうまくいかなかった。レインの話では、魔法について確実な習得方法はなく、魔力を持っていても習得期間には個人差が大きいそうだ。
体の中にある魔力を練って、詠唱に重ねてイメージし、魔法を放つ。この「練る」ための魔力とは、体の中にもやっとあるとか、頭に白い球体があるとか、指先など末端から集めるなど、さまざまな言われ方をする。そのため魔力を感じ取ることが、最初のハードルになっていた。
「魔力って白?……どんな色?」
「それも人それぞれで、白という人もいれば黒など色々で、炎という人までいます」
「うーん……そんなの、ないなあ。俺には魔力がないのか?」
「貴族でも、すぐに魔力を見つける人は少ないので、そうとも言えません」
「普通は、何日くらいで魔法が使えるようになるんだ?」
「早い人はすぐに使えます。ただほとんどの人は一ヶ月くらい。遅い人では一年以上かかることもあります」
タカシは、魔力を持っていても意外と時間がかかることに驚いた。(異世界人なんだから、魔法くらいすぐに使えるべきだろ……)と、自分を異世界に転移させたエルフィスオンへの不満が募った。
「魔力がすぐにわからなければ焦らず、地道に探すことです。同じ状況で探すのではなく、例えば寝起きや、勉強中・運動中・食事中など、状況を変えてきっかけをつかむのが良いと言われています。魔法を使っているのを眺めているうちに使えるようになった人もいるんですよ」
レインは水魔法で自身の周りに水球を浮かべ巧みに移動させながら、微笑んで答えるのであった。
「ああ、わかった。地道に探してみるよ」
二人が拠点に戻ると、ちょうどイーアスが訪れていた。タカシがイーアスと簡単な挨拶を交わす間に、気づけばレインは姿を消していた。イーアスは気にする様子もなく本題に入った。
「戦地からディオス軍が帰還します。しばらく領主邸には来ないでください。特に獣人族は、この村より都市側には立ち入らないようお願いします」
ディオス軍は獣人族との戦争で多大な損害を出した。そのため帰還兵が獣人族と出会えば余計なトラブルになるとして、獣人族は魔の森防衛だけに専念させること。領内の巡回に関しては獣人族を外した人族だけで行ってほしいとのことだった。そして、ディオス軍やこの村出身者がこの村や魔の森に近寄ることを禁止にしているが、タカシ殿の方でも警戒してほしいなど、アーナス夫人からの指示が伝えられた。
「期間はどれくらいになりそうだ?」
「まだわかりませんが、ある程度落ち着きましたらこちらから連絡します。ただし獣人族に関しては、長期間だとお考えください」
「ああ、わかった。戦地の情報が入ったら教えてくれ」
「膠着状態とだけ聞いています」
イーアスはそう答えて帰っていった。セルマたちがティアーナに攻撃を受けたこともある。獣人族については特に気をつけなければ、王都のような状況になりかねないとタカシは考えた。




