第67話 新たな敵
ディオス邸での会議が終わり、タカシたちは帰路についた。会議以降無口だったタカシに、セルマが声をかけた。
「何か、気になることがありましたか?」
「うん?いや……アーナス夫人が変わられたと思って……。以前、使用人の食堂で行った会議と比べて、なんていうか……」
「確かにあの時と比べれば……」
「タカシ様が王都に赴いている間に何回か夫人と話す機会があったのですが、今が本来の姿のように思います。夫人はあの時が一番、身も心も苦しかったと言っていました。毎日くる魔物襲撃の報で、逃げ出したいとずっと思っていたそうですよ」
「まあ……そうだよな。俺なら逃げ出しているか……国王が軍隊を貸してくれれば良かったのにな」
「そうですね……。夫人はこんなことも言っていました。国王から領主に任命された、それがディオス家に与えられた使命です。勝手に投げ出すことも、逃げることも許されない。貴族とはそういうものです、と」
「貴族かあ……窮屈なことだな……まあ俺たちには関係ないか。俺たちは俺たちにできることをやればいい」
「そうです!退避していた村人が戻るまで一週間です。我々も楽ではないです」
「夫人の期待を裏切らないようにしないとな!」
タカシたちは拠点に戻り、魔物討伐の班分けを行った。現在のカリン、ミオ、メグの三班に、タカシとセルマの班を新たに加えて五つにした。そして一日三つの村を巡回するか、一回魔物討伐をすれば帰還としていたのを、一日五つの村を巡回する方針に変えた。ただし、魔物討伐に苦戦しそうだと判断したら、無理に戦わずに逃げることにした。
今日は昼からになったため一日三つの村を巡回することになったが、それでも最後の班が戻った時には太陽が沈んで暗くなっていた。
夕食後、休む暇もなく各班のリーダーにコリンを加えたメンバーによって強行偵察が行われた。騎馬での強行軍で魔物の分布を把握するもので、壊滅した十七の村の状況を確認するのが目的だった。危険な行為だが、獣人族の索敵能力とセルマの経験によって魔物を回避しながら順調に進んだ。途中の村でキーシャたちが用意してくれた元気な馬と交換し、タカシたちは休憩をせずに走り続けた。
放棄された村を十箇所回ったところで、本来見えるはずがないものを発見した。村人がいないはずの村に灯りがあるのだ。タカシたちは立ち止まった。
「やはり、ありましたね」
セルマはため息混じりに言った。灯りは遠くからでもはっきりと見え、複数あった。
セルマの指示で、ミオとメグが馬から降りて偵察し、灯りの原因を確認した。それはゴブリンたちが集落を作っていて、見張りが使っている焚き火だった。村の入り口にいる見張りの数は五匹で、ショートソードや棍棒などの武器を持っていた。カリンがホブゴブリンと遭遇していたので、ゴブリンの集落ができていると予想はしていたが、灯りの数や見張りの多さから、大きな集落と見られた。
タカシたちは強行偵察を切り上げて拠点に戻った。
セルマによると、ゴブリンの集落ができるのはよくあることで、集落の規模によって対応が決まっているとのことだった。小さい集落または少数のゴブリンならば冒険者に依頼が出されるのが一般的で、五匹までなら村人が討伐することもあるとのことだった。
ただゴブリンなど亜人種の魔物の怖さは集団戦にあり、特にゴブリンは一斉に飛びかかってくるのを得意とする。対象になった者は一度に複数のゴブリンの攻撃に対応しなければならず、物量に苦戦する。
そして大規模集落の場合は、必ず上位種と呼ばれるホブゴブリンやメイジ、ジェネラル、最悪キングがいる。その上位種を逃がしてしまうと、新たに大規模集落ができやすいとされている。
そのため大規模集落を発見した場合は冒険者ギルドに報告し、ギルドマスターが領主に報告する。領主とギルドマスターが相談し、騎士団と冒険者のどちらで討伐するかが決められる。
今回のディオス領の場合、冒険者ギルドのドアは閉ざされた状態で機能していないため、領主代行のアーナス夫人に直接報告することになる。
タカシはずっと気になっていた疑問を口にした。
「なぜギルドは閉められているんだ。冒険者ギルドが機能していれば、もう少し魔物の侵略は少なかったはずだ」
「ギルドマスターが失踪したからです」
「えっ?!」タカシは嘘だろ?と言わんばかりにセルマの顔を見た。
「夫人によると、元々辺境ということもあって冒険者が少なかったところに、元Sクラス冒険者ディオス男爵の戦いが見られると冒険者仲間の間で盛り上がり、冒険者たちは男爵についていったそうです。そのため夫人はBクラス冒険者を雇って戦力を補強しましたが、そのBクラス冒険者に依頼を破棄され、次に来たCクラスとDクラスの混合チームは巡回から戻らず、やはり依頼が破棄されました。ここで冒険者ギルドのギルドマスターが失踪しました。失踪後、冒険者ギルドは閉鎖され、全てを夫人が対応することになったそうです」
「ああ……なるほど……」
タカシはディオス領の絶望の連鎖に、言葉を失うのであった。




