第7話 初夜
シャロンは、タカシの指示通りに手際よく夕食を準備した。パンと野菜くずのスープ、そしてタカシの分には肉料理が一品。テーブルにはタカシの食事が並べられ、シャロンは自分の分を床に置いた。
タカシはそれを見て見ぬ振りをした。これが奴隷を扱う上での「慣習」なのだと自分に言い聞かせ、何食わぬ顔で食事をする。しかし、内心は穏やかではなかった。まるで自分が冷酷な悪役になったような気分で、背中に冷たい汗がつたう。
気まずい沈黙を破るように、タカシはシャロンに話しかけた。
「家族はいないのか?」
「夫がいました。腕のいい皮職人でしたが、暴漢に殺されてしまって。それで収入がなくなり、夫の知り合いの家でメイドとして働くことになったんです」
タカシはシャロンが結婚していたことにショックを受けた。よく考えれば、異世界で二十八歳なら結婚しているのが普通か……。それにしても、崖から突き落とされたような気分だ。
タカシはシャロンの言葉に頷きながら、いくつか質問を重ねた。暴漢は大柄の男だったが、フード付きのマントを羽織っていたため顔がわからず、いまだ捕まっていないそうだ。シャロンは最初こそ戸惑っていたが、やがて淡々と自分の過去を語ってくれた。
夕食が終わった後も、二人の会話は続いた。タカシは、ただ情報を得るためだけでなく、この奇妙な状況を少しでも和らげようと必死だった。シャロンもまた、タカシの質問に律儀に答え続けた。
そして、寝る時間が来た。
タカシはシャロンを寝室へ連れていった。奥の部屋には、一人用のベッドがひとつと、物入れに使っている木箱がふたつ。タカシは木箱からシーツを一枚取り出し、シャロンに手渡した。
「悪いが、お前は地べたで寝てくれ」
シャロンは何も言わずにシーツを受け取り、床に敷いた。タカシはベッドに腰を下ろし、黙って彼女を見つめた。
「あの……」
タカシはためらいがちに口を開いた。
「……お願い、できるか?」
彼の言葉に、シャロンは無言で頷いた。その表情には、一切の感情が読み取れない。彼女はゆっくりとタカシに近づき、ベッドに座る彼の股の間に顔をうずめた。
翌朝、タカシは早くに目が覚めた。
目を開けるなり、シャロンを探した。しかし、その姿が見当たらない。
(まさか……逃げたのか?)
そう思った瞬間、心臓が大きく跳ねた。せっかく手に入れた最初の奴隷だ。もし逃げられたら、ハーレム計画が……。
タカシは焦ってベッドから身を起こし、部屋を見回した。するとベッドのすぐ脇、寝ていると死角になる場所で、丸まって眠るシャロンの姿が目に入った。
(よかった……)
タカシは安堵のため息をついた。
シャロンは、地べたに敷いたシーツにくるまり、静かに眠っていた。その無防備な寝顔は、昨日までの悲痛な表情とはまるで違った。
タカシは、シャロンが逃げなかったことに、心から安堵するのであった。




