第57話 野営地
タカシたちを乗せた貴族用の馬車は王都を脱出し、幌付き馬車二台と獣人奴隷を隠していた林に到着した。林では獣人奴隷が静かに待っていたようで、トラブルがあった様子はなく安心した。
タカシは獣人奴隷に手伝わせ、幌付きの馬車の荷物を貴族用の馬車に載せて、それぞれの馬車の重量が偏りすぎないように振り分けた。貴族用の馬車にはシャロンと荷物。幌付きの馬車二台には獣人奴隷二十四名が分かれて乗り、ディオス領へと出発した。
幌付きの馬車の御者は、今までカリンたち、ミオたちをディオス領に送っている。道中の休憩や野営場所を知っていて、タカシが指示を出す必要もなく完全にお任せ状態だ。馬車は道を少し外れ、人目のない隠れた場所で止まって休憩を取る。獣人奴隷はそれぞれ腰やお尻をさすりながら馬車を降りた。全員で食事をし、一時間ほどで出発するのであった。
幌付きの馬車の御者は、アンの同郷の中年女性だった。タカシは御者席に座り、カリンやミオたちを送った時にトラブルがなかったか、どのような旅だったかを聞いた。御者の中年女性は気さくに色々と教えてくれた。彼女は結婚していて、旦那はディオス男爵と一緒に戦争に参加しているそうだ。旦那が留守で暇だったから今回の御者の仕事はちょうど良かったと笑った。王都では観光ができ、貴族の屋敷であるディオス邸に泊まれたのは良い思い出になったそうだ。喋り出すと止まらないタイプなのか、次の休憩ポイントまでずっと話し続けていた。御者席はいつも一人だ、寂しかったのかもしれない。結局、カリンやミオたちをディオス領まで送った時には何もなかったようで、自分の身の上話が中心でカリンやミオたちの話はほとんど出なかった。
五日目の午後、野営ポイントで食事の準備を行う。旅は順調で、明日の昼には着くそうだ。野営ポイントは川原の近く、周囲を岩に囲まれた場所で、馬車が五台ほど並べて止められる広さがある。御者と獣人奴隷は馬車から馬を解放し、草が多く生えている場所まで連れていく。タカシは食事が済んだ獣人奴隷に見張りと交代するよう指示を出したが、交代の獣人奴隷が向かう前に、見張りから「馬車一台と騎馬の護衛が二人近づいてきている」と報告が入った。
周りに緊張が走る。タカシは剣を抜き、シャロンに馬車に乗るよう指示を出す。獣人奴隷たちにも馬車を指差して隠れろと命令し、自分は見張りがいる岩場まで走った。タカシの頭の中では、(大人数の獣人奴隷を見られた場合どうする?口止めするか?しかし口止め料に使える金はない。脅すか?それとも口封じか?どうする……)と考えが巡る。
冷や汗をかきながら岩に登り、近づいてくる馬車を凝視した。しかし見張りをしていた猫人族の奴隷が「ミオーネ様?」と呟く声が聞こえ、もう一人の猫人族奴隷からも「間違いない、ミオーネ様とメグ様だ」と宝物を発見したかのような大きな声があがった。タカシもミオとメグを確認し、剣を鞘に戻して深く息をついた。タカシは岩の上に立ち片手を挙げると、先にメグが気づきミオに声をかけ、ミオも片手を挙げた。
ミオたちが合流すると、猫人族奴隷はミオとメグを取り囲むように集まった。歓声をあげる者や泣き崩れる猫人族、そして少数だが犬人族もいた。ミオたちは獣人奴隷たちに軽く挨拶をしてから、タカシの前まで来てひざまずいた。タカシはミオとメグのかしこまった態度に違和感を覚えたが、笑顔で再会を喜んだ。ミオが言うには、セルマから魔物の素材を持って迎えに行くよう指示されたそうだ。
「獣人が予定よりも多いのではないですか?」
「ああ、まあ大変だったが運よく二十四名連れてこれた」
ミオとメグは深々と頭を下げて礼を言ったが、タカシは「これからが大変だ」と返すのみだった。
タカシは野営場所でミオたちと現状を整理した。計画では、ディオス男爵が領地防衛に残した戦力、騎士三名を含む兵士三十名分の戦力を準備することだった。タカシ、シャロン、カリン、コリン、キーシャ、ミオ、メグの七人が騎士三名の役割を担い、カリンと共にディオス領に向かった犬人族奴隷八名、ミオと共に向かった猫人族奴隷六名、そしてタカシと共に王都を脱出した現在連れている獣人奴隷二十四名で、合計三十八名を集めることに成功した。
ミオが言うには、セルマは退避して空き家になっている村を拠点に獣人たちの訓練を積極的に行っているとのことだった。さらに避難している村娘の中から体の大きな者を集めて自警団を組織しており、使えそうな者が二十名程度になりそうだが補助的な形で活用できるとのことだった。獣人たちは弓の素養がある者で弓部隊、乗馬を練習させて騎兵部隊を作ったという。大盾は誰が使うのかとタカシが確認すると、村娘で作った自警団で使うらしい。大盾に隠れながら槍で突くなら技術はそれほど必要ない、というのがセルマの考えで、敵を倒すよりも壁として使うらしい。順調な報告を聞いて、タカシは自然と笑顔になっていた。
ただ、新たな不安材料ともいえる出来事が一つ起きたとのことだった。カリンとコリンを含めた五名で乗馬訓練しながら、誰も住んでいない村々を巡回していた時のことだ。空き家からホブゴブリンが四体突然飛び出して襲いかかってきた。今まではボアやウルフ、サーペントなど動物系の魔物しか出なかったのに、人型のホブゴブリンだ。緩んでいたタカシの表情が険しくなった。四体だったが突然出てきたため一人が落馬して負傷し、その者を守る陣形で膠着状態になった。
そこにディオス男爵夫人のアーナスが現れ、ホブゴブリンの一体を魔法で倒した。動揺した残り三体をカリンたちで倒し、負傷した者はアーナスと一緒にいた僧侶の回復魔法でただちに完治した。それ以降、警邏は人数を増やして行うようになったが、人型の魔物には遭遇していないとのことだった。
「アーナス様は、なぜそのような場所に?」
「詳しくはわかりませんが、アーナス様は専用メイドと僧侶を連れて頻繁に領地を巡回しているようです。何人かが騎馬している三人を見たことがあると言っていました」
負傷者が完治していることもあり、タカシの興味はアーナスが魔法を使えることと僧侶の存在に移っていた。少し考えれば分かることだが、貴族だから魔法が使える可能性は高かった。タカシは、魔法使いと僧侶という自分の六人パーティーにぜひ入れたかった二つの職業に、強く惹かれていた。
(僧侶ということは教会関係者か……領地の危機ともなれば出てくるのは当然か?)
ディオス領に戻ったら、お礼を兼ねて色々と聞いてみようと考えるタカシであった。




