第59話 有能セルマ
タカシが村に入ると、獣人たちが歓迎してくれた。しばらく会わなかったが嫌われているわけではないようで、自然と笑顔になっていた。タカシは獣人たちがディオス領での生活に満足しているのだろうと一瞬考えたが、王都が酷すぎた、あそこに比べればどこでも天国だと考えを改めた。
村の中心にある、村長のものと思われる大きめの家の前で、セルマとキーシャたちが待っていた。キーシャは深々と頭を下げ、セルマは両手を広げゆっくり近寄ってきて歓迎のハグをした。
「お帰りなさい、多くの獣人をありがとうございます」
「ああ、ただいま。色々あったけど目標を達成できてよかった。それより、セルマの方が大変だったんじゃないか?」
「獣人族は素直で、みんな協力的だったので思ったよりも楽でした」
「はっはっはっ、謙遜するな!アーナス夫人が褒めてたぞ」
セルマは照れて少し視線をそらしたが、誇らしげに笑顔で続けた。
「新たに入った獣人二十四名も訓練して、戦力として使えるようにします」
「ああ、期待している」
話しながらタカシは村長の家に案内された。
村長の家では、大きめのテーブルをタカシ、セルマ、カリン、ミオ、メグ、キーシャ、コリンが囲んで座った。椅子は不揃いで皆が詰めて座っている。シャロンは水の入ったコップをそれぞれの前に置き、台所に戻った。台所を確認し使いやすいように整理しているようで、ガサガサと音が途切れずしている。
タカシは皆をねぎらい、今後の予定を説明した。
「新たに仲間に加わった獣人二十四名の成長を待ってから掃討作戦をするのでは遅いと考えている。避難している村人をできるだけ早く帰してあげたい。家も畑も荒れ放題で、回復に時間がかかりすぎるからな。準備もあるから二週間後に村人たちが家に戻れるようにしたいと考えている。どうだろう?異論がなければアーナス夫人に伝えよう」
タカシは皆を見ながら説明を続けた。
「まず、セルマには明日から新たに入った二十四名の獣人の訓練をしてもらう。他の者は二つのチームに分かれて、徹底的に避難区画内の魔物を討伐してほしい。最初は目立つ魔物を間引く感じでいい、無理をしないことだ」
セルマに視線を移し「自警団を作ったと聞いたが、それは戦力として数に入れても大丈夫か?」
「獣人よりは戦闘力は低いですが防御力を鍛えていますので、獣人と組ませて使っていただければ損害を減らせます」
タカシはにやりと笑った。「そうか、それなら三つのチームを作れそうだな。カリン、ミオ、メグがリーダーで三つのチームを作って、明日から各村々を回ってくれ!決して無理はするな。ここまでで質問はあるか?」
セルマから「追加で武器を買ったと聞いたのですが、使っても大丈夫ですか?」と質問が出た。
タカシは貴族用の馬車に武器など重い荷物を入れていたのを思い出した。
「ああ、そうか、忘れていた。武器や防具を買ったが貴族用の馬車に乗せたままだった。取りに行くので人を借りるぞ。セルマと三人のリーダーはチーム分けを決めてくれ。その間に荷物を取って戻ってくる。他に質問や意見はあるか?何でもいいぞ」
誰も意見がなかったので、タカシはキーシャとコリンを連れて幌付きの馬車でディオス邸へ向かった。タカシが御者をして、両脇にキーシャとコリンが座る。タカシはキーシャに、獣人が上手く馴染んでいるか、不自由がないかを聞いた。キーシャはセルマが色々と気を回してくれるから問題はないと答えたが、思い出したように続けた。
「セルマさんは、獣人をなるべく他の村人に見せないようにしたいようです」
タカシは少し考えてから答えた。
「ああ……今も戦争をしていて、ここの領軍は甚大な被害が出たからな。いらぬトラブルを避けるためだろう」
キーシャは何も言わずにうつむいた。
(だからセルマは自警団を作ったのかもしれないな……)とタカシは考えた。
「アーナス夫人の娘ティアーナ様が戻っていないから被害状況は分からないが、前情報ではここの領軍は壊滅と言われている。王都のようにならないためだ」
「コリンは僧侶に回復してもらったようだが、獣人には回復魔法はないのか?」
キーシャが「回復魔法としては聞いたことがありませんが、獣人族には妖術やスキルで回復能力が上がるものがあると聞いたことがあります。その分野はミオさんが詳しいです。あとは薬ですね。薬は広く使われていて、一般的なものは各家庭で作ります。私も簡単なものなら作れますよ」と答えた。
「そうなんだ、じゃあ余裕ができたら作ってもらおうか」
(やはり種族が違うと、色々と違いがあるものだな)
「回復魔法をかけてくれた僧侶の名前はわかるか?教会の人間なのかな?」
「はい、教会のシスターでリオンさんです。たまに拠点に顔を出してくれますよ。怪我人がいたら気軽に治してくれます」コリンは笑顔で話した。
(リオンか……もしもの時のために確保しておきたいな)
話をしているとすぐにディオス邸に着いた。タカシたちはそのまま馬車置き場に向かったが、そこではメイドたちが貴族用の馬車を黙々と掃除していた。タカシは指導役のイーアスに挨拶をしたが、睨むだけで挨拶を返してくれない。アンも元気がなかった。
イーアスをこれ以上刺激しないよう、アンに貴族用の馬車に載せていた武器や防具を取りに来たと説明した。荷物は馬車の横に仮置きされていたので、タカシと獣人二人で幌付きの馬車に移した。
アンが言うには、イーアスは貴族用の馬車を乱暴に扱って多くの傷をつけたことを怒っていて、敷物をすれば防げたとのことだった。タカシは自分が悪かったとイーアスに謝ったが、睨まれるだけだった。
(いや、喋れよ!)と思うタカシであったが、これ以上火に油を注がないよう、逃げるようにディオス邸を出た。




