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第69話 完勝


セルマが相手にしているホブゴブリンは、通常サイズより背が高く二メートルを超え、セルマとほぼ同じ身長だ。深緑の肌に黒の斑模様が目立ち、筋肉質なためセルマよりも大柄に見えた。


タカシが相手にしているゴブリンジェネラルは、奇声を発しながら滅茶苦茶に剣を振り回していた。奇声と共に唾液が口から垂れ、オリーブグリーンの肌を伝って顎から下に落ち、皮の鎧にいくつもの跡を作った。タカシはゴブリンジェネラルの唾液という精神攻撃に怯み、腰が引けて鍔迫り合いに力が入らない。ゴブリンジェネラルは仲間を鼓舞するように吼え、タカシの顔に臭い息と唾のしぶきをぶっかけるのであった。ジェネラルに呼応するようにセルマが相手しているホブゴブリンも叫んだが、他の声はなかった。ゴブリンジェネラルは不審に思い、ゴブリンファイターやメイジ、ホブゴブリンがいると思われる方向を確認した。タカシも釣られて視線を向けると、カリンたちが倒し終えて、見学するかのようにタカシたちの戦いを眺めていた。


タカシとジェネラルは、あまりにも早く決着がついていることに驚き、双方が目の前の相手を早く倒そうと焦った。セルマは熟練の剣技によって大柄のホブゴブリンに確実に傷を重ね、最後は脳天をかち割る一撃を与えた。大柄のホブゴブリンがセルマの足元に崩れ落ち、セルマは大きなため息をついた。


セルマのため息で残りがジェネラルだけだと感づいたタカシは、カリンやコリン、他の獣人族の視線を強く感じるのであった。その時、ふとキャロが以前言っていた「獣人族は強い人がモテる」という言葉がキャロの顔と共に浮かんだ。タカシはあらん限りの力を振り絞り、ジェネラルを弾き飛ばした。ジェネラルはバランスを崩してよろける。タカシはこの隙を見逃さずジェネラルの左手を切り落とし、ひるんだ隙に心臓を剣で貫いた。


タカシの剣がゴブリンジェネラルを貫くと大きな歓声があがった。カリンとコリンが駆け寄りタカシに抱きつく。続いてセルマや他の獣人族も集まってタカシを称えるのであった。ただタカシには(手伝ってくれて良かったのに……)と複雑な思いがよぎっていた。


タカシたちは、ゴブリンジェネラルが出てきた大きな家とその周辺の家を順番に捜索した。ジェネラルが出てきた家の裏には小屋があり、捜索していたセルマが険しい顔をして出てきた。


セルマはカリンにリオンと馬車を呼ぶよう指示を出した。カリンはコリンを連れてリオンを呼びに走り、それに気づいたタカシが何事かとセルマに確認した。


「ゴブリンに捕まっていた女たちが見つかりました。この家から皆を遠ざけてください」


セルマは小声でタカシに説明するのであった。


しばらくするとリオンが到着した。護衛のキーシャとルカ、そしてアーナス領主代行とイーアスも一緒についてきた。タカシたちは遠巻きにセルマたちを見守ったが、会話は聞こえない。セルマに連れられてキーシャが小屋の中に入る。しばらくして捕虜になっていたと思われる女性が出てきた。マントで全身は隠れているが、顔も髪も汚れて元の色が何色かわからない、真っ黒に汚れた、おそらく女性という印象だ。キーシャが小屋の中で、セルマが小屋の出入り口で、リオンが馬車で、捕まっていた女性たちを誘導した。女性たちには解放された笑顔はなかった。震え、うつむき、または魂が抜けたような状態で馬車まで歩いた。


捕まっていた女性の一人が小屋を出るなり、魂を引き裂くような大きな叫び声を上げて走り出した。マントは落ち、全裸のまま馬車とは反対側へ逃げようとした。ただ体力が落ちているためふらつき、まともに走れていなかった。すぐにセルマに捕まったが錯乱状態で暴れる。リオンに魔法をかけられて大人しくなり、セルマに抱きかかえられて馬車に乗せられた。


捕まっていた女性十一名を馬車に乗せ、リオンたちはゴブリンの大規模集落を後にした。セルマもまた、タカシの了承を得てついていった。


タカシたちは全ての家の捜索を終えると、家に火をつけて回った。


ゴブリンの大規模集落討伐は、重傷者を一人も出さない完勝だったが、皆に笑顔はなかった。


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