第55話 買取拒否
獣人奴隷たちを引き取って十日目、タカシは服屋から靴の買い取りを拒否された。
当初、一日四足程度しか作れなかった靴は、十日目には一日十足作れるようになっていた。服屋では安い新品同様の靴が飛ぶように売れたが、それでも一日三から七足程度で、一日十足も補充されると、いつかは売れるにしても、それまでの置き場所に困るというのが理由だった。
タカシが困った顔をしていると、服屋の主人から忠告された。
「新品のような靴を安く派手に売れば、商人ギルドにも職人ギルドにも目をつけられる。これ以上売りたいなら、ギルドに登録するこったな」
タカシは「潮時か」と納得した。商人ギルド、職人ギルド、冒険者ギルドなど各ギルドには様々な役割があるが、一番の役割は税金を納めさせる、チェックする組織だ。そこを通さずに派手に動けば役人に目をつけられる。タカシの元には規定数以上の二十四名の獣人奴隷がいる。役人に目をつけられるのは非常にまずかった。
家に戻りシャロンと相談した。シャロンが言うには、本来は一日に十足も作らないそうだ。職人が一人で全ての工程を行い、月に二、三足程度だそうだ。極端に少ない理由は受注生産で、多くの商品は注文に応じてその都度作るからだという。デザインや大きさ、作る工程などが客の要望や気分で変わることもよくあるとのことだった。言われてみれば、工業化が進んでおらず社会全体がオーダーメイドを基本としているから、新品が高く中古市場が大きい。タカシは妙に納得できた。
革靴の収入がなければすぐに資金不足になる。今すぐ無理をすればディオス領に向かえるが、できればもう少し余裕を持たせたい。獣人奴隷の体力的にも、ディオス領に持っていく物資的にも、時間と金が必要だ。作った革靴を売れる方法を見つけなければならない。商人とのパイプを作っていなかったことが悔やまれた。
タカシはふと心当たりの人物を思い出し、家を出た。奴隷商のサイロンに会いに行くためだ。途中、手土産にワインを買った。なんだかんだ言って、サイロンには一番世話になっているかもしれない。
奴隷商の地下に行くと、いつも通りのサイロンがいた。タカシに気さくに挨拶をし、手土産のワインに大喜びしてくれた。地下の牢屋はいつも通り、獣人奴隷で溢れかえっていた。
タカシが相談に来たのを察したのか、サイロンはワインをグラスに注ぎ、すぐに聞く体制に入っていた。
「で、どうした?何か悩みでもできたか?」
「中古の靴を大量に手に入れたのだが、うまく売る方法を知らないか?」
「数はどれくらいだ?」
「五十足はあるかな」
「ハハハ、それは多いな。うーん、なんか……怪しいが……」
サイロンは深くは聞かない。「物が良ければ引き取ってもいいぜ」。サイロンの予想外の発言にタカシは驚いた。
「サイロンが引き取ってくれるのか?」
「ああ……俺がというよりも、奴隷商でだな。奴隷商に来る人は冒険者や一般人だけではなく、貴族や商人、教会関係者など……まあ色々とツテはあるんだ」
「値段は物によるが、適正価格よりは安いかもしれないな」
よく考えれば想像できた話だ。奴隷商に売られてきた奴隷たちは奴隷服に着替えさせられる。では、今まで着ていた服や靴はどうしたのか。まとめて買い取ってくれる業者がいると考えるのが自然だろう。それに、奴隷を買いに来る人々の中には、奴隷に靴を履かせたい者もいるだろう。
「ありがたい。すぐに見本用に二、三足持ってくるから、先に査定してくれるか?」
「なんだ、資金繰りに困っているのか?」
「ああ、それもあるが、物は新品といっていいほど状態がいい。それが五十足だからな、少しでも高く売りたい」
「なんか面倒くさいな。まあいいぜ、持ってきてくれ」
タカシは急いで家に取りに帰り、靴三足をサイロンに渡した。
「こりゃすげーな。中古というより新品じゃねーか」
サイロンは靴を調べ、匂いをかぎ、新品だと判断した。
「どうだろう?これと同じものが合計で五十足だ。職人の腕も悪くなく、一分の狂いもない同じ靴だろ?」
「ああ、そうだな」
サイロンは不思議そうに革靴を色々と調べる。
「中古の買い取り価格でいいので、下取りしてくれると助かるのだが……」
「これなら多少色はつけられるが、奴隷商は靴屋じゃないからな……うーん。まあ、いいぜ。この靴は預かっていいのか?」
「ああ、もちろんだ。物は五日後で、これと同じ状態の靴が五十足だ」
「期待せずに待っててくれ」
サイロンはにやりと笑った。
タカシは家に帰り、シャロンに買い手が決まったと伝えた。
「五日後に靴五十足揃えてくれ。それを売った資金でディオス領に行くから、六日後にここを引き払って出発だ」




