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第56話 ディオス領へ


タカシはシャロンと、獣人奴隷二十四名を連れての王都脱出計画について話し合った。


いきなり店に行き、二十六名の七日分の食糧を買い占めたら店主に怒られそうだ。事前に話をつけておかなければいけない。荷物が多くなるため、一度に持ち出せば衛兵に難癖をつけられる可能性もある。獣人奴隷の王都脱出も、二十四名の奴隷たちを一度に貴族用の馬車に詰め込むことは不可能だ、何回かに分けなければいけない。そうなると王都郊外に一時的に奴隷を隠す場所も必要だ。やはり二十四名の奴隷は多く、王都脱出は非常に困難だと改めて気づかされた。


五日後、タカシは五十足分の靴をサイロンに届けた。サイロンは「買い手が決まったぜ、問題なければ金貨二十枚だ」と笑顔で言った。タカシは予想以上に高かったため驚きの声をあげた。


タカシはサイロンから代金を受け取り、「サイロンは口銭を受け取っているか?」と尋ね、袋から金貨一枚を取り出してサイロンに渡した。


「兄ちゃん、いいのか?」


「ああ、いつも世話になっているしな」


サイロンは素直に受け取り、金貨にキスをして喜んだ。金貨一枚を渡したが、このタイミングで金貨十九枚が入ったのは大きい。食糧だけでなく、武器もそれなりの数を買える。ディオス領で頑張っているセルマを喜ばせることができると考えると、自然と笑顔になった。


タカシはすぐにディオス邸へ向かい、幌付きの馬車を借りてディオス領までの食糧の買い出しを行った。次に武器屋に行き、大盾を探した。三枚あったので大盾三枚を購入し、残りの金で弓を買った。やはり高騰していて思ったよりも買えなかったが、財布として使っていた革袋の中身が空になるまで買い漁った。


幌付きの馬車をディオス邸に返し、老執事に明日ディオス領へ出立することを伝えた。老執事は「アーナス様をよろしくお願いします」と深々と頭を下げ、タカシは「命にかけて」と短く返事をした。


家に戻り寝室で、すし詰め状態で座る獣人奴隷たちに今回の王都脱出計画を詳しく話した。獣人奴隷たちは、王都脱出よりも、ディオス領でのモンスター退治や目的地に獣人の仲間が約二十人いることの方に喜んでいるようだった。


「王都脱出できても、気軽な旅ではない。命令は必ず守ってもらうからな」


タカシは釘を刺し、獣人奴隷たちは静かに頷いた。


翌日の早朝、いつもの手順で王都を脱出するが、今回は大人数のため八人ずつ分かれて貴族用の馬車に乗る。


第一陣の獣人奴隷八名を貴族用の馬車に乗せ、荷物を載せた幌付きの馬車二台と共に城門を出た。幌付きの馬車には、老執事が気を利かせてくれてディオス邸に貯蔵されていた武器も載せられていた。武器は高く、揃えるのが大変だったのでありがたかった。城門が見えなくなり、人気のない林に幌付きの馬車を隠してから、貴族用の馬車から幌付きの馬車へ奴隷たちを移動させた。もう一台の幌付きの馬車に載せられていた荷物も移動させ、一台を空の状態にした。獣人奴隷たちに幌付きの馬車から出るなと命令し、御者にも「すぐ戻るので静かに待っていてくれ」と言った。タカシはアンと一緒に貴族用の馬車の御者席に座り、空にした幌付きの馬車一台を連れて王都に戻った。本来なら貴族の馬車が頻繁に出入りするのは怪しいのだが、仕方がない。


タカシは貴族用の馬車と幌付きの馬車を貧民街の自分の家の前に横付けし、幌付きの馬車に残りの荷物を、貴族用の馬車に獣人奴隷八人を詰め込んで王都を脱出し、林で待機している幌付きの馬車と合流した。林では、貴族用の馬車から獣人奴隷八人を幌付きの馬車へ移動させた。幌付きの馬車二台と獣人奴隷十八人、御者二人を林に待機させ、貴族用の馬車で戻るのであった。


城門を守る衛兵は、頻繁に行き来する貴族用の馬車を訝しげに見ている。タカシとアンはその視線を無視して城門をくぐり、貧民街のタカシの家まで行った。貧民街でも貴族の馬車が行き来しているため、不思議そうに見ている者が増えていた。タカシは、どうせ王都を脱出すれば戻ることはないと割り切り無視をした。獣人奴隷の残り八人とシャロンを貴族用の馬車に乗せた。御者席にタカシとアン、馬車内にシャロンと獣人奴隷八名が乗り込み、馬車はギシギシと軋みながら城門へと走った。


さすがにというべきか、城門では衛兵が不思議そうに貴族用の馬車を見ている。タカシとアンは衛兵と目を合わさず馬車を走らせていたが、先を行く馬車が城門で止まってしまったため、タカシの馬車も衛兵の近くで止まった。四人いる衛兵のうち一人が軽く挨拶をしてきた。タカシとアンに緊張が走る。


「こちらは、どちらのお貴族様の馬車でしょうか?」


「ディオス男爵の馬車です」


タカシはディオス男爵の家紋が入ったメダルを見せた。衛兵がもう一人近寄ってきた。


「早朝から何回も行き来していますが、何かあったのでしょうか?」


タカシは何と答えるべきか考える。


「答える義務があるとは思えませんが?」


「そうですが、貴族の馬車が頻繁に出入りすることは滅多にありませんので、何かトラブルがあったのではと心配しているのです」


先に止まっていた馬車が動き出し、さらに衛兵二人が近づいてきた。その時、馬車の中から「まだですか?」と、カーテンをほんの少し開けてシャロンが衛兵を睨んだ。


「申し訳ありません、すぐに」


衛兵は平謝りして城門を通してくれた。全身から汗が噴き出した瞬間だった。シャロンの美しい顔が、貴族の洗練された態度に見えたのかもしれない。理由はわからないが、助かった。城門では先に話しかけてきた衛兵を、後から来た衛兵が「ディオス家の馬車だぞ!余計なことをするな」と怒鳴っている声が聞こえた。


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