第60話 掃除
「さて!始めますか」
翌日のタカシはテンションが高かった。領地の大掃除に向けてやる気満々というやつだ。
三つのチーム、カリン、ミオ、メグのそれぞれのリーダーの下に獣人が三から四名、領民の自警団から六から七名がつく。獣人だけだと少なく、自警団を入れると多い印象だ。騎馬と馬車にて移動し、魔物を見つけたら皆で倒す、そんな作戦だ。
「魔物を見つけたら、すぐに馬車から降りて陣形を作る。自警団が前衛で魔物の攻撃を受け止め、獣人が致命傷を与えて倒せ。決して無理をするな」
「怪我をしないように!慌てず冷静に。自警団は魔物を倒さなくていい!ただし、魔物の最初の攻撃は盾で受けること」
セルマの檄が飛ぶ。
獣人の半数は弓を持ち、もう半数が騎馬している。猫族、犬族も装備はバラバラで統一感はない。特に自警団は個性豊かだ。武器は農具を改良したものや、棒の先に刃物をつけた自作のものを持っている。タカシが買った大盾や木の板で作った簡易の盾を持ち、厚着をして防御力を高めている。そしてほとんどがスカートだ。体格は大きな者が多いが、細身も少数いる。全体的に若くおしゃべりだ。
タカシはカリンのチームに同行した。カリンチームには、騎馬したキーシャと猫族の弓使い二名、自警団から七名だ。各々順番に拠点を出発していく。カリンチームは一番初めに出発し、打ち合わせ通りのルートで村々を回る。最初に到着した村には魔物はおらず、荒らされた様子もなかった。
次の村に向かう途中、図体のでかいグレートボアを見つけた。カリンは馬車を止め自警団を降ろす。一頭なら獣人族だけで倒せるが、打ち合わせ通りに動いているようで迷いがない。
魔物はカリンたちに気づき、真っ直ぐ突進してきた。グレートボアの突進を自警団が盾で受けたが受けきれず、二人が飛ばされて悲鳴があがった。しかしすぐに他の自警団がボアを囲んで盾で押さえつけ、キーシャが致命傷を与えて倒した。
タカシは口を挟まず、それぞれの動きを見ているだけだったが、グレートボアの突進を若い娘が受けて飛ばされた時は焦り、声が出そうになった。グレートボアの突進の破壊力は高く、真正面から受けるのはきつい。そりゃそうなるだろう、というのがタカシの率直な感想だ。ただ、すぐに他の自警団がフォローに入ったのは訓練の成果だろう。普通にはできないことだ。結果的に、突進を真正面で受けて飛ばされた二人が擦り傷を負ったものの、難なく倒せた印象だった。タカシはカリンチームの動きを考察し、セルマの指導力に驚嘆するのであった。
自警団は、倒したグレートボアを捌いて持ち帰る準備で大忙しだ。手がグレートボアの血で真っ赤になっているが、ボアの肉はご馳走だ、自然と笑顔が出て賑やかになっている。その間も、飛ばされた者に声をかける者がいたり、周囲を警戒している者がいたりと、セルマの訓練の良さがよくわかる。
解体後、カリンチームは拠点に戻った。村人が退避している村を三箇所回るか、魔物との初戦で帰るかと決められていた。初日なので無理はしない、これもセルマの作戦だ。
カリンチームが拠点に戻ると、すでにミオチームも帰還していた。昼にはメグチームも帰還した。メグたちは魔物と遭遇せず、三つの村を巡回して帰ってきた。ミオチームもグレートボアを一頭倒していた。ボアの肉は自分たちの取り分を確保し、残りは領主邸の目つきの悪いメイド、イーアスのところまで運んだ。イーアスはその肉を避難民への配給や肉屋への卸しに使っているらしい。本来なら倒した魔物の肉は買い取りになるのだろうが、領主側からの援助もあるので細かいことは言わない。タカシはセルマの器量の良さだろうと考えたが、貴族と付き合う上で大切なことだと感心もした。
タカシがイーアスにボアの肉を届けると、イーアスの機嫌はまだ悪かった。
「このあと教会のリオンさんに、セルマたちがお世話になったので、肉を持ってお礼に行きます」
「リオンはディオス領にとって大切な方です。無礼なことはしないように」
「無礼って……感謝の気持ちを伝えたいだけだ」
「教会を敵に回すと恐ろしいことになります。忘れないように」
イーアスとようやく会話ができたが、完全に信用されていないタカシであった。




