第68話 ゴブリン大規模集落討伐
翌朝、タカシはセルマを連れてアーナス領主代行にゴブリンの大規模集落ができていたことを報告し、これからゴブリン討伐を行うことを伝えた。質問があるかと思いセルマを連れてきたが何事もなく任せてもらえた。帰り際にセルマからアーナス夫人へ、これから教会に行ってシスター・リオンに同行を依頼すると知らせるのであった。
領主邸を出てすぐに、二人は教会へ向かった。朝の礼拝を終えて一息ついたシスター・リオンに、挨拶もそこそこに経緯を説明した。セルマはリオン専用の護衛をつけるのでゴブリン討伐に同行してほしいと伝えた。リオンは意外にもあっさりと快諾してくれた。用意を考慮して一時間後に迎えをよこすと言い、二人は拠点に戻った。拠点では、ゴブリンの大規模集落討伐を前に緊張した雰囲気が漂っていた。セルマはキーシャとルカをリオン専用の護衛に任命し、リオンを迎えに行くよう指示を出した。
自警団が拠点に到着し、タカシから昨夜の強行偵察でゴブリンの大規模集落が発見されたと告げられた。次にセルマから簡単な作戦の説明と、役割ごとの班分けが行われた。班分けが終わりしばらくすると、キーシャと共にシスター・リオンが到着した。ただ、その横には戦闘衣装を着たアーナス夫人とメイドのイーアスがいた。アーナスは黒のドレスに胸当てなど簡易的な鎧を装着し、手にはスタッフを持っていた。イーアスも同じようにメイド服に鎧とスタッフだ。タカシは二人の戦闘衣装に(いつもと違う雰囲気で、凛々しくていい!)とじろじろ見ていて、イーアスに睨まれるのであった。
セルマの作戦にアーナスとイーアスは入っていなかったが、二人の様子からリオンの護衛に来たような雰囲気だった。現在のディオス領において、回復魔法の使えるリオンの価値はそれだけ大きかった。セルマからリオンへ「戦闘要員ではなく、もしもの時の回復役として同行をお願いしました。戦闘が落ち着くまで護衛と一緒に安全な場所で待機してください」と説明された。
討伐部隊は騎馬と馬車でゴブリンの大規模集落に向かった。途中何度か魔物が出現したが、先行のタカシたちによって討伐され、無事に目的地に到着した。目的地は、拠点からゴブリンが集落を作っている村へ向かう道の、村の手前にある林の中の池のほとりだ。そこで馬車から降り、それぞれリーダーに率いられて指定位置についた。
皆が配置についた後、カリン、コリン、ミオ、メグの四人が皆の待機を確認するかのように道を通り過ぎた。四人は装備を外し、普段着だ。これから大量のゴブリンと戦うような服装ではなかった。林を抜けて村への道を進んだが、コリンだけが明らかに緊張して青い顔になっている。四人はまっすぐ村の入り口に向かい、見張りのゴブリンに見つかった。次の瞬間、四人はあらん限りの大声で悲鳴を上げた。それは林で待機している者にも聞こえる声だった。見張りのゴブリンが一斉に襲いかかるが、ミオとメグによって蹴り飛ばされ行く手を阻まれる。コリンは安堵の息をつこうとするが、飲み込んだ。村から、どこに隠れていたのかと思えるほど大量のゴブリンが四人に向かって奇声を発しながら駆け出してきたからだ。コリンは絶叫の悲鳴を上げ、来た道を戻るように走り出した。それを見て他の三人も悲鳴を上げながら走り出す。
林の中で待機しているセルマは、自分の熱心な演技指導によって行われた悲鳴に首を縦に振りながら満足するのであった。二度目の悲鳴が聞こえた時、その迫真の演技力に笑顔が出ていた。ゴブリンから必死に逃げるコリンは後ろを振り向かず全力で走るが、他の三人はゴブリンを引き離しすぎないように調整している。特にメグは、捕まえようと伸びるゴブリンの手を振りほどきながら走る。振りほどかれたゴブリンは少しバランスを崩してスピードが落ち、後ろから来るゴブリンに激突されて将棋倒しを作っていた。ゴブリンたちはそんな様子を気にすることもなく、将棋倒しの山を避けたり登ったりしながら四人を捕まえようと奇声を発して走る。四人の女性を捕まえようとするゴブリンたちの醜悪さを、遠くからタカシは見ていた。タカシたちは、ゴブリンたちが作戦区域外に出るのを阻止する役目を担っていた。タカシは、必死に女を捕まえようと周りが見えなくなっているゴブリンを見て、男の性のようで情けなく感じていた。
林の中、道はカーブしていて後ろから来る者には木々で見えなくなる場所に自警団が待機していた。コリンは盾を構えた自警団の中を走り抜けた。その後カリン、しばらくしてミオ、メグの順で走り抜けた。四人を追いかけてきたゴブリンたちは自警団の盾に激突して弾かれ、後から来るゴブリンたちに踏みつけられた。ゴブリンたちは道なりに長蛇の列を作り、その数は百を超えていた。
その時、轟音がしてゴブリン、人間、獣人の別なく全員が身をすくめた。轟音の原因は爆裂魔法だった。長く伸びたゴブリンの列に二発の爆裂魔法が着弾し、周辺のゴブリンを丸焦げにして吹き飛ばした。セルマは林で待機していた弓隊に「放てーーー!」と大声で命じた。
ゴブリンたちは突然の爆裂魔法と大量の矢によって戦意を喪失し、逃げようと四方八方に走り出したが、密集しているためゴブリン同士でぶつかりパニックになっていた。そこに「全員かかれーーー!突撃!」の声と共に隠れていた獣人族が一斉にゴブリンへと切りかかった。戦闘は一瞬で終わった。戦意を失ったゴブリンは的でしかなく、獣人族にとっても自警団にとっても敵ではなかった。上位種もいたが、爆裂魔法の直撃を受けたようだ。屍の中にホブゴブリンもいたのを確認できたが、誰が倒したか誰も覚えていなかった。
作戦には入っていなかったが、セルマは爆裂魔法がアーナスとイーアスのものだとすぐに理解した。二人の爆裂魔法はティアーナのそれよりも明らかに威力が大きかった。大量のゴブリンの死骸の処理はルカ以外の新人獣人族二十三名に任せ、他の者で村の包囲網を作った。そこでセルマはタカシたちと合流した。タカシは、村から逃げ出すゴブリンはいなかったと、頭をかきながらセルマに報告するのであった。
タカシは装備を整えたカリン、コリン、ミオ、メグ、セルマの五人と共に村の捜索を行った。一軒一軒回ってゴブリンが隠れていないか確認する。確認し終わった場所は包囲網を狭め、屋根に弓隊を配置して次の家へ向かう。家々はとても汚く、糞尿や生ゴミによって強烈な悪臭を放っていた。そんな劣悪な環境に隠れているゴブリンや寝ているゴブリンを駆除しながら、片っ端から捜索して回った。
村の中央にある大きめの家数軒を残すのみになり、タカシたちは中央に集結した。その時、一番大きな家から上位種のゴブリンが飛び出してきた。一際体の大きなホブゴブリンは剣を構えたセルマを弾き飛ばした。タカシはフォローに入ろうとしたが、追いかけるように出てきたゴブリンジェネラルに阻まれた。倒れたセルマに火の魔法が飛んできたが、ぎりぎりのところで盾で防いだ。ジェネラルに続いてゴブリンメイジが三匹出てきた。それを守るようにホブゴブリンが二体、ゴブリンファイターが二体も出てくる。カリンとコリンは弓でゴブリンメイジを一体倒し、剣を抜いた。屋根の弓隊によって残り二体のメイジも倒したが、同時に放たれたと思われる攻撃魔法で悲鳴があがった。剣を抜くカリンとコリンに詰め寄るゴブリンファイター二体にはメグが間に入り、二体のホブゴブリンにはミオが立ちはだかった。




